発狂
最初に撃破したのは四つ足歩行の機体。
残りは戦車の足に使われる無限軌道の機体。回転翼で飛行する機体。磁力で浮遊する機体。
合計四機の戦闘ロボットを撃破するのが、第一段階。
これらが光学迷彩搭載に加え、起動音がほぼ無音。加えて、異次元から突如出現。
厄介極まりない性質だが、それに追撃をかけるような特殊性質もある。
まず、機械なので当然『ソウルサーチ』では捕捉不可能。
加えて、光学迷彩ロボットの攻撃も視覚で確認できない仕様。
装甲も耐久度も高い。
なので、攻撃する際は『防御貫通』を付与してある鉄と銀の逆刃鎌をレオナルドは使用している。
何より――戦闘ロボットも回避をする。
光学迷彩搭載なので、何等かの手段で捕捉しなければならない。
今回、僕らが取った手段は――……
四つ足歩行と無限軌道の機体は、撒き散らした泥がこびり付くことで位置を捕捉。
回転翼の機体は砂が舞う事で。
磁力浮遊の機体は砂に混じった鉱物が反応するので、それを頼りに。
……という具合だ。
他にも色々手段はある。
面倒なので広範囲攻撃で吹き飛ばしたいところだろうが、これがいやらしい仕様で。
広範囲攻撃が発動した際は、瞬時に異次元へ引っ込んでしまう。
最後に、ロボットの攻撃。
どれも急所の頭部を的確に狙った無音射撃だ。
頭部しか狙わない仕様と分かれば、防御に徹底できる。
盾兵などの防御スキルが発動する際は、攻撃中止する仕様のようで、そこを狙うプレイヤーもいる。
機体自体が大きい為、狭い路地から出現はできず、大通りにしか現れない。
などの欠点を把握しておけば、ここまで到達したプレイヤーなら、ロボット撃破までは余裕だ。
「よし。これでロボット撃破だ」
レオナルドが宣言すると、最後に残った磁力浮遊の機体を倒す。
ここからが本番だ。
僕はバンダースナッチ本体が登場する前に、レオナルドに攻撃力上昇の『薬品一式』セットを使用。
僕自身も、レオナルドとは異なるAGI上昇の『薬品一式』セットを使用。
レオナルドは『ソウルサーチ』を発動。
向かいの大通り方面にバンダースナッチの魂を捕捉した。
僕にアイコンタクトをした後、レオナルドはバンダースナッチの方角へ移動。
ここからは別行動……
先ほどの説明通り、僕が自力で生存する第二段階が開始される。
遠目から人工的な発光が確認できる。
バンダースナッチは――機械生命体だ。
妖怪なのに、と突っ込むところだが。運営側に機械系を好む人間が多くいたで流そう。
バンダースナッチと接近戦を挑むには、ステータスの高さもそうだが、プレイヤー当人の反射神経の高さも必須。
奴の両腕、両足から高速振動する刃が出現。服装が自棄にボロボロだったのは、この刃が原因だ。
そして、ジェット噴射でえげつない速度を実現する翼のようなパーツが、背中から出現。
無論。この翼も自在な角度で動き、ジェット噴射自体が攻撃に含まれている。
背後に回って接近も許されない。
レオナルドが交戦している間に、僕は建物内部に避難する。
避難する建物も選ぶ。街の市役所らしい頑丈そうな白煉瓦の建築物。
事前に、レオナルドと避難候補を幾つか話し合っていたから、彼もなるべく避難候補の建物には近づかないよう心掛けてくれる筈。
『ブライド・スティンク』のように、逆刃鎌一本に僕を乗せて攻撃するよりも。
レオナルド自身が乗る分を除き、逆刃鎌とジョブ武器四本で攻撃する方が断然効率的だ。
彼が得意とする『ソウルターゲット』と『ソウルオペレーション』の併用攻撃。
単純に攻撃するのではない。
レオナルド自身は攻撃を受けないよう、回避しながら攻撃。
レオナルドが得意とする動きは『ソウルターゲット』で逆刃鎌から離脱し、別の逆刃鎌に乗り移る……大鎌を動く足場として利用しながら敵を翻弄するもの。
繊細な動きが出来ない『ソウルターゲット』の欠点を『ソウルオペレーション』で補う。
ジョブ武器の『死霊の鎌』も足場にできる。
『死霊の鎌』の柄込みに装飾としてある、青白い炎が閉じ込められた檻を小さな足場にして立つ。
最悪『ソウルターゲット』単体で、空中を駆け、武器を回転しつつ方向転換。
あえて『ソウルターゲット』を解除する事で、強制的に体を急降下。
などなど……厄介な動きばかり。
レオナルドは僕の警告――バンダースナッチに連続攻撃は五回まで、を守っているだろう。
調子乗って接近攻撃を続けると、バンダースナッチは格闘家系の『波動』に近い衝撃波を放ち。
武器を弾く他に耐久度も減らす。
そして、来る。
戦闘が繰り広げられている方角から特徴的なSEが微かに聞こえてくる。
バンダースナッチの背後から放たれる『ホーミング弾』だ。
これは正面の敵――レオナルドだけではなく、フィールドにいるプレイヤー全員にも追尾する全体攻撃。
窓ガラス越しから『ホーミング弾』を確認。
幾つか、僕のいる建造物に向かってくる……!
僕はまず建物の一室へ入り。市長が座っていただろう高価な机の下に避難した。
初撃が建物に衝突。爆音が無数に続き、白煉瓦の壁が破壊され、爆風と吹き飛んだ煉瓦が室内までなだれ込む。僕は被害の少ない場所目掛けて調合で威力高めた『火炎瓶』を投げ、破壊。
そこから無傷で建物から抜け出す。
『ホーミング弾』はまだ続く。
僕はそこから細い路地に入り直撃を避けるルートへ向かう。
建物に衝突し、僕の背後から建物が爆発・倒壊、そして瓦礫が僕の背後を塞いでいく。
建物を避け、降り注ぐ『ホーミング弾』は僕が全速力で駆け続け、引き寄せる。
そして『火炎瓶』を背後の建物に投げ、爆発・倒壊することで『ホーミング弾』を防ぐ。
真正面から向かってくるものに対しては、直撃覚悟だ。
武器の鞄で防御しつつ回避するが、僕が接近した事で何等かの反応を起こし、爆発。即座の『回復薬』使用で体力回復。
その次は、最初に破壊したロボットとは別の新型ロボットが出現。
恐らく、バンダースナッチが即席で作製したらしい遠距離射撃や鋭利な刃をチェインソーの如く回転させる近距離攻撃を行う小型ロボット。
時間経過と共に数を増加する。
ただし、これは光学迷彩を搭載していない。
ならば楽かと言えば違う。
バンダースナッチは近距離戦するプレイヤーの相手しながら、『ホーミング弾』を定期的に放つ。
そこに小型ロボが追加されたのだ。
破壊しなければ小型ロボは増え続けるし、『ホーミング弾』の頻度も増える。
時間経過と共に攻撃の密度が悪化する……プレイヤーたちは『発狂』と呼ぶ状態と化す。
ただ、この『発狂』に突入するのは体力が削れ、最終段階間近の前触れでもある。
レオナルドがバンダースナッチを倒しきるまでに、僕は『発狂』を乗り越えなければならない。
今も僕は、レオナルドのMP回復と薬品の効果時間を確認し、効果切れのタイミングを計っていた。
皆様、感想・誤字報告・評価・ブクマありがとうございます。
次回でバンダースナッチ戦が終わります。
よろしくお願いします。