「夢⑤」星の数
「夢⑤」星の数
気が付くと俺はそこに座っていた。
『キーンコーンカーンコーン』
授業開始を告げるチャイムが鳴り響く。
「‥‥あれ!?ここは…?」
現在の状況を脳内で整理するとこうだ
俺は今、普段登校している高等学校の教室内に居る&普段使っている席に座っている。
いつもなら、これが日常的な光景なのだが
今の俺にとってはありえない光景だ…
何故なら、俺の記憶が正しければベッドの上で目が覚める筈だからだ。
記憶違いだろうか‥‥?
だが、違和感が他にもある。
周りを見渡すと、普段なら騒がしい人たちが揃って静かで、前を向いている。
これほど俺にとって不気味だと思わせる事は無い。
そうしてキョロキョロとしていると、前の教卓に立つ先生が喋り始める。
「はい、今日は道徳的授業の一環で【夢】を各自で決めて書いてもらいます。」
手元を見ると、いつのまにか【夢を決めよう】という用紙が配られていた。
いつのまに…?と思いながらも、無意識にペンを取って字を書く体制になる。
「‥‥‥。」
だが、ペンが動かない。
字が何も書けない。
何か金縛りがある訳でも無い。
身体は自由に動かせる。
そう、これは俺の問題によるものだ。
「俺は‥‥何を夢に抱いて進んできたんだろう‥‥」
俺は、自分の夢を忘れていた。
小学生の頃から、一つの夢だけを抱いて進んできた筈であった。
だが、いつのまにか俺の記憶から消えていた…。
俺は‥‥何をしたかったんだろうか。
『キーンコーンカーンコーン』
結局何も書けないまま、授業の終わりを告げるチャイムが無情にも鳴り響く。
下校時間らしく、俺は荷物を纏めて学校の校門を出た。
未だにこれが夢なのか現実なのかハッキリしていないが、普段通り過ごしてみる事にした。
そうすれば、何かわかるかもしれないからという適当な判断だ。
そうして普段通りの通学路を下校していると、いつも通りの交差点に差し掛かる。
この交差点は、小学生の時から使っているので実質12年間通っている道だ。
だが、俺はもう高校3年生…
大学・就職・専門学校のどれを選んでも、この交差点は使わなくなる‥‥。
「そっか…この道も通らなくなるんだな…。」
すこし、寂しい気持ちになりながらも、赤から青に変わる瞬間の信号を一目見ようと視点を上げようとした。
その瞬間‥‥‥
「え‥‥!?小さい時の…俺が居る!?」
そう、小学生6年の時の俺と当時恋人だった同級生の彼女が、隣で信号待ちをしていた。
突如として目の前に現れる、懐かしい光景…。
‥‥人違いかもしれないので、俺はそっと見てみることにした。
「俺の夢は、宇宙に沢山ある星を掴む事なんだ!」
‥‥星‥‥?
「凄い夢だね…カッコいい!!」
「だろ??そして、あの星をこの手に掴んで、お前にプレゼントしてやるよ!!」
待てよ‥‥星って‥‥
「そっか‥‥待ってるね」
その刹那の瞬きで、二人は消えていた。
「‥‥星を…掴むこと…」
その言葉を口にすると、一気に記憶が脳内に溢れてくる。
全てが…蘇ってくる。
小学生の時の参観日の発表の時
「俺の将来の夢は、星を掴むことです!こんなに広い空があるのに、一度も掴んだことが無いからです!」
俺は、クラスの生徒全員に公言していた。
「立派な夢ですね、先生は応援していますよ」
と、背中を押してくれた先生の存在が居たこと。
だが、中学生になってからは
小学生からの友人からは
「まだそんな夢持ってたの?子供っぽいからやめろw」
と。
中学で友達になった友人からは
「うわ…キチガイだ…妄想癖も大概にしろよ?」
と。
中学の先生からは
「確かに夢を持つのは良いが、そろそろ無理なんだと気付けよ。先生はお前が道を間違えて欲しくないんだ。そんな夢、忘れなさい。」
と。
俺の夢は悉く否定されて、いつしか夢を持てなくなってしまった。
そして、夢を持たずに現状を適当に過ごしていたんだ‥‥。
それら全てを思い出しながら帰宅する。
自室に入り、制服から普段着に着替える。
そして、ベッドに腰かけて座り込む。
「…‥‥。」
思い出した事柄を整理しながら、今までの自分の不甲斐なさに涙を零す。
俺は大切な約束も、信念も忘れしまっていたんだ‥‥と。
彼女とは中学2年の時に別れて、友達とも付き合いが悪くなっていって…
最期には、一人ぼっちだった。
だから、俺に味方は居なかった。
その寂しさを埋めたくて夢を捨てた。
自分を捨てて手に入れたのは、笑って過ごせる友人。
だけど本音で会話ができず、ずっと心に自分を仕舞い込んでいた。
そんな、薄っぺらい人付き合いばかり…
だから、俺は一人のままだった。
今更、夢を思い出したとしても
俺には、その夢を叶える為の力も信念もない。
いつのまにか、自信も勇気も失っていた‥‥
「だから、俺には無理なんだ‥‥。」
ポロリと出た言葉
俺の心は、知らない間に朽ち果てていたのかもしれないな‥‥。
そうして考えていると
親の俺を呼ぶ声が聞こえて、涙を拭い、自室を後にしてリビングに向かう。
親は手招きして、テレビを見るように促している。
そのテレビに目を向けると…
速報のニュース番組がやっている。
『速報をお伝えします。地球に謎の小型隕石が落下しています。この地にお住いの方々は十分にご注意ください。』
小型隕石‥‥?
これは危ないな‥‥宇宙の星が落ちてきてるなんて、頭に当たったら大変だ‥‥。
そうして立ち尽くしていると、母が口を切る
「…行ってきなさい。」
「‥‥‥へ?」
「ずっと言ってたでしょ、小さい時に『星を掴むんだ』って。きっと、河川敷の草むらに落ちる筈よ。」
お母‥‥さん?
それは‥‥いくら何でも無茶苦茶だよ‥‥。
「でも‥‥」
「私が、いつあんたの夢を否定したの?私は、あんたの夢なら何だって応援するよ。」
‥‥あれ‥‥おかしいな、涙が…
「…お母さん」
‥‥俺は、、もしかしたら一人では無かったのかもしれない。
だって、俺の傍には一番の理解者がいるんだから…。
俺は、間違っていた。
勝手に自分を孤独にしていた‥‥。
だから、一番大切な人の事を忘れていたんだ。
だから
「行ってくるよ、俺」
俺は、即座に玄関を飛び出して行った。
真上を見ると、流星群のように星が流れていくような幾星霜の輝く星々。
引き込まれる程綺麗な空を見上げながら、普段と違う通学路を走る。
俺は間違っていた。
人に流されたのではなく、自分で夢を諦めていたことを。
信念を貫けるような強い心を持っていなかったんだと。
それ程、俺の心は弱かったんだと。
だけど、これで知った。
俺は一人じゃない。
そして、俺の夢は誰にも描けない。
だから
俺の‥‥!
「俺の夢は、星を掴む事だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
手を受け皿にして、河川敷の草むらにダイブする。
すると、、一瞬だけ
虹色に光る星が、両手に乗るのが見えた…
‥‥‥
‥‥
‥
「はっ!?」
ベッドを跳ね除けて飛び起きる。
朦朧とする目を擦りながら、自室に居ることを確認する。
「夢‥‥か‥」
でも、夢の内容はハッキリと覚えている。
俺にとっての、大切な夢の事を。
…ふと時計を見ると
「おわ!?遅刻する!?!?」
そう、登校完了時刻が迫ってきている。
慌てて教科の準備をして、制服に着替える。
「さっきも学校行ったのに、なんか不思議だなぁ…」
そんなことを言いながら、机に忘れていたプリントを手に取る。
すると、あの時のプリントが置かれていた。
更に【将来の夢】欄には
『星を掴む。』
と、書かれていた。
「自分で書いてないのにな…でも、書き換える必要は無いな。」
そして、裏にも何かが書いてあるようなので見てみると、
そこには
【星は自分で掴め。選び、信じ、進んだ先で、きっと星は輝きを見せる。】
と。
「俺…やるよ。頑張るよ。」
覚悟を決めて部屋を後にする。
彼は、いつもと少し違う通学路を歩んでいく。
「」を変える為に・・・
「」の部分は、自分で入れてみて下さい。
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