正義のヒーロー?ラビット仮面、参上!!
非常に長めになってしまいました…
流石に、常時居続ける仕様ではない筈。
満腹度がMAXに到達すれば、立ち去ってくれると信じよう。
『春小麦』から夏エリアで採取できる『夏トマト』を含めた食材で作ったのは『ピザ』。
どれほど食べられるかも不明だが、とにかく量で挑むしかない。
そして、連中は人間とは違って、フォークで食べる習慣を嫌っているようだ。
もう一つ。簡単な『カナッペ』が完成。
一口大サイズのクラッカーに野菜等を載せた軽食だ。
手軽な『オニオンリング』、ホールサイズの『フォンダン・ショコラ』……
取り合えず、これで様子見しよう。
僕は料理を所持し、店内に転移する。
そこではメリーとジャバウォック、ボーデンとリジーが窓越しから外の様子を伺っていた。
ジャバウォックが「ふぉんふぉんふぉん」と独特な効果音を真似している。
昨日同様、野次馬を作っているプレイヤーが、連行されている光景が広がっているんだろう。
バンダースナッチは、先程同様にテーブルへ突っ伏している。
そこ傍らに、眼光の鋭いスティンクが席につかず、立っていた。
彼女は、レオナルドがクックロビン隊に行っている、菓子を使った言語特訓を見守っている。
「ちょっと難しいけど……これは?」
レオナルドが手元にある菓子をクックロビン隊に見せる。
空間の裂け目から顔出す鳥頭たちが、今度は口々に言葉を発していた。
「くっきー!」「クッキ~」「cookie」「くっきぃ」
すると、クックロビン隊のリーダー格・梟頭だけ「く……」と言いかけ、菓子を慎重に観察してから答えた。
「ビスケッツ」
一人?だけ異なる答えに他のクックロビン隊から注目される。
レオナルドは「よし!」と梟頭に手元の菓子――ビスケットを与える。梟頭は嬉しそうに体を揺らした。
他のクックロビン隊は、未だ理解できずに首を傾げていた。
一段落したのを見届けた僕は、テーブルに料理を並べながらレオナルドに声をかける。
「レオナルド、皿を並べてくれ」
「お、わかった」
「料理ができたから皆、席について」
僕がジャバウォック達を呼び掛けると彼らは、いいところだったのにと言わんばかりの不満を現す。
メリーが窓から離れながら、余計な一言を述べた。
「ねえ! お庭にテーブル席があったわ。あそこで食べたい!!」
「今日は我慢してくれ。君たちが見た通り、人間が大勢集まるから何を言われるか。ジャバウォックも分かるだろう」
名前を呼ばれたジャバウォックは、無垢な表情で振り向く。
返事もしないので彼の心情が読めないが、人間達の姿を面白がって、心は傷ついていないんだろう。
渋々、メリー達が席に着くと。
スティンクだけは座らず、腰かけた僕を見下すように鋭い眼差しを注いだ。
「話に聞いていた通り、酷い光景ですね。ですが。あれは正義ぶった人間が暴走しているだけでしょうね」
レオナルドは気まずそうに。
僕は「そうですね」と相槌を打って全員分の料理を皿に取り分ける。
しかし、スティンクはこうも指摘した。
「にしては……あまりに過激と言いますか。あなた方も、彼らに恨まれる行動を取ったのではありませんか? 私の家に上がり込んだ時といい。無神経な行動が目に余ります」
反論の余地なく、レオナルドは「あの時は悪かったよ」と謝罪する。
彼が軽率に頭を下げる事がスティンクには不愉快らしく、顔を歪めていた。
僕も黙っていられないので、これだけは言わせて貰う。
「恨まれるなんて。人間は、自分の好みを執拗に押し付ける生き物です。僕らの存在が彼らにとって不愉快で、それを共感して欲しくて情報を拡散している……あれは嫉妬という衝動で行動しているんです」
「はあ、そうですか。目立たず平穏に生きられるよう立ち回れないなんて、不器用な人間ですね」
スティンクに嫌味で僕が信条に掲げるものを指摘され、腹立たしくなる。
こればっかりは、僕のせいでもレオナルドのせいでもないんだ。
奴らに頭を下げる事なんて、何一つ無い。
料理を無視して、テーブルに突っ伏していたバンダースナッチが、体を伸ばしながら起き上がる。
「別にいーだろ。元々無神経なんだろうからよぉ。俺達にとっちゃ悪くねぇ。メシも作ってくれるし、コイツら育ててくれるし」
バンダースナッチが『コイツら』と呼ぶクックロビン隊。
僕が取り分けた皿にあった『フォンダン・ショコラ』の1ピースを、バンダースナッチは口にするどころか、クックロビン隊に放り投げた。
彼らは『フォンダン・ショコラ』を取り合う。
レオナルドが、バンダースナッチの行動を不思議そうに観察していると、突然スティンクが憤った。
「またそうやって……! 貴方、どうしてお父様が人間に料理を作って貰うように頭を下げたのか!! 分かっているでしょう!?」
「はぁ~~~~~~ったくよぉ。親父も親父で馬鹿だよ、ホント。だから人間に舐められて、最終的に癇癪起こしたじゃねえか」
「親不孝の屑!!」
おい、待て。こんなところで兄弟喧嘩はやめろ!
普通に食事をすればいいものを……!!
僕が止めに入ろうとしたが、レオナルドは周囲を見回して立ち上がる。
「ジャバウォック達がいない!」
……は!?
スティンクとバンダースナッチの喧嘩に意識が奪われていて、ふと気づけばケーキを奪い合っているクックロビン隊以外の姿はない。
どこに行ったのか? 心当たり一つだけ。僕は即座にレオナルドを呼び止めようとした。
「レオナルド!」
しかし、躊躇なくレオナルドがメニュー画面を確認し、庭に転移してしまう。
自然と大きな溜息が漏れた。
僕が行くべきか、悩んでいるとスティンクとバンダースナッチの二人。
喧嘩が勃発せず、物静かになった。どちらも澄ました表情を浮かべていた。バンダースナッチが僕の視線に気づいて話した。
「行かせようとしたら、お前ら邪魔するだろ」
…………………コイツら!!!
どいつもこいつも糞だ! ジャバウォック達から注意を逸らす為に仲悪いフリした!?
思わず、舌打ちして飛び出す形で僕も庭に移動した。
庭に出ると生垣越しから、アイドルファンらしい女性プレイヤーからムサシファンらしい男女様々なプレイヤーまで。良くも悪くも老若男女。
様々な連中相手に、レオナルドが対応し続けていた。
「庭に薔薇を植えるんじゃないわよ!」
「俺達の店、アリスをモチーフにしてるんだよ。今度のイベントのモチーフと同じ」
「お前のせいでムサシのアカウント停止されたんだぞ! 責任取れよ!!」
「ムサシは気にしてないし、ファンの話も聞かないって言ってたよ」
「イベントに参加するんじゃねえぞ!!」
「悪いけど、ムサシとも約束したし……」
「ムサシを言い訳に使うんじゃねぇ!」
「アンタがいるとイベントが楽しくなくなるのよ!!」
本当に小学生レベルの文句だ。僕に対しても何か言われているが無視する。
今は、庭に潜んでいるジャバウォック達を店に連れ戻さないと――
「まてーい!!!」
混沌を加速させたいのか。
ギャーギャー喧しい野次馬の喚きをかき消すように、子供の大声が響き渡る。
僕はギョッとして振り返り、レオナルドや野次馬たちは静まりかえった。
アリスの『気違いのお茶』をモチーフにしたテーブル席にあった、テーブルクロスを被り、僕の兎の仮面をつけた何かがいる。
恐らく中身はメリーとリジー、ボーデンがジャバウォックの下で台となって支えている形状だ。
謎の兎仮面が、子供特有の無垢で単調な声色で名乗る。
「私の名前は『ラビット仮面』。正義のヒーローだ」
野次馬がざわつく中、『ラビット仮面』はテーブルクロス越しにレオナルドに指さした。
「やい、そこの悪者。お前の自分勝手な振る舞いが、周りに迷惑をかけている自覚はあるか」
……レオナルドを助けない?
僕も眉間にしわ寄せて、動向を見守る。
困惑する野次馬を差し置いて、レオナルドは真剣に訴えた。
「俺は普通にゲームを遊んでいるだけだ。だから、普通に明日のイベントにも参加したい。俺の楽しみを奪わないでくれ」
「ならば仕方ない。皆の幸せを守る為、お前はここで倒す! でゅくし!!」
歪な接近にレオナルドは戸惑いながらも、『ラビット仮面』の攻撃を受け、倒れた。
厳密には倒れたフリだ。
悪人を倒した『ラビット仮面』は高らかに笑う。
「わっはっはっはっはっ。これで皆にとって気に入らない奴はいなくなったぞ。人間は単純だな」
ズルリ。
『ラビット仮面』を覆っていた仮面とテーブルクロスが解かれると……
露わになったのは、巨大な青白い肌の子供の頭部だった。
眼球も歯もない目と口の、漆黒が広がる闇の穴が三つある。
心霊写真に写り込んだような巨大な異形を目撃し、長閑な春エリアが阿鼻叫喚の地獄と化した。
後頭部に手足が生えていた異形は「はぁあぁ」と野太い鳴き声を漏らしながら、薔薇の生垣を乗り越えようとしていた。
野次馬たちの反応は様々だ。
バグで妖怪がいる!とか、戦闘モードに入ろうとメニュー画面を開いたり。
特に、アイドルファンの女性プレイヤーは気色悪さから、我先に逃げようと他プレイヤーを押しのけていた。
「いやあああぁああぁっぁぁっ!!」
「止まらないで! 早く行って!! 早く早く早く!」
「押すんじゃねえ!!」
「ヤダヤダヤダヤダヤダヤダ!」
「こっち来てる!」
「あああああああああああああああああっ!!!」
転移機能を使えばいいのに、それすら考えられないほど冷静さを失って、全員が嵐のように立ち去ってしまった。
テーブルクロスの下から、人間たちをケラケラ笑うメリーと、リジー、ボーデンが姿を現し。
不気味な異形に変貌遂げていたジャバウォックが、何食わぬ顔で子供の容姿に戻る。
一連の光景を目の当たりにし、僕とレオナルドは顔を見合わせていた。
ここぞとばかりに、メリーが提案した。
「誰もいなくなったんだから、外で食べるわよ!」
皆様、感想・誤字報告・評価・ブクマありがとうございます
話をひとまとめしておきたく、長い内容になり申し訳ありません。
次回の投稿は明後日になります。