表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢と夢 ~自我に問え~  作者: 神果みかん
短編集 1話~6話 番外編
7/18

「夢⑥」遮光幕

「夢⑥」遮光幕

私は今日、死ぬことにした。


朦朧とする意識を重々しく抱えながら起き上がる。

自室は明かりを付けないまま、遮光カーテンから漏れる月明りが室内を照らす。

寒さに身を震わせながら、数歩前に歩んで机を目指す。


「ん‥‥」


その途中で、頭に何かが触れた違和感を持つ。

顔だけで上を向いてみると、白い縄が輪っかを作って滑稽にぶら下がっていた。

所謂【首吊り】をできるように吊るされた簡易的な縄。


放心


縄を見ていると、これから自分が成すことに対して多少の恐怖を抱く。

だが、その恐怖に打ち勝つぐらいの覚悟を持っている彼女は強くなる鼓動を沈めながら歩みを進める。

縄を頭で押し伝っていき…力を失って自由に宙を揺れ動く。

その光景に目をくれず、歩みは机の前で停止する。


胸騒ぎ


正面には一昔前のノートパソコンと、切り刻まれた後のペンタブレットが無造作に置かれている。

横を見ると【倉田くらた 心櫻こころ】と名前の書かれた教科書の類が縦に積み重なっている。

そんな私が本当に女性なのかと思わせるぐらい汚い机に目を落とす。

まさに私は…女性らしくない。

そんな私を家族は認めてくれなかった。


厭悪


「女性らしく生きなさい」

そんな無理難題を突き付けられる日々。

固執された固定概念の押し付けは、私の最も身近な場所で起きていた。

「正しく生きなさい」

母も父も…ありのままの私を受け入れてくれなかった。

女性らしさって何?

正しさって何?

そんな質問を投げ掛ける度に、親の顔は曇るばかり。

そして、時には落雷すらも落ちる。


「そんなのやめなさい」

ずっと否定されてきた。

自分の生きる道を見つけても…そのたびに蹴落としては人形として扱われる。

そんな現実が嫌で、部屋の扉の鍵を締め切った。


憎悪


「きもいから近づかないで」

軽蔑の鋭い眼差しが私の目に映る。

ありのままの私を打ち明けた時、何もかもが崩壊していった。

水を掛けられて濡れた制服

落書きされた廃棄寸前のような椅子・机

誰もが、その光景に目を逸らした。

私は置物サンドバック同然のように扱われていった。

その時から、どんな声を掛けられようともシャットアウトして避けるようにした。


だが、惨劇はヒートアップ

私の膝には紫色のアザができてしまった。

どうやら、階段から突き落とされたようで…一つの居場所は消え去った。

そんな現実が嫌で、部屋の遮光カーテンを閉め切った。


唾棄


「才能が無いですね」

見知らぬ人からの一つのコメント。

その一言で、私の心は嫌悪感で埋め尽くされていった。

できる限りの反論をして、このモヤモヤを晴らしたかった。

だけど…心無きコメントは増えるばかり。

いつしか

「小学生はアカウント作るなkswww」

そんな人格否定なコメントの波が押し寄せるようになってしまった。

いつしか私は、燃え上がる炎の中心点に立たされていた。


私の作品に悪戯をする者

私の黒歴史を晒す者

私の個人情報を晒す者

そんな醜い人間ばかりが、私を取り囲んで嘲笑うかのようにして吐き捨てていく。

誰も、私の存在を受け入れてくれなかった。


「…っ」


大粒な涙が一粒

机に落ちては服の裾で拭う


私は死ぬべき存在

こんなクソみたいな現実から、消えて楽になりたい。

そんな願望ばかりが心に積もっていく。


だから私は…


今日、死ぬことにした。


机に置いておいたスマートフォンを手にして、電源を一度入れる。

暗い部屋の中…一筋の明かりが目を突き刺す。

震える指で99件が表示されているアプリを起動させる。


「貴方たちのせいで私は死にます。さようなら」


右上の青いボタンを押して予告をする。

これですべてが終わる。

少しの脱力感に駆られて、机に左手を付いて俯く。


悔しい。

あんな奴らに負けることが。

でも、仕方が無いんだ。


苦しみから解放される為には…こうするしか無いんだ。


すると、右手で持っているスマホからバイブレーションが伝わってくる。

ふと画面を見てみると…アプリからの通知が一つ。


【私…貴方の作品が好きなんです。私は…いつまでも待ってます】


その一言は、慰めでもなく同情でも無い一言

私への応援のコメントだった。


「‥‥」


私は一粒、また一粒と涙を零してしまった。


今日私は死ぬ。


そう決めた筈なのに…脳内で感情がぐしゃぐしゃになって、一言を何度も呟く。

「私は死ぬ。私は死ぬ。私は死ぬ。私は死ぬ。私は死ぬ。私は死ぬ。私は死ぬ。私は死ぬ…」

揺らいでしまう心を制御するように、自己暗示を掛けて落ち着かせようとする。


そうだ…今更遅い。

もう、私は死ぬんだ。


「‥‥‥っ!」


早いうちに死なないと、この思いも続かなくなってしまうかもしれない。

だから、急がないと。


机に閉まっていた椅子を取り出して、さっきの縄の下に配置する。

そして…足を片足づつ乗せて、椅子の上に立ち上がる。


目の前には輪っかを形成する縄が、微動ながら揺れている。

その縄を頭から通して、一つの首に掛ける。


鼓舞する心臓

恐怖、憎悪

そして、現実


遂に…私を苦しめるものから解き放たれる。


さようなら。


憎い世界。


「心櫻さぁぁぁぁん!!!!!」


「‥‥‥っ!?」


誰かが大声で、私を呼ぶ声が耳に入る。

刹那、椅子を蹴飛ばそうとした足が動かなくなる。


「今までごめんなさい…心櫻さんが酷い目に合ってるのに…何もできなかった…!何かをする勇気が無かった!!!俺は‥‥!心櫻さんの事が!!!」


「‥‥!」


「好きだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


脳裏で響き渡る突然の告白。


私が苛めを受けている時…何度も目を逸らしてきたくせに…

何で…何で、今そんなことを言ってくるのかな…。

折角、死のうとしてたのに…


すると、今度は別の人が話を始める。


「今まで…バカにしてごめんなさい…!私ね…心櫻ちゃんに嫉妬してしまったの…そしたら…あんな酷いことをしてしまった…。許せないのは分かってる…だけど、、だけど!!!もう一度だけ…知り合いからやり直させてほしいの!!!もう、心櫻ちゃん無しでは…生きていけないから!!!!」


外から聞こえてくる、かつての親友の声。

私が心を許せる筈だった…唯一の存在。


そして、声は徐々に増えていく。

聞き覚えのあるクラスの人からの声が聞こえてくる。


「帰ってきてくれ…!心櫻ちゃん!!!」

「心櫻さんの席、俺が綺麗にしておいてやるからよ!!!」

「心櫻ちゃん!!!カーテンを開けて!!!」


「「「「「「「「「「心櫻ちゃん!!!」」」」」」」」」」


何でかな…


これじゃあ…死ぬことができないじゃん…


目を見開くと、部屋の中が真っ白になっていた。

色の無い世界。

その部屋を遮光カーテンから漏れ出す太陽の明かりが照らす。


無言で首にかかっていた縄を外して、椅子からゆっくりと降りた。


溢れる涙を拭いながら

遮光カーテンを両手で開け放つ。


窓から、暖かい陽が差し込んで部屋と私を包み込む。

眩しさを手で隠しながら外を見てみると…


カラフルな色で満ち溢れた世界が目に映った。


全ての景色が様々な色で包まれていて、一つのアート作品みたいな景色。

家も電柱も木も花も

多色の色彩で塗られて彩られている。


私は私を塞ぎこんでいた…。

だけど…世界はこんなに色で満ち溢れていたんだと。

久しぶりの太陽の光に照らされながら、気づかされる。


魅入る私は下に視線を向けると、クラス全員が家前の道を塞いでいた。

だが、全員笑顔に見えた。

ある人は、プラカードを掲げていた。


【俺たちは待ってるよ。心櫻!】


その言葉を読んだ私は震えながら、窓の前で座り込む。

涙を流しながら俯いて…一つの覚悟を決めた。


もう…私は負けない。

私を求めてくれる人が居る限り、私は生き続けたい…!!!!


その言葉は脳裏に迸るようにして心に刻まれた。


‥‥‥‥


‥‥



「起きなさい!!心櫻!!」


「…っ!?!?」


突如、母親の言葉によって意識が覚醒する。

開かれたカーテンの窓から差し込む陽が私を照らしている。

重い体を起こしながら、目を見開いた。


すると目の前に居た母親は、私の作った縄を持ちながら悲しい顔をして


「ごめんなさい…心櫻」


「え…?」


突如、謝罪を一言述べた。


「私…心櫻の事を守りたいから…あんな事を言ってしまったの…だけど…自殺をしたい程、嫌だとは思わなかった…これじゃあ…母親失格よね…」


泣きそうな顔で自分の言ってしまった事を悔い改める。

その声に返すようにして


「‥‥良いよ。お母さんは…私を守ろうとしてくれていたんだと知れて嬉しい。だけど、私…人間らしく生きていきたいから」


「‥‥分かったわ…。貴方の好きなように生き方を全うしなさい…。私もお父さんも協力するわ」


「ありがとう、お母さん」


笑顔を交わす二人。

そうして、鞄に積みあがっていた教科書を入れていると…横から一言聞こえてくる。


「学校…無理して行かなくても良いのよ…?」


「ううん…心配しないで、お母さん。私はもう…誰にも負けないから」


そう言って、目を見合わせる。


「そう…じゃあ、準備できたら降りてきなさいよ。朝ご飯、できてるから」


「わかった」


そう言って、母親は部屋から退出して私一人だけになる。


すると、スマートフォンのバイブレーションが何度も鳴り響く。

ホーム画面一杯に、通知が埋め尽くされていた。


【ワイは、応援してるぜ!!負けんなよ!アンチなんかに!】

【あんな奴ら気にすんな!!】

【これだけ有名になったって事だろ!いつまでも待ってるぜ!】


【【【俺たちの絵師様!】】】


その通知を見て、不敵な笑みを零した。


「‥‥新しいペンタブ、買わないとな」


一言を残して、制服に着替えて鞄を背負う。

すると、鞄の下から一つのメモが床に落ちていく。


そのメモを拾い上げて、読むと


【貴方はどんな色を描く?】


とだけ書かれていた。


再び笑みを零して無言でメモを机に置き、扉を開けた。


解放


光の先へ

彼女の姿は存在し続けた。


ー本当の自分を愛してくれる人と共にー

ー貴方は何を描く?ー


どんなに辛く耐え難い日々があろうと、太陽は誰にでも昇る。

その光に手を伸ばすも、伸ばさないも自由。

だが、カーテンを開けた先には“まだ見ぬ世界”が待っているかもしれない。


さぁ、貴方はどうする?


☆ ☆ ☆


こんみか!神果みかんです!!

夢と夢も7作目になります♪

まぁ…実は完結させる案を少し前に打ち出していたんですけど、この小説集は【永遠に完結しない】というのもまた良いのではないか…?という結論に辿り着きました。

なので、私が死んだ時が完結だと思ってください!!!

この小説が、貴方の心にどのような影響をもたらしたのか…それは私にもわかりません!

ですが!きっと、良い物になったのでは無いかと信じています♪


では!神果みかんでした~♪

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ