「夢⑬」大丈夫
「夢⑬」大丈夫
【キーンコーンカーンコーン…
6時限目の終わる陽気なチャイムの音が、騒がしい校内や閑静な校外の中に割って入る。
終礼が終わった頃には、まるで何時もと同じように有象無象な騒がしい人だかりによる歓談・叱咤の声で溢れ返り始める。
何故こんなにも煩い場所で、イヤホンの着用・保持を認めて貰えないのか…何度も気がかりになってしまう程だよ。
まぁ…でも、こんな場所でイヤホンなんて付けてたら、、
「ねぇねぇ、未心ちゃん!」
「‥‥ん?なぁに?」
こんな風に、声を掛けられた時に反応できる自信が無いかもね。
「今日も一緒にか~えろ!美味しいクレープのキッチンカーが近くに来てㇽらしいから食べて帰らない?」
「あ!良いな~、そㇾ私も行きたかったんだよね~…今日くらい部活サボっちゃおうかな、、ねね、未心ちゃん!私も行って良いかな!?」
「 うん!良いよぉ~」
…如何にも女子高生って会話だよね。
入学して当初から、私には2人の友達が居るんだ。
色んな趣味を分かち合ったり、色んな場所に旅行に行ったり、、何気ない会話を繰り返したりして…凄く居心地が良い居場所なんだ。
何も考えなくて良くて、何もかもを忘れ去る事ができる…。
そんな大切な居場所。
「 ね、未心もそう思うでしょ?」
「あ、うん!そぉだね~」
「え~嘘ぉ…」
と言っても
歩道を歩いてる時は毎回
私が二人の後ろを歩いてるんだけどね。
大体の二人の話し声は、他の有象無象共の生活・日常的・排他的雑音のせいで何一つ聞こえてこない。
「あれ~…おっかしいなぁ…確か、この商店街付近だったと思うけど~…?」
「そのグルグルマップ、バグってるんじゃないの?」
「そんな筈は無いんだけど~…ね、未心ちゃん、、この場所、分かる?」
「えっとねぇ~、確かこの場所の付近にあるエイトイレブンは駅の近くだったし…商店街とは逆の方面…って、あれ?そういえば、ナビを設定すれば分かりやすく着くんじゃないの?」
「あ‟た…確かに…!それに気づくとは…流石、未心ちゃん!」
「よっ!未心ちゃんこそ日本一!」
「えへへ…ありがとぉ~、でも外だとちょっぴり恥ずかしいかなぁ…」
私、とっても幸せで恵まれてるんだなぁ…。
この二人が友達で本当に良かった。
えへへ。
夕日が傾き始めて、スーツを着た大人らが其々の家へと帰っていく様を尻目に、私含め3人は無事クレープキッチンカーに辿り着けた。
イヌスタグラムで話題らしく、数人がスマホを片手に持って写真に撮り続けていた。
私は…イヌスタグラムなんて、やってて意味があるのか分からないから特にやってはいないんだけど…。
「見てみて~、めっちゃ可愛く盛れた~!」
「こっちだって、劣ってはいないよ!」
見ての通り、二人はご執心のようで…
そして毎回のように…
「あ!未心ちゃんのクレープも美味しそぉ、、ねぇ、」
「良いよぉ、撮っても」
「流石!分かってる~!じゃあ、遠慮なく~!」
「あ、ズルい…私も撮らせて~!」
こうなる。
まぁ、いつもの事だし…今更どうでも良いんだけどね。
「ごめんね~、もう食べても良いよ~!」
やっと戻ってきた…。
…ん、、生地が少し冷めてる、、このお店の売りは≪作り立て≫なんじゃなかったっけ?
まぁ、別に、、中のフルーツには温度とか無いだろうから…まだマシかな、、。
うっ…甘すぎ、、この生クリーム…私の嫌いなタイプのやつだ…最悪‥‥。
「んん~!これ美味しいよね!流石、イヌスタで大流行りㇱてるだけあるわ~」
「甘党大歓喜ってやつだよね!このクリーム…美味しいなぁ、未心はどう!?」
「 うん!私も美味しいと思うよぉ~!」
「やっぱㇼそうだよね!これは…新しいクレープの時代がくるな!」
…うん、これは美味しい。
美味しい、美味しい、美味しい、美味しい…よし、、ッ…。
はぁ…
何やってんだろ。
夕日は沈み、闇が街を包み込み始めた頃…。
「じゃあね~また明日~!」
「気を付けて帰るんだよ~未心~!」
「うん!またあしたねぇ!」
二人と別れを告げて、暗闇が覆う歩道の無い道路脇を歩いて帰り道を辿る…。
ほぼ車通りも無くて、民家も少なくて、、木と道とガードレール以外…殆ど何もない場所…。
本当に『何も無い』場所。
小学校の頃はずっと怖くて、この近くまで親が迎えに来てくれてたんだけど…中学生になってからは、どうでも良くなった。
幽霊も、心霊も、全てが幻想の産物で、こちらから見えていないのだから、何でも無くて無害。
そう思うようになってから、この夜風に当たって蠢く木々も、囁きだす葉も、単なる心地良いBGMと同義だと、そう感じる。
この時間が、私は一番好きで…一番嫌いでもある。
「ッ‥‥う‥‥ハァ‥‥ハァ…」
私の手が、
無意識に
喉元に回る。
呼吸が乱れて
嗚咽を繰り返して
何度も 何度も
握る手は強くなったり、弱くなったり
時に離して
フラっと崩れる身体を立て直して
また
嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。嘆く。
不思議と痛くない。
だってとっ く に 慣 れ て る か ら 。
あぁ…
今日も 家に 着いちゃう…。
笑え、私。
‥‥「ただいま、お母さん」
「お帰り~、今日も遅かったけど、どこか行ってたの?」
「うん、今日は友人とクレープを食べに行ってたよ、これ送ってもらった写真」
「美味しそ~、今度、そのクレープ屋さんに私を連れてって」
「え‥‥一緒に行くのは‥‥」
「なんで?私も食べてみたいから~、、ね?」
「 うん、分かったよ…今週のお休みになら…」
「やった~、、それと、担任の先生から電話が来てたけど…進路希望調査、まだ出して無いんだって聞いたよ?」
「 あー…それは…」
「早く出さなきゃ、私だって必要な費用とかを計算しなきゃいけないんだから…行きたい学校、調べてるの?」
「 うん!それは勿論…」
「じゃあ早めに出しときなさいよ~、ただでさえそう言うの忘れっぽいんだから、、何度も言ってるけど…早めに出す事を心がけなさいよ?」
「 うん 。 」
「少しでも改善できるように頑張りなさいよ、他の子だってできてるんだから、ね?」
「 うん 。 」
「しかもこの前のテスト結果なんて、数学が赤点…嫌いなのは分かるけど、もう少しくらい点をあげれなかった?」
「 」
「何で黙ってるの?」
「泣いても解決しないよ?」
「責任を持ちなさいよ、もう大人なんだから」
「他の点が良くても、赤点が一つあるなら意味無いよね?」
「どうして分からないの?」
「 私は馬鹿だから…」
「そうよ、貴方は馬鹿よ」
「そのままで生きていけると思っているの?」
意識が少しずつ遠のいていく…。
溢れる涙を、一粒…また一粒と拭う感覚を覚えながら…。
…キーンコーンカーンコーン】
「ッ‥‥あ…れ‥‥夢、、?」
6時限目の終わる陽気なチャイムの音が、騒がしい校内や閑静な校外の中に割って入る。
意識がぼやけながら…伏せていた顔を起こす‥‥
が、力が入らない。
「なぁ、未心」
「‥‥」
「また数学の時間に寝てるんだ、、ほんっと流石の余裕だよね」
「また赤点取るのにね~?そんなに嫌いなら、文系専攻行ったら良かったのに」
「し!起きたらどうすんの?ん~…でもこのままじゃ、イヌスタに上げるクレープをうちらのどちらかが二つ食べる事になっちゃうよ?」
‥‥聞こえてる‥‥なぁ…。
このまま起き上がらない…訳にも、いかないよね…。
「お、起きた起きた、って事でクレープ食べに行こ、未心」
「未心さん、確かソフトテニス部だったよね?今からでも、休むって報告してきて欲しいな?」
「‥‥う、、うん!大丈夫だよ…じゃあ、校門前で待っててね!」
でも…私が我慢すれば
二人とも、私のお友達で居てくれるんだ。
えへへ。
いつの日か私達は
「大丈夫」が口癖になっていたんだ。