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夢と夢 ~自我に問え~  作者: 神果みかん
短編集 8話~
13/18

「夢⑪」缶珈琲

夢⑪「缶珈琲」

‥‥。


「では先輩!お疲れ様です~!」


「お…おう…」






【何度でも思い出して欲しい、貴方を大切に想ってくれた仲間達の事を】






いつからだろう、この世界に対して反感を持つようになったのは。

街を・人を睨みながら歩くようになったのは。


未来が怖くなって、痛みや苦しみから逃げ出して

何も考えないようにして生きて

流されるままに過ごしてきた数年間


流れ着いた先で俺は

何を得た?


結局、何一つとして前の自分から変わらない≪後悔≫が俺を支配して…いつしか…消える事の無いタトゥーのような…レッテルのような…。

そんな、永遠に縛り付けてくるような感情で渦巻いている地獄を、無意識下で生きている。


幸せなんて果敢ない夢のまた夢の上。

こんな人間を誰が好むだろうか?

こんな人間を誰が…



幸せに導いてくれるだろうか?





鉄が擦れ合う音が微かに耳を残響し‥‥消えていく…。

そんなリズミカルで、少々不快に思える音が少しずつ耳に強く残るようになっていく…。


次の音で彼は


「‥‥はっ‥‥!?」


ふと目を見開いて、我に返る。


「‥‥っこ、ここは…?」


見覚えのあるような景色。


煌びやかで、壮大な山々。

匂いすら感じられるように一面生い茂った草の地平線。


そして



腐敗した人間のような姿をした化物モンスターの数々。



「え‥‥?」


気味が悪く、人の姿をギリギリで保っているだけに過ぎない生物。

辺りを見渡そうとも、次々に押し寄せてくる化け物は…彼を囲むかのように陣形を作ろうとしているように見える。


彼は、機能が一時停止した脳を抱えながら状況整理をしている最中


「おーーーい!!」


「‥‥っ?」


後ろから、一人の少女が手を振っているのを認識する。


「なにボーっとしているんですか!早く化物達の動きを沈めてくれないと、この先何が来るか分からないんですよ!!」


「化物…達…?沈める…?」


「私が魔方陣を形成している間に、前方は蹴散らして貰わないと、、困りますよ、、!」


「‥‥っ!?」




彼は片隅にあった【記憶】を一つ手繰り寄せ



『私、貴方のこと…



再度、目を見開いた。




「任せろ、、はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっっっっ!!!!!!」

剣を握り直し、敵に向かって飛び出して行く。


刹那


一体、また一体と、確実に一度の断裂のみで切り倒して進んでいく。


「動ける…!動けるぞ…!あぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

何かから解放されたかのような雄たけびを発し、剣や己に幾度も液体を付着させては、振り払っていく。

そこに羞恥心も、罪悪感も、存在していない。

ただ無我夢中で駆け抜けていく、彼の


本当の姿がそこにはあった。


「行きますよーーーー!避けてくださーーーーい!!」


後ろから少女の声。

彼は、まるで息を合わせたかのようなタイミングで攻撃を中断して、退避する。


「雨の降りし夜の地に、傘を差さずして道を行く、若き人々に希望の光を…」





「絶唱」





化物の存在は塵一つ残さず、消滅した。



‥‥。



「‥‥はぁ…さむっ…ううぅ、手が凍えそうだよ…」


夜空の下

草木が風で靡く景色の中に

少女と彼は一つ空間を開け、隣通しで座り込んでいた。


「そうだね…もう、季節は冬になるのかな…」


「もーまた、別の世界の言葉と混同していますよ…!」


「そっか…こっちの世界だと≪とう≫だったな…あっはは…」


「しっかりしてくださいよ?貴方は一応…立場上では勇者として、国を守る英雄になって貰わないと困るんですから…!」


「はーい、分かってるよ」


「本当ですか?全く…」


風に靡かれながら

二人、少しずつ流れていく空を見上げ、


「‥‥」


「‥‥」


ゆったりと時は流れていく。

一切、時間を感じる事の無いままに。


「…ほらよ」

ある物体を少女の首元に触れさせる。


「ひゃん…何これ…暖かい…?」

可愛い反応と共に、その物体を手に取る少女。


「俺の特別な魔法、向こうの世界で存在する物を取り出せるって技、使ってみた」


「これって…?」


「仕方ねぇな、ほら、もう片方の手、出してみ」

バックハグのような体制になり、少女の寒さで縮こまった手をそっと握る。


「え、ちょ、、、!きゅ…急にどうしたのデスカ…!?」


「ほら、使い方…説明してあげる」


「う、、うん」


「ほら、この二つ穴が空いてる部分を持って」


「持って?」


「引っ張る!」


「引っ張る…!」


無機質な音が小さく響く。


「そして元の位置に戻したら…あら不思議、飲み物が出てきました~」


「良い匂い…ねぇ、飲んでみても良いですか!?」


「良いよ…俺も一緒に飲もうかな」



お互い口に含んで、少し覚ました後に喉へ流し込む。



「暖かいけど…これ…少し苦いです…」


「あ、間違えて珈琲を取り出してしまったか?おかしいな…ココアを出した筈なんだが…交換しようか?」


「いえ、大丈夫ですよ!」


「無理しなくても良いよ…?」


「大丈夫です、私が貰った物なので頂きますよ!」


「そ…そか…」


「それよりも」


「‥‥?」


少女は笑顔で


「貴方と一緒に同じ物を飲んでいるこの時間が、私にとってはとても大切なんです」


「‥‥」


「そして」


「‥‥っ!?」


肩が触れ合う距離まで、少女は身を寄せる。


「貴方が持つ本当の笑顔を特等席で見る事ができる一時…それが、、私にとっての幸せなんです!」


温められていく身体。

強まる鼓動。


彼は、ある事を思い出しながら…


「そっか…向こうの世界だろうと、異世界だろうと…ずっと変わらないものはあるんだな…」


冷たい風が瞳に突き刺さる中


少女は彼に…


『私、貴方のこと…絶対忘れませんから』


身を乗り出し、証を刻む少女。


頬を赤らめるが…真っ直ぐな瞳。


そんな少女の笑顔が…


…少しずつ…


…霞み…始め…















「はぁ…」

暗闇に包まれた寒い夜道を一人辿る。


「またミスしてしまった…こんな俺なんてどうせ、、社会不適合者なんだろうな…」


‥‥


「どうせ…このまま生きてても良い事なんて無いよな…はぁ~死のうかな」


…ト…ト


「ま、どうせ死ねないんだよな、結局死ぬのが怖くて生きてしまう」


…トタ…トタ…


「そしてまた、自分のせいで人に迷惑を掛けて、怒られて、また心を殺される…」


トタトタ‥‥


「もう嫌だ…死にたい…」


トタトタトタトタトタトタトタトタ

「隙ありーーーーーーーー!!!!!!!」


「あっつ……!?!?!?」


「もーーー先輩隙だらけですよ?このままだと、白線上でボールを蹴ったとしても審判ミスされちゃうかもしれませんよ???」


「いや、、関係ないでしょ、それ」


「ナイスツッコミ最優秀賞受賞!って事で、お祝いの缶珈琲プレゼントです!後輩ちゃんの差し入れですよ???受け取ってくれますよね????」


「うっせー、近所迷惑だコラ」


「と言いながらちゃっかり受け取るあたり好感度爆上げですよ!も~、先輩ってばツンデレ~」


「はぁ…まぁ、美味しく飲む事にするよ」


「おぉ、良かったぁ…」


「‥‥?」


‥‥。

ー仲間は、何処に居ようと貴方の傍にー


大丈夫。

貴方の傍にはきっと、いや、必ず大切な存在が居る。

居ないと言うのならば…


俺が大切にしてやる。


生きていこう。

共に、この世界を。


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