すれ違い
結局、妖怪共は庭のテーブル席で食べる気、満々なので仕方なく料理を運んでやった。
先程の野次馬が立ち去っても、また次の野次馬が湧いて出て来る。
だから、奴らをテーブル席に置いて放置するしかない。
リジーとボーデンは離席する形で座り、クックロビン隊は席に座らずに空間の裂け目から頭を覗かせ、バンダースナッチは再び眠りにつきそうな体勢で、メリーが普通に腰かけているのが異様だ。
スティンクだけ、何故か立ったままで鋭い眼光を兄弟らへ向けている。
そして、ジャバウォックが席についていない。
あれほど僕に攻撃してきたのに……菓子が欲しいと駄々こねた訳じゃないのか?
奴は、再び兎の仮面を頭につけて「ふぉんふぉんふぉん」と呟き、生垣を眺めていた。
準備を手伝っていたレオナルドがジャバウォックに尋ねる。
「うさぎ、好きなのか?」
「うさうさ」
ジャバウォックがアピールするように店内から持ち出した兎の小物を手に、動かして見せていた。
確かに、記憶を辿れば、ジャバウォックは兎の小物ばかり持つ。
単純な好みだったのか……だが、小物に関しては耳の部分で僕やレオナルドを突き刺してくるものだから、痛い。感度設定は低くしても耳の先端による攻撃は、やっぱり痛い。
……今度、ミナトに兎の人形を依頼しよう。
僕は切り分けた『フォンダン・ショコラ』を皿に載せて、各自に配る。
食器を使いこなせるメリーやリジーは問題ないが、ボーデンだけは困惑していた。
スプーンを差し出して、僕は言う。
「好きな風に持っていいから、これ使って。チョコレートがもったいないよ」
「ううん……」
ボーデンはどこか恥ずかしそうに『フォンダン・ショコラ』特有の中から溢れる蕩けるチョコレートを、スプーンですくう。持ち方は幼児染みていたが、指摘はしない。
顔面の包帯を解いて、チョコレートを食べると「うめぇ!」とボーデンは叫ぶ。
歓喜極まっているボーデンに、リジーがドス利いた声色で「うるせえ」と注意していた。
メリーは『オニオンリング』ばかり食べていた。
「チョー美味しい! こんなに美味しいの隠してたなんて、やっぱり人間って卑怯ね!!」
食べっぷりを観察していたレオナルドは、不思議そうに聞いた。
「初めて見るのか? 唐揚げとかも知らない??」
「なに、唐揚げって!」
「コロッケは?」
「ええ!? 知らないわよ! 何よ何よ! 教えなさいよ~~~!!」
頬膨らませ拗ねるメリー。
ゲームの世界観的にコロッケや唐揚げは、あるんだろうか……
オニオンリングに見覚えないと明言しているだけでは、判断つかないけども。
僕は落ち着いて答えた。
「人間にとって庶民的な料理だから、お茶会には出されなかったんだと思うよ」
「そーいうの関係なく、沢山料理を作ってくれっておじい様は頼んだのよ!」
そして、メリーが絶賛する『オニオンリング』をクックロビン隊に差し出しているバンダースナッチ。
レオナルドは、素直に思った事をバンダースナッチに確認しようとした。
「なあ、こんな事さ。聞くのも悪いけど、一応確認したくて」
そんな声をかけられるのは予想外だったらしい反応のバンダースナッチ。
だが、即座に「なんだよ」とだらしない体勢で座る。
気まずく、レオナルドが問いかけたのは僕たちプレイヤーが疑問に感じる部分だった。
「バンダースナッチ。お前、機械だから食べれないのか?」
「………は?」
「えっと、食べたもん消化する機能?がない?? ってことだよな。だから食わないで、皆にあげてる」
僕の表情を伺うレオナルド。
自分は変な事を聞いてないかと不安なのだろう。
しかしまぁ……機械生命体に消化器官があるのか怪しいのは、事実だ。
イベントでも他の兄弟たちとは異なり、アフタヌーンティーセット自体に関心があったり、菓子を食べたりせずに、食器を売った方がマシと言ってのけた。
スティンクが顔に似合わず、素っ頓狂な声で言う。
「貴方、なにを仰ってるんです? そこの愚か者も妖怪の端くれなんですから、食べれますよ」
周りを見渡せば、メリー達も目をパチクリさせている有り様だ。
警備NPCを待ち構えていたジャバウォックも、無垢な表情で兎の小物を使ってレオナルドをつつく。
ジャバウォックのつつきがくすぐったいレオナルドの代わりに、僕がフォローする。
「すみません。機械なので、そうではないかと勘違いするところでした」
ボーデンが怪訝そうな表情で首傾げる。
「機械って何?」
そこから!?
妖怪の肉体構造設定なんて、運営は考えちゃいないのか。
とにかく、バンダースナッチは食べようと思えば食べれる。分かっただけでも十分だ。
「つんつん」と呟きながら行うジャバウォックのつつきに困惑しながら、レオナルドは更に質問する。
「じ、じゃあ、あれか? 食べるの嫌い?? 嫌なら嫌で今度から用意しねぇから」
バンダースナッチは面倒そうに答えた。
「嫌いじゃねぇけど。必要ない。俺は大気の魔素でエネルギー補える」
「あ、そ、そうなんだな? ちょ、もう、つつくの勘弁してくれっ!」
レオナルドが悲鳴を上げてジャバウォックに頼むと、向こうはつつくのを中断。
レオナルドを山に見立てて、彼の背中を兎の小物が登っていくように動かし始めた。
謎の行動に巻き込まれ、レオナルドはじっとするしかない。
だが、スティンクが酷い形相で話に割り込んだ。
「十分補えていれば外に居続ける訳ないでしょう? エネルギー消費を抑える為にしょっちゅう寝ている癖に。しかも、お父様が貴方の為に用意したものをコイツらにあげて!」
そう吠えると、料理を啄んでいたクックロビン隊に皿を投げつけるスティンク。
事情を知らなかったらしい、リジーとボーデンが動揺を隠せていない模様。
メリーはどこか気まずそうに食事の手を止めた。
バンダースナッチは、長ったらしい溜息を漏らす。
「貰ったもん、どうしようが俺の勝手だろ。それに俺は生まれつき、燃費悪いんだよ。無理に生かす方が馬鹿なんだよ」
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