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連行


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 誰もゲーム世界の時間軸を考察している様子はないが、妙に廃墟を拘っていたのに理由があるなら、廃墟の廃れ加減で時間経過を表現していた、というのが一説。

 鉄の錆び具合や、苔や雑草の生え具合。


 昔、人が住んだ痕跡はあるけど、今はもう誰もいないどころか、時間も大分経過した。

 ボーデンの話を聞く限り、彼らの時間は人間が裏切った瞬間から止まっている。

 そして……古典的だが、妖怪と人間の時間間隔は別物。


 色々と不運が重なり合った結果か。

 春の層の、本当のバックストーリーは不明だが、スティンクの様子を伺う限り、冗談半分に足運ぶ人間すらいなかったと分かる。

 レオナルドは食器を差して彼女に問う。


「これ……お前の父親の奴なら返した方がいいよな?」


「結構です」


 スティンクは即答した。逆に僕らへ問いただす。


「では、なんです? あなた方は時間も経って、お父様が落ち着いただろうと思い、無断で私達の縄張りに侵入したと」


「無断で侵入したのは悪かった。でも俺達、ワケあって向こうから逃げて来たんだよ」


 結構な皮肉だ。

 事実、あの女共から現実逃避する形で僕らは隠しイベントを楽しんでいる。

 嘘ではない。レオナルドは最初から、これを考えていたのか。

 しかし、彼は僕に助けを求めて来た。


「アイドルって妖怪に理解できないよな……どう説明したらいい?」


 僕らの状況をゲームキャラに説明するのは、確かに難しい。

 くどい説明は聞いても退屈だろう。

 レオナルドの代わりに、僕は簡略化した話で現状を伝える事にする。


「現在、女性を虜にしている容姿端麗で地位がある『魂食い』の男性衆がいまして。彼らを妄信するあまり、女性たちは他の墓守系統の人間に対し、職を辞任するよう脅迫・迫害の示威運動を行っております」


 奇天烈なものを目撃したかのような形相で、スティンクは表情を歪めた。

 内容は以前、彼らが体験した妖怪差別と同じ。

 それが人間同士で行われている。


「理解できません。信じ難いですね。墓守系統の人間は『剣聖』の才がある人間ほど重宝される筈。それを迫害し、数を減らそうですって? ありえません。()()()()はどうなさるんです?」


 ゲーム上の設定か、聞きなれない話を耳にするが構わない。

 僕は溜息をついた。


「あくまで『魂食い』の男性衆を妄信する女性達だけです。それ以外の無関係な人間は、彼女達に対し不満や敵意、酷いと殺意まで抱いています。しかし、人間の法で縛られている以上、彼女達を手にかける方が最悪、裁かれてしまい兼ねない……全く酷い話です」


 すると、スティンクは吹き出した。

 僕らは面白くないが、妖怪の彼女には愉快だったのだろう。

 威圧感ある眼光のまま、口元は笑っている。


「妖怪相手の次は、同族同士で潰し合いですか。しかも、自分たちの法律で首を絞める……滑稽ですね」


 反論も糞も無い。

 妖怪の彼女は笑い話に聞こえるが、僕らは笑えない。

 僕ら以外にもイベントを楽しみしていたプレイヤーもいる。

 全てがマナーの悪い連中のせいで台無しだ。思い出しただけで腸が煮え返る。

 ふと、レオナルドがスティンクに言う。


「そうだ。俺達の店に『ジャバウォック』って座敷童子がいんだ。さっき言った通り、女達が俺達の店に押しかけてくるから……そん時はジャバウォックをここに匿って貰えないか」


「嫌です」


 断るではなく『嫌』というスティンクの拒絶には、レオナルドも驚く。

 というより、座敷童子に出て行かれたら困る。

 こんな状況だから構わないと言えば、構わない部類に入るけど。

 流石に僕も突っ込む。


「レオナルド。アレは勝手に住み着いているんだよ。第三者が引き取る事はできないさ」


「でもよ。流石にジャバウォックを気分悪くさせちまうのは……」


 実際、囲われたレオナルドはジャバウォックを気遣っているのだろうが。

 見た目に反して、ジャバウォックも大概に屑だ。

 年齢は僕らより上で、あざとい動作は狙っているに違いない。


 スティンクは神妙に黙りこくっている。

 ジャバウォックの名が出たので、僕らに対する疑心を深めたのか。あるいは信用か?

 次に彼女が告げたのは。


「もう帰ってください」


 僕らを追い出す発言だった。攻撃せずに、普通に出ていけと突き放す。

 失敗と受け取り兼ねないが、これは『成功』だ。

 妖怪の彼女が、普通に考えて人間の僕らを見逃す訳が無い。

 適当に話を切り上げて、穏便に済ませたいが……レオナルドにはハラハラさせられる。

 彼は、一応の気遣いとしてスティンクに謝罪した。


「ああ、うん。勝手にあがって悪かった。()()()()だけが住んでると思ってた。本当にごめん」


 レオナルドが『クックロビン隊』に別れを告げるように撫でてやる。

 苛立った口調でスティンクが再度言う。


「早く帰ってください」


「今度はちゃんとノックするから」


「二度と来ないでください」


「あと今度、コイツらに言葉とか教えてやるから」


「私、ちゃんと人間語喋っているつもりなんですけど、通じませんか?」


 険しい形相で睨むスティンクを見かねて、僕はレオナルドを強引に引っ張る。

 レオナルドは妖怪達に手を振って。

 相変わらずの眼光と形相のスティンクが無言で睨み、『クックロビン隊』らは手を振り返す代わりか、愉快に体を揺らしていた。


 無事に家から脱出すると『スペシャルクリア』のメッセージが表示された。





 僕らが店内に戻って、次の『バンダースナッチ』で使う菓子と紅茶を手持ちに加えていると。

 窓の外が自棄に騒がしい。

 ……もう連中が嗅ぎつけて来たのか。それでも、現代の情報網だと逆に遅い方。

 レオナルドは不穏に思い、窓ガラス越しから外の様子を確かめた。

 台風の日に畑の様子を見に行くような行為だ。


「あっ!」


 だが、レオナルドの反応が妙なので僕もつられて外の景色を見ると……

 夏エリアで見かけたような女性プレイヤー達が、店前で群れなす一方。

 彼女たちは、ガミガミと不満をぶつけている相手は――庭にいる『ジャバウォック』だった。


 あの糞餓鬼。余計な真似をしたのか!?

 ……でも、アレはNPCに過ぎない。AI相手にムキになる女共は間抜けそのもの。


 レオナルドはジャバウォックを心配しているようで、外に出ようとした矢先。

 どこからともなく、世界観に合わない複数の警官姿のNPCが現れる。

 ジャバウォックは純粋な眼差しで警官を目で追い、体も警官が向かう方向に動いた。

 唐突に登場した警官たちに、レオナルドも困惑する。


「なんだ、あれ?」


「あれは警備用NPCだよ。こんな形で実物を見るハメになるのは予想外だけど」


 店前でデモを行っていた女性プレイヤー達が警備用NPCに捉えられ、強制連行される。

 遠くでも似たような光景が確認できる。

 一先ず、運営側がアイドル贔屓する姿勢ではないのを知れたのは良い。

 連れ去られた女性プレイヤー達を見届け、ジャバウォックが呑気に店内へ通じる扉を開けて、戻って来た。

 レオナルドは心配して「大丈夫か?」と声かけたが、肝心の奴は――


「ふぉんふぉんふぉん、ふぉんふぉんふぉん」


 奇妙な効果音を再現しながら、棚にあった小物を二つ両手でつかんで駆け回る。

 警備用NPCの真似をしていた。

 僕とレオナルドに小物を突撃させながら言う。


「ふぉんふぉんふぉん、警告警告。長時間の経営店前滞在は他プレイヤーのご迷惑となります。直ちに退去しなければ、強制連行措置を取ります。繰り返します、ふぉんふぉんふぉん」


「だ~~~もう、痛い痛い! やめろって!!」


 レオナルドがジャバウォックに降参している内に。

 僕はカーテンを閉めながら、複数の『カップケーキ』を載せた皿をテーブルに置いた。

 小物で僕の尻にどつくジャバウォックを無理矢理座らせ、僕は告げた。


「今は外に出ないでね。次のクエストが終わったら、君の相手をしてあげるから、これを食べて――」


「ふぉんふぉんふぉん」


 僕の台詞を妨害する形でジャバウォックは小物で僕の太ももを狙った。

 やっぱり、楽しんでるなコイツ……


皆様、感想・誤字報告・評価・ブクマありがとうございます。

次回の投稿は明後日になります。

本日も遅れて申し訳ありませんでした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ジャバウォックかわいい [気になる点] けど名前的にラスボス格の存在な予感もするような…… いや、無いなかわいい [一言] ふぉんふぉんふぉんふぉんふぉんふぉん
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