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好感度

結構長くなってしまい、すみません……


 ムサシとのチャットログを見せ終えたレオナルドは、慌ててイベント衣装を僕に渡す。


「これ、ミナトさんから引き取って来たぜ。こっちは俺のな」


 レオナルドも自身の衣装を手元に出現させた。

 本来購入する予定だった、重量補正と攻撃速度をアップのスキルが付与されている『白金の鎧』。

 ミナトに頼んで購入して貰い。

 彼は、レオナルドのイベント衣装に合わせて鎧に青のアクセントを付けてくれたらしい。


 『白金の鎧』は全身装備のものではなく、上半身の胴部分と肩当から肘当までのもの。

 鎧の下に薄いライトブルーのフード付きのコート。

 イベントに合わせ注文が殺到しただろう『アリスドレス』の余り生地だと分かる色合いだ。


 青薔薇が刺繡された白ズボン。

 どことなく、アリスの雰囲気になる組み合わせは不思議と悪くない。

 衣装に合わせた仮面も作って貰っていたが……意味はなさそうだ。


 僕の衣装は、レオナルドとは対照的に赤コートに白ズボンには赤薔薇が刺繡されている。

 お揃いで購入を依頼した僕の『白金の鎧』は赤のアクセントがある。

 そして、兎の仮面。

 衣装確認中、テーブルに置いておいたら、ジャバウォックが手に取り、面白半分に被っていた。


 僕は一息吐いて、完成された衣装を飽きるまで眺めるレオナルドに言う。


「やっぱり、イベントには参加するんだね」


「お、おう」


 一旦、イベント衣装をしまってレオナルドは真剣に言う。


「ルイスは無理しなくていい。でも俺は……やっぱり、参加しねぇと」


 僕らの傍らで『クックロビン隊』は内容を理解できないようで首をかしげていて。

 ジャバウォックは、兎の仮面をいじるのに夢中だ。

 メリーは怪訝そうな表情をしていて、一番ダラダラしていたバンダースナッチが唐突な質問をぶつける。


「んだよ。好きな女が参加するから行くのか?」


 コイツは余計な事を口出した訳じゃないんだろう。

 レオナルドが参加する姿勢を崩さない理由を、適当に探っただけだ。

 だが、無自覚だったレオナルドに指摘するのは『余計』だった。

 僕も誤魔化そうとするが、レオナルドは素っ頓狂に「まさか!」と否定から入る。


「好きってアレだろ? 胸がドキドキするとか、結婚したいとか思う奴。いや~……カサブランカは違うって。好きっていうか、尊敬?憧れてるけど、結婚は別に。一緒にいたら命いくつあっても足りねぇよ」


 ……なんというか。

 第三者から見れば実に分かりやすいとは、この事か。

 レオナルドは間違いなく、明確な恋愛感情を抱かないタイプの人種だ。


 しかし、彼は変に結びつけようとは捉えないだけで、何等かの切っ掛けでカサブランカに対する意識を高めてしまう恐れがある。

 他人に口出すのは、どうかしているが。カサブランカだけは駄目だろう。


 それに、レオナルドは他にも付け加える。


「別にいいやって、投げやりになっちまう諦めがちな自分は駄目だなって、ずっと思ってたんだよ。どうにかしたいって。今回は、ムサシとも約束したから……絶対に参加する」


 問題はイベントの形式か。

 バトルロイヤルと同じ、参加者一同が一か所に集められるのは最悪。

 そのまま、全員でダンジョンなんて無理。無謀に近い。

 ……とにかく、僕は話題を逸らす。


「今日はどうする? レオナルド。昨日、計画した通りにあそこへ向かうかい」


 ジャバウォックたちの前なので『マザーグース』の名は、あえて伏せて彼に確認する。

 レオナルドも察して、複雑そうな表情で頭をかく。


「もうちょっと、考える時間が欲しい……行くには行くつもりなんだけど」


 『マザーグース』のところには向かうが、奴をどう説得するべきか。踏ん切りがつかないのだろう。

 僕はレオナルドに「分かったよ」と返事をした。

 僕らの会話を聞いてメリーが興味津々に「どこに出かけるの?」と尋ねる。

 レオナルドが適当に誤魔化す中、僕は改めて状況確認をした。


 メニュー画面から『ワンダーラビット』の店内状況を開く。

 キチンとジャバウォック以外のメリーとバンダースナッチ、クックロビン隊の位置情報が表示されている。同時に解説画面が自動的に開かれた。



<特別なお客様>

 〇特殊イベントをクリアすると、クリア条件を満たしたプレイヤーのマイルーム、経営店、ギルドに『特別なお客様』が出現するようになります。


 〇一定の好感度を上げるとプレイヤーから受け取った装飾品、衣服を身に着けてくれるかもしれません。


 〇更に好感度を上げると特別な事が起きるかも……?



 まあ、そんなシステムだろう。

 昨日はクエスト終了後、何も起きなかった。

 恐らくイベントをクリア後、翌日から出現するようになる仕様だろう。

 店内にいるジャバウォックたちと他の妖怪達の好感度と満腹度が、画面脇で常に表示されている。


 満腹度は新薬を食べられる具合として……

 好感度は、あくまで()()()()()と解釈して良さそうだ。

 リジーの好感度が高いのは分かるが。

 ジャバウォックとロンロンの好感度が高いのは、よく分からないな……


 大体想像つくが、僕はレオナルドに自分のメニュー画面を開いて尋ねた。


「君の方の好感度は、どんな感じか見せてくれるかい?」


「おー、こんなんなってるんだ。ええっと」


 レオナルドも自身のメニュー画面を開いてみると、案の定、好感度は………高めだ。

 想像通り、ではなかったが。

 クックロビン隊とボーデン、メリーの好感度は比較的高めで、バンダースナッチも自棄に高く。

 僕とは対照的に、ジャバウォックとロンロンからの好感度は低めだ。


 この二人の基準よりも理解に苦しむのは――スティンク。()()()()()()()()

 ……バグっているのか?

 ちょっとした不具合でも発生しているんじゃないかと思った矢先。

 メニュー画面を眺めていたレオナルドが気づく。


「ルイス! ほら、ここ」


 レオナルドが指し示した箇所に視線を向け、僕は躊躇なく『工房』へ駆けて行った。

 勝手に侵入してきた奴らの声が聞こえる。


「ここに入ったら、流石に怒られるわ……」


「作り置きした奴、一つや二つなくなったってバレやしねぇって!」


 僕が工房を漁っていた『ボーデン』を睨みつけていると、奴はわざとらしい勢いで息を飲む。

 奴と共にいるリジーは、僕を見るなり嬉しそうだ。

 物の配置を無茶苦茶にされるのは、溜まったものじゃない。

 反射的に僕は聞いてしまう。


「変に物を動かしてないだろうね。棚にあるのは順番通り並べているんだから」


「触ってねえ、触ってねえ!」


 ボーデンが激しく否定していると、リジーが珍しく即座に豹変。

 棚を確認する僕に訴える。


「嘘よ! コイツ、棚の中、ごちゃごちゃしたのよ! 私は触っちゃ駄目って注意したのに!!」


 しがみ付いてくるリジーを穏便に引き離す一方。

 ボーデンも負けじと反論した。


「リジーの方がベタベタあっちこっち触ってんぞ! 椅子に頬擦りしてたぜ!! 気持ち悪りぃ!!!」


「してねぇよ! ブサイク!!」


「あと服探してたぜ、服! 服探してどうするつもりだったんだろーなぁ!!」


「ないことベラベラ喋ってんじゃねぇぞ、このハゲ!」


 棚を整理しながら、僕は最初に指摘するべき部分に憤る。


「二人とも。勝手に侵入しないでくれ。追い出したりしないんだから、今度から正面から入ってね」


 素直に反省するかと思いきや。

 リジーは、恥ずかしそうに体をくねらせ言い訳した。


「だってぇ……妖怪だから。ビックリさせたいの………駄目?」


 なんだ、それは。

 二人の騒ぎを聞きつけて、メリーやジャバウォックが店内から顔を覗かせている。

 メリーに至っては驚きもせず、慣れた感じで話しかけた。


「アラ! 二人一緒なんて珍しいじゃない」


 ボーデンもメリー達に驚き、リジーは僕から一旦距離を取る。

 ジャバウォックは仮面をえらく気に入ったのか、頭につけている。

 奴は店内に配置していた小物を手に、僕に突撃をかます。

 いや、突撃というより突き刺してきてる。


「でゅくし! でゅくし!」


 ああ、もう!

 レオナルドがクックロビン隊を学習させる為に、菓子を与えてばかりだから。

 自分も欲しいと駄々こねているんだろう。

 ブチ切れそうな衝動を抑えながら、僕はジャバウォックの攻撃を手で防ぐ。


「今日の分を作るから席について待ってくれ!」


 菓子の事だとメリー達も理解して。

 ボーデンが「マジかよ!」、メリーは「やったー!」と喜び。

 リジーも何か言いたげに僕に迫る中、ジャバウォックは子供らしい純粋無垢な表情で攻撃を止めない。


「でゅくし! でゅくし!」


「頼むから全員一旦出てくれ! レオナルド! レオナルド!!」


 場を収める為に現れたのはレオナルドではなく、バンダースナッチだった。


「お前らなぁ……邪魔になるから向こうで待ってろ」


 不思議とバンダースナッチの言葉には全員大人しく従う。

 どやどや、仕方なしな態度を見せつつも、工房から退去した彼らを見届け、バンダースナッチは欠伸かいて僕にある事を伝える。

 最初から、これが目的だったんだろう。


「作るなら全員分作ってくれ。さっき、スティンクも来たから」


「…………」

皆様、感想・誤字報告・評価・ブクマありがとうございます。

リアル都合で投稿遅れる日々ですが、投稿はしっかり続けていきます。

よろしくお願いします。

(追記:5/21深夜~5/22の間に投稿します)

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― 新着の感想 ―
[良い点] リジーかわいいな ジャバウォックもあいかわらず ジャバウォックにもお揃いの仮面作ってあげてほしい、主人公は絶対作らないだろうけど(笑) [気になる点] なんでロンロン来ないんだろ いや、別…
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