「夢⑪」缶珈琲
夢⑪「缶珈琲」
‥‥。
「では先輩!お疲れ様です~!」
「お…おう…」
【何度でも思い出して欲しい、貴方を大切に想ってくれた仲間達の事を】
いつからだろう、この世界に対して反感を持つようになったのは。
街を・人を睨みながら歩くようになったのは。
未来が怖くなって、痛みや苦しみから逃げ出して
何も考えないようにして生きて
流されるままに過ごしてきた数年間
流れ着いた先で俺は
何を得た?
結局、何一つとして前の自分から変わらない≪後悔≫が俺を支配して…いつしか…消える事の無いタトゥーのような…レッテルのような…。
そんな、永遠に縛り付けてくるような感情で渦巻いている地獄を、無意識下で生きている。
幸せなんて果敢ない夢のまた夢の上。
こんな人間を誰が好むだろうか?
こんな人間を誰が…
幸せに導いてくれるだろうか?
。
鉄が擦れ合う音が微かに耳を残響し‥‥消えていく…。
そんなリズミカルで、少々不快に思える音が少しずつ耳に強く残るようになっていく…。
次の音で彼は
「‥‥はっ‥‥!?」
ふと目を見開いて、我に返る。
「‥‥っこ、ここは…?」
見覚えのあるような景色。
煌びやかで、壮大な山々。
匂いすら感じられるように一面生い茂った草の地平線。
そして
腐敗した人間のような姿をした化物の数々。
「え‥‥?」
気味が悪く、人の姿をギリギリで保っているだけに過ぎない生物。
辺りを見渡そうとも、次々に押し寄せてくる化け物は…彼を囲むかのように陣形を作ろうとしているように見える。
彼は、機能が一時停止した脳を抱えながら状況整理をしている最中
「おーーーい!!」
「‥‥っ?」
後ろから、一人の少女が手を振っているのを認識する。
「なにボーっとしているんですか!早く化物達の動きを沈めてくれないと、この先何が来るか分からないんですよ!!」
「化物…達…?沈める…?」
「私が魔方陣を形成している間に、前方は蹴散らして貰わないと、、困りますよ、、!」
「‥‥っ!?」
彼は片隅にあった【記憶】を一つ手繰り寄せ
『私、貴方のこと…
再度、目を見開いた。
「任せろ、、はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっっっっ!!!!!!」
剣を握り直し、敵に向かって飛び出して行く。
刹那
一体、また一体と、確実に一度の断裂のみで切り倒して進んでいく。
「動ける…!動けるぞ…!あぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
何かから解放されたかのような雄たけびを発し、剣や己に幾度も液体を付着させては、振り払っていく。
そこに羞恥心も、罪悪感も、存在していない。
ただ無我夢中で駆け抜けていく、彼の
本当の姿がそこにはあった。
「行きますよーーーー!避けてくださーーーーい!!」
後ろから少女の声。
彼は、まるで息を合わせたかのようなタイミングで攻撃を中断して、退避する。
「雨の降りし夜の地に、傘を差さずして道を行く、若き人々に希望の光を…」
「絶唱」
化物の存在は塵一つ残さず、消滅した。
‥‥。
「‥‥はぁ…さむっ…ううぅ、手が凍えそうだよ…」
夜空の下
草木が風で靡く景色の中に
少女と彼は一つ空間を開け、隣通しで座り込んでいた。
「そうだね…もう、季節は冬になるのかな…」
「もーまた、別の世界の言葉と混同していますよ…!」
「そっか…こっちの世界だと≪凍≫だったな…あっはは…」
「しっかりしてくださいよ?貴方は一応…立場上では勇者として、国を守る英雄になって貰わないと困るんですから…!」
「はーい、分かってるよ」
「本当ですか?全く…」
風に靡かれながら
二人、少しずつ流れていく空を見上げ、
「‥‥」
「‥‥」
ゆったりと時は流れていく。
一切、時間を感じる事の無いままに。
「…ほらよ」
ある物体を少女の首元に触れさせる。
「ひゃん…何これ…暖かい…?」
可愛い反応と共に、その物体を手に取る少女。
「俺の特別な魔法、向こうの世界で存在する物を取り出せるって技、使ってみた」
「これって…?」
「仕方ねぇな、ほら、もう片方の手、出してみ」
バックハグのような体制になり、少女の寒さで縮こまった手をそっと握る。
「え、ちょ、、、!きゅ…急にどうしたのデスカ…!?」
「ほら、使い方…説明してあげる」
「う、、うん」
「ほら、この二つ穴が空いてる部分を持って」
「持って?」
「引っ張る!」
「引っ張る…!」
無機質な音が小さく響く。
「そして元の位置に戻したら…あら不思議、飲み物が出てきました~」
「良い匂い…ねぇ、飲んでみても良いですか!?」
「良いよ…俺も一緒に飲もうかな」
お互い口に含んで、少し覚ました後に喉へ流し込む。
「暖かいけど…これ…少し苦いです…」
「あ、間違えて珈琲を取り出してしまったか?おかしいな…ココアを出した筈なんだが…交換しようか?」
「いえ、大丈夫ですよ!」
「無理しなくても良いよ…?」
「大丈夫です、私が貰った物なので頂きますよ!」
「そ…そか…」
「それよりも」
「‥‥?」
少女は笑顔で
「貴方と一緒に同じ物を飲んでいるこの時間が、私にとってはとても大切なんです」
「‥‥」
「そして」
「‥‥っ!?」
肩が触れ合う距離まで、少女は身を寄せる。
「貴方が持つ本当の笑顔を特等席で見る事ができる一時…それが、、私にとっての幸せなんです!」
温められていく身体。
強まる鼓動。
彼は、ある事を思い出しながら…
「そっか…向こうの世界だろうと、異世界だろうと…ずっと変わらないものはあるんだな…」
冷たい風が瞳に突き刺さる中
少女は彼に…
『私、貴方のこと…絶対忘れませんから』
身を乗り出し、証を刻む少女。
頬を赤らめるが…真っ直ぐな瞳。
そんな少女の笑顔が…
…少しずつ…
…霞み…始め…
。
「はぁ…」
暗闇に包まれた寒い夜道を一人辿る。
「またミスしてしまった…こんな俺なんてどうせ、、社会不適合者なんだろうな…」
‥‥
「どうせ…このまま生きてても良い事なんて無いよな…はぁ~死のうかな」
…ト…ト
「ま、どうせ死ねないんだよな、結局死ぬのが怖くて生きてしまう」
…トタ…トタ…
「そしてまた、自分のせいで人に迷惑を掛けて、怒られて、また心を殺される…」
トタトタ‥‥
「もう嫌だ…死にたい…」
トタトタトタトタトタトタトタトタ
「隙ありーーーーーーーー!!!!!!!」
「あっつ……!?!?!?」
「もーーー先輩隙だらけですよ?このままだと、白線上でボールを蹴ったとしても審判ミスされちゃうかもしれませんよ???」
「いや、、関係ないでしょ、それ」
「ナイスツッコミ最優秀賞受賞!って事で、お祝いの缶珈琲プレゼントです!後輩ちゃんの差し入れですよ???受け取ってくれますよね????」
「うっせー、近所迷惑だコラ」
「と言いながらちゃっかり受け取るあたり好感度爆上げですよ!も~、先輩ってばツンデレ~」
「はぁ…まぁ、美味しく飲む事にするよ」
「おぉ、良かったぁ…」
「‥‥?」
‥‥。
ー仲間は、何処に居ようと貴方の傍にー
大丈夫。
貴方の傍にはきっと、いや、必ず大切な存在が居る。
居ないと言うのならば…
俺が大切にしてやる。
生きていこう。
共に、この世界を。




