メリー・E・ソーヤー[二周回目]
四面ボス『メリー・E・ソーヤー』。
彼女に関しては……あまりに問題なさ過ぎた。一種のサービスステージだろう。
山道入り口付近に、ロンロンの時と同じような人工的なベンチがあり。
『しき』のアドバイスを終えて、公衆電話が鳴る前に手際よく準備を整えようとすると。
紅茶を淹れて直ぐに、メリーの姿が現れた。
幼い少女を形取った人形。綺麗に整った金髪ロングヘアに、ゴシックなドレス。
ここまでは良いが、問題は眼球が無い点。瞼もない。
深淵のような闇を覗かせる二つの奈落が顔に憑りついているような状態。
視界がどう見えているか、定かではない。
そんなメリーは、人形なのに「いい匂い!」と大袈裟に感動して、菓子と紅茶に飛びついてきた。
僕達に構うことなく、勝手にパクパク飲み食い始める。
警戒心がない。否、それ以上に菓子が目当てだったのだろう。
リジーと同じ意味で茶会に参加できなかったのが想像できた。
モゴモゴと口の中に菓子を突っ込んだまま、メリーは席に腰かけた僕達に尋ねる。
「あはほはひ、はいひひひたおはひら?」
こんなところでジャバウォックと似ないで欲しい。
僕が指摘しようとしたが、レオナルドが制した。なんとなく彼女の発言を読み取ったのだろう。
レオナルドは、メリーの容姿に動じず答える。
「みんなの様子を見に来たんだ。ここに来るまで、リジー達がいるのを確認してきた。マザーグースは館にいるのか?」
やっと飲み込んで、レオナルドの問いにメリーが返事をした。
「多分、いるんじゃない? 今のおじい様は恐ろしくて会う気にもなれないわぁ」
「スティンクがいるか確認しなきゃいけねぇんだけど」
「げっ! 止めた方がいいわよー。チョ~人間嫌いだから! アイツ!!」
「そっか」
レオナルドは複雑な表情を浮かべた。
ロンロンに関しては、ああやって無視しておけば問題ないが、対話するうえで面倒なのは間違いなく『ブライド・スティンク』。
面倒な奴を相手してきたレオナルドも、スティンク相手には手こずりそうか……
情報収集するべきか。僕はメリーに尋ねる。
「意外だね。僕達に視察を命じた人間は皆、君たちが散り散りになったと思い込んでいたよ」
「ふん! お馬鹿さんねぇ~。アテなく飛び出す訳ないでしょぉ? 新天地で縄張り争いしなきゃいけないの、どれだけ大変か人間には分からないのよ! 阿保の『スパロウ』と一緒にしないで頂戴」
レオナルドが「縄張り?」と聞き返す。
メリーは自慢げに語った。
「そーよ! この一帯、ううん、春の層はぜ~んぶ、おじい様の縄張りにしたのよ!! 人間の『恐怖』を私達だけのものにする代わり、管理もする。他の理性ある妖怪は追い出して、害為す妖怪は始末する。……って、同盟は解消するんでしょ?」
成程。
春の層は雑魚妖怪を除けば『マザーグース』とその子供たちで一強。
彼らを一網打尽すれば、春の層は真の平和になる。なんて後先考えない馬鹿馬鹿しい目標を掲げていたのだろうか。春の層の人間は。
僕がメリーに告げる。
「マザーグースは春の層の人間は信用しないだろうね。だから、別の層から僕達が派遣されてきたんだ」
「ふーん?」
僕とレオナルドを、眼球無い空洞でジロジロ観察してメリーが感心した。
「そうね。春っぽくないわ、貴方たち」
不思議に感じレオナルドは聞いた。
「春っぽい、って特徴あるのか?」
「大雑把にだけど分かるじゃない。春は自分大好き、夏は暑苦しい、秋は変人、冬は馬鹿真面目。……貴方たち、『季節』はなに? どれもピンと来ないの」
……ああ、やっぱり。
噂されてはいたが、やはり『季節』は性格別で分けられていたのか。
レオナルドは至って普通に言う。
「俺もルイスも『全季』だぜ」
「っ!? はあっ!!? ぜっ、『全季』の人間に捨て駒みたいな任務出す訳ないじゃない!」
彼女の反応は、世界観ならではの事だろう。
希少な『全季』は特別視される。当然か。僕はある程度、予想してた。
落ち着いて、怪訝そうなメリーに告げる。
「人間側も、例の件での失態は重く受け止めている。だから、あえて希少な『全季』の人間を差し出す事にしたのさ。大した実績もない、新入りの『全季』だけどね」
メリーは怪しんでいるのではなく、僕達に憐れみを抱いているようだった。
「残念だけど『全季』だとか、そんなもの意味ないわ。人間相手に容赦しないわよ、今のおじい様は」
きっと僕達は死んでしまうと嘆いている。
彼女の同情を感じながらも、レオナルドは尋ねた。
「マザーグースって、普段はどんな奴なんだ?」
「……『優しい』わよ。貴方達、人間には都合がいい『優しさ』ね。正直、妖怪らしくないわ。妖怪は『優しく』ないもの」
「へぇ」
それを聞いたレオナルドは意味深に感心する。
彼の胸の内では、マザーグースとどう付き合おうかと想像していることだろう。
メリーは不安そうに警告した。
「おじい様のところ、本当に行くつもり?」
僕がレオナルドにアイコンタクトして、食器を片付け立ち上がる。
それから、呪いの人形に言う。
「大丈夫だよ。レオナルドは普通な相手を対応するぐらい、なんてことないさ」
レオナルドが「んだよそれ」と呆れて突っ込む。僕は笑って一言付け加える。
「信用してるって意味さ」
眼球と瞼のないメリーが不安げに目元を歪ませながら、教えてくれた。
「おじい様に嘘をついては駄目よ。真実を見極められるから」
「わかったよ。どうもありがとう」
レオナルドは名残惜しく、メリーに手を振りながら山頂方面へと足を運ぶ。
ロンロンと同じで、フィールドから離脱すればクリアだろう。
その途中。
メリーの警告を思い返しているのだろう。レオナルドは「嘘をつくな、か」と唸っていた。
「ラスボス戦のヒントって奴か」
「このヒントがあってもマザーグースの説得は難しそうだね」
マザーグースが真偽の見極めが出来る、という情報は妖怪図鑑に載っていない。
そして、最終ボス『マザーグース』は特殊な形式だ。
妖精『しき』は、マザーグースに説得は出来ないだろうと尤もらしい前振りをしていたが。
最終ボス戦前、プレイヤーはマザーグースと対話が可能なのだ。
他プレイヤー達は、上手くいけばマザーグースの説得に成功すれば特殊勝利ができるのでは?
と、安直に考えて。
今日まで、様々なプレイヤーが、数多の説得を試みたが失敗に終わっている。
……嘘をつくな。を踏まえても、果たして説得できるものか。
それがレオナルドに出来てしまえるのか?
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