クックロビン隊(隊長不在)[二周回目]
念願のバンダースナッチ討伐後に解禁されるエリアへ向かった僕ら。
春エリア最終ボス『マザーグース』の館に向かう道なり。
バンダースナッチがいた街から続く舗装・整備されているうえ、ところどころで人が住んだ痕跡ある村が見られる。山頂付近の為、肌寒いのも特徴だ。
先刻に繰り広げた死闘を振り返るレオナルドが呟く。
「最後のアレ、やばかったなぁ。アレがずっと続いた状態で、バンダースナッチ倒せってなら俺、無理だったぜ」
「……一般プレイヤーが倒せるレベルまで引き下げてはいると思うよ」
「そうなのか?」
「考えてご覧。異次元ではなく、表で戦闘を続ければエネルギー切れは起きない筈だろう?」
「あー……ルイスの考えは当たってると思うぜ? 『魔素』でエネルギー補ってるっていう奴。でもさ、あれって攻撃範囲滅茶苦茶広いだろ。レーザービームとか」
「?」
しばらく歩いて、開けた場所に到着した僕らは絶景を眺める。
山頂付近だけあり、満開の桜と梅の木々、菜の花やネモフィラの花畑、雪解け水が流れ水量のある川などがハッキリ伺えた。
レオナルドが「あっ」と指さした先に、巨大な橋があった。
あれは……ロンロンの橋。
「ホラ。あっちまで攻撃届きそうじゃん。あと『マザーグース』の館とか、スティンクとリジー・ボーデンの家にも」
「……彼らに被害が及ばないように?」
「おう。それに、第二段階の攻撃ってプレイヤーを狙う奴だけだ」
確かに。
第二段階の『ホーミング弾』や小型ロボはランダムだが、プレイヤーを追撃する仕様。
終盤の耐久戦で披露したレーザービームを表でやれば、『マザーグース』の館までは届く。
だから、異次元で戦う必要があった……
昼寝の伏線と言い、妙に細かい。
そして、目的の隠し道に到着。
フィールド内にある一件のアンティークショップ。
通常なら扉すら開閉できないのだが、レシピイベント中のプレイヤーなら入れる。
レシピイベントは隠し要素の一種だからこそ、無関係のプレイヤーに悟られないよう工夫しているんだろう。
店内のレジカウンターを動かすと隠し戸。
そこを開けば、古びた包みで包装された箱がある。中には最後の欠片『食器』。
これでイベントで入手可能なものは揃った。
レオナルドが繊細な模様の食器一式を眺めて言う。
「実際に、アイツらと話せば分かるんじゃねーかな」
◆
最初は懐かしい場所。一面ボス『クックロビン隊(隊長不在)』の暗黒な森から。
転移された位置から真っ直ぐに道なりが続く。
つい先へ進みたくなる気持ちを堪えなければならない。
妖精『しき』が助言を終え、姿を消してから僕たちは行動可能となる。
レオナルドが周囲を見回して尋ねた。
「……で、どうすんだ?」
どこもかしこも森ばかり。
少なくとも、プレイヤーが一歩も歩かない限り鳥の妖怪たちは攻撃どころか出現もしないと判明している。
僕はレオナルドに頼んだ。
「僕は邪魔にならないよう、しゃがむから。君は周囲の木々を刈ってくれ」
「おう」
準備をしておいてよかった。僕は事前に購入した『ピクニックセット』を使用する。
これは、文字通りピクニック風の風呂敷が展開され、小型の椅子とテーブルがセットで登場するアイテム。
他にも『キャンプセット』や『テントセット』などアウトドア体験が可能なアイテムがNPCの雑貨屋で販売されている。
当初はSNS映えを狙った雰囲気作りと考えられていたが。
『新薬』を楽しむ為の雰囲気作りアイテムだと、最近では捉えられていて。
実際に、SNSでも話題を呼んでいる。
イベントレシピで完成されたアフタヌーンティーセットをテーブルに広げ。
一先ず、椅子に腰かけ僕たちは様子を伺う。
これで間違っているなら、別の方法を考えれば良い。
何も起きないまま数十秒……数分経過したか。
レオナルドが定期的に『ソウルサーチ』を発動させた甲斐あって、捕捉する。
歪な裂け目からひょこと顔覗かせる鳥頭が。
眼光が月明かりに反射し、闇夜で浮いていた。
念の為、手元に武器を構える。……ふと僕が視線を手元に落とすと、見慣れぬ太すぎる腕が。
バッと僕が顔を上げると、いつの間にか僕らの背後に大きな裂け目がある。
そこから覗く鳥頭の中から伸びる腕がスコーンを掴んでいた。
相手も僕に気づいて、慌てて腕を引っ込めようとする。
というか、今、こいつは武器を持っていないので攻撃し放題な状態だぞ。
ティースタンドを倒した音でレオナルドも「あ!」と声を荒げる。
「ちょ、おいおい!」
一人、いや一匹がスコーンを丸ごと取っていったのが気に食わなかったのか。
残りの鳥頭が裂け目を作って、接近し、残りのサンドイッチとケーキを奪い合う。
綺麗に整えたアフタヌーンティーセットをぐしゃぐしゃにし、彼らは裂け目に引っ込んでしまい。
それきりだった。
目の前の惨状に「あーあ」とぼやくレオナルド。
「背後にいたのは『ソウルサーチ』で分かってたんだけどよ。アレってルイスにビビっちまったのかな」
「君それ……いや、なんでもない。僕に伝える余裕なかったからね」
すると、レオナルドが何かを発見し手に取って見ると――それは『鍵』。
「これ……アイツらが落としていった?」
「使う場所に心当たりがあるね。きっとあそこだ」
レオナルドも察したようで「ああ」と納得した。
同時に『スペシャルクリア』という特殊なメッセージが表示され、クエストは終了した。
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遅刻しないどころか、余裕もって投稿できたのが久しぶりで申し訳ございません。
今後ともよろしくお願いします。