クインテット・ローズ
別視点の話です
レオナルドたちが死闘を行っていた頃。
SNSでの予告を見て、多くの女性ファンが花畑エリアに詰め寄っていた。
『クインテット・ローズ』パフォーマンスは、現実のコンサートとは異なり、逆刃鎌の飛行のみ。
コンサートと違い、マイクがないから大声を張り上げる必要がある。
巨大モニターで誰もが姿を見れる訳じゃないから、可能な限り観客全員のところへ向かわなければならない。
そして、パフォーマンスを行っている花畑は緩やかな傾斜になっており。
観客が一面に犇めいても、上空にいる『クインテット・ローズ』らの邪魔をしない。
盛り上がる女性ファンとアイドル達から離れた位置で待機している集団。
中でも、フードと仮面で姿を隠すプレイヤー達は万が一の用心棒。
容姿を隠していない数人のプレイヤーは『クインテット・ローズ』のマネージャーや関係者。
質素で特徴ない外見の女性アバター。
彼女こそが『クインテット・ローズ』のマネージャー。
タイマー機能で時間を測り、パーティチャットで[残り一分]と短くメッセージを送信。
彼女とパーティ組んでいる『クインテット・ローズ』達から返信はないが、メッセージは届いているだろう。
近頃の事態に『クインテット・ローズ』側も無視してはいない。
三日後に開催されるイベントは、バトルロイヤル時と同じく実況中継されるのだ。
注目される絶好の機会。
無論『クインテット・ローズ』も参加するつもりだが、彼らを快く思っていないプレイヤー達は多くいる。
SNSから事務所まで「イベントに参加するな」等の脅迫抗議は山のように届いている。
パフォーマンス時間は当初より短縮して行っていた。
きっちり十分間だけ。
出動可能な事務所関係者を総動員して、観客の誘導や。他プレイヤー達に頭下げて。
進路妨害にならないよう、スポーン位置から離れた花畑で公演している。
彼らの努力も、女性ファンのマナーの悪さで相殺どころか、悪印象に見られる始末。
公演時が残り一分にも関わらず、問答無用で女性ファンの悲鳴が上がる。
案の定、PK集団が現れ、広範囲攻撃を無差別に放つ。
阿鼻叫喚の中で事務所スタッフは、必死に叫ぶ。
「皆様、速やかに離脱をお願いします! 彼らに手を出さないで下さい!!」
待機していた用心棒らは、防御スキルや挑発系のスキルでファンに攻撃が向かわないよう立ち回る。
間に合わずPKされる者、潔く離脱する者、警告に聞く耳持たずPK集団に攻撃する者。
あらゆる人間模様が繰り広げられる中。
「チッ、またかよ」
メンバーの中でも背が高く、体格良い癖毛のある深緑のセミロングの青年。
緑薔薇担当の宇緑翔太が不機嫌な表情を浮かべた。
マネージャーから離脱指示がメッセージで飛ぶのを無視し、彼は『ソウルオペレーション』で三本の大鎌を装備。
盗賊系の拘束スキルで身動き封じられたファンたち。彼女たちを嬲ろうとするPK集団に、翔太は攻撃仕掛ける。
レオナルドとは違いSTR等の身体能力にステータスポイントを振っている翔太の動きは機敏で、接近戦では盛大に大鎌を振りつつ『ソウルターゲット』の飛行で回避を取る。
敵を薙ぎ払う姿にファンは「カッコイイ!」と歓喜するが、女性マネージャーは翔太に怒る。
「翔太くん! 戻ってきなさい!! 早く!」
しかし、翔太は無視するどころか、戦う気満々だった。
他のメンバーが争いごとを避けるのに対し、彼は彼なりの意思を基に行動している。
「尻尾巻いて逃げるから舐められてんだ。こういう連中はブチのめさねぇと調子乗るから、これが正解だ」
仕方ないので用心棒の一人が「私達がサポートしておきますので……」とマネージャーに提案する。
本音を言えば、穏便に退避して欲しい。
PKなんて心象悪い行為はアイドルには相応しくないのだ。
◆
とあるギルドの敷地内。
ランク上昇で建設できる豪邸が複数並ぶ光景は一種の街だ。
ギルドメンバー以外にも配置されたNPCの姿がちらほら。
そして、来客用として建設された豪邸にて。
ベリーショートのオレンジ髪で如何にもチャラついた若者――『クインテット・ローズ』の黄薔薇担当、浅黄直人が面と向かい合う友人に、キャラに似合わず頭下げていた。
「ほんと、ごめんね。『エビ』ちゃん! 今日もギルドの人達にPKの相手して貰って……」
「あはは! 全然? レベル上げには最適だって、皆ノリノリだよ~」
淡い黄緑髪の青年はケラケラ笑う。
ギルドマスターを務める彼が『クインテット・ローズ』とその関係者を匿うのは、レベル上げだったり、直人と知人であるからとか、実際は面白半分だったりする。
「一軒家の表札に匿名仕様ないから、ファンの子とかアンチがちょっかいかけて来ちゃうもんね。今後、そういうアップデートあったら、いいのに~」
突然、豪邸内に怒声が響き渡る。
薄紫髪のミディアムに中性的な顔立ちが可愛らしい。
紫薔薇担当の紫山睦は、ファンなら想像つかない位、激怒していた。
客室には、PK集団に喧嘩を売った翔太以外の『クインテット・ローズ』のメンバー、赤峰心と白崎竜司の二人も同席しており。
事務所のスタッフが戸惑いながら、恐る恐る話を続ける。
「そ、その~……逆刃鎌のパフォーマンスは好評です……当初はイベントまでの限定と社長も仰っていましたが、来月のCD発売まで続けて良いと……」
「ざっけんじゃねぇ! 俺は墓守でパフォーマンスすんのはイベント終了までって聞いたから、仕方なく墓守でアカウント作り直したんだ!! 折角、レベル70まで上げて、コツも掴んで来た『武将』の奴を消したんだぞ!!」
中性的な顔面の形相を酷くさせて反感する睦。
ゲーマーの彼は、実は『マギア・シーズン・オンライン』をサービス開始からログインしていた。
先程、訴えていた通り最初は『武士』を選んでいた。
ピーキー仕様な『武士』を極めたいのではなく、睦が尊敬するゲーマー『宮本武蔵』と同じジョブにしたかったからだけ。
地道に腕を磨いていた矢先、逆刃鎌のパフォーマンスをしようとリーダーの心が提案してきたのだ。
睦がゲーマーだから、彼が提案したと噂が独り歩きしているだけだ。
グループリーダーの赤薔薇担当、赤峰心はゲームに興味はない。
むしろ、彼の母親は厳しい英才教育を施す方で、最近まで心にゲームを含めた気休めの娯楽を与えないほどだ。
イメージカラーに合った赤髪のショートカットに、まだ幼さが残る童顔の中学二年生。
そんな容姿の心は、わがままをまき散らす睦に呆れている。
「僕たちは遊びでやってるんじゃない。仕事に来てるんだ。プロ意識を持て」
「プライベートの遊びを仕事で縛られるなんて、どうかしてる!!!! いいか! 俺は絶っっっっっっっ対に! イベント終わったらこのアカウント消すぞ!!」
「落ち着け、睦。なあ、心。『墓守』をやり続けるのは新鮮味が無いと思わないか? 俺も『盾兵』をやってみたいんだ」
――と。
白薔薇担当、王子様キャラをイメージされるは白崎竜司が割り込む。
金髪碧眼の二枚目に似合わず間抜けた話を持ち出した。
「スノーボードのように、盾に乗って砂丘や草原を滑れるらしいぞ。しかも敵に攻撃できるんだ。面白くないか?」
「お前なぁ……」
心が溜息つく傍らで、睦の方は拗ねて勝手にログアウトした。
彼らの噛み合わなさに直人も、やれやれと頭抱える。それから、豪邸を貸してくれた友人に弱音を漏らす。
「あはは、こんな感じでゴメン。俺達、個性あり過ぎて噛み合わない時、多くて」
ケラケラ笑っていた淡い黄緑髪のギルドマスターは、唸った。
「ちょ~っと、このままだと不味いよね」
「そりゃね。テレビ出演とか多くなったら、トーク上手くないと芸能界に乗れないし」
「あ、そっちじゃなくって~。このままだと、なおっち達にヘイトあり過ぎて、イベントで総スカンされちゃうよ」
「分かってる分かってる。でも協力型イベントだからPKされないし、大丈夫っしょ」
「油断は禁物だよ。メンバーの子達に調査して貰ってる奴が『ビンゴ』なら……」
噂をすれば、ギルドメンバーが報告しに現れた。
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本日は投稿がかなり遅れて申し訳ありません。