誘惑と気まぐれの神
月明かりが美しい夜、夜道を歩いていると突然
「こっちへおいで」
という声が聞こえた
何故か恐怖心は微塵もなく
誘われるように声の主を辿って行った
辿っていくにつれ何か怪しげな明かりに
自分が近づいて行っているのに気づく
灯籠のような明かりが揺らめき
こちらに来いと訴えかけてくる
『行ってはならない』『見続けてはならない』
本能的にそう感じてはいるが
不気味なほどに心を惹き付けられ目が離せない
段々とその明かりに酔ってきたかのように思考力は失われ
その明かりに手を伸ばしかけたその時
「何をしている」
突然先程とは違う声が聞こえた
「今すぐあの明かりから目を背け帰れ、死にたくなければ決して振り返るな」
威圧感のある声によって我に帰り
走ってその場から離れた
帰るまで後ろで誰かが自分を見ていた気がする
疎ましげな視線と
優しげに見守るような視線
途中からは後者の視線しか感じなかった
そして家に入る刹那見えたのは
狐の面を被った剣士のような男だった
後に知ったことだが
この土地には狐の神を祀る神社があるようだ
気まぐれで人を助けることもある
という話も残されているらしい
あの夜歩いていた場所はその神社の近くだったようだ
そしてもう一つ
何故か詳しいことを教えてくれる人は居なかったが
あまり良くない話が残されている神社も近くにあったようだ
何だか狐に化かされた気分になったが
気まぐれがなければ今頃はどうなっていたことか
神というものは時に残酷で
しかしとても優しいものだ
と思わずにはいられない出来事だった