タイムリミット
残された時間は三日間だけ。
いくらアイドルファンが騒ごうが、プレイヤーが訴えようが、三日後にイベントは開催されるだろう。
脅迫や事件が発生するか、運営の独断でも起きない限り、中止にはならない。
本来なら、僕達はジョブスキルの選定を行い『バンダースナッチ』に挑むつもりだった。
だが、どうだろう。
レオナルドも触れていたが、このままでは僕たちは恰好の的。
サクラの一件でSNS上に浮上していた僕らの情報を頼りに、奴らが店前でデモを起こすに違いない。
PKありきな以上、プレイヤー同士のトラブルは絶えないが、運営もゲーム上、支障を来すトラブルには必ず対処する。
集会所や市役所での立ち往生。個人経営店に対する営業妨害。
それらに加えギルド周辺での騒音行為、通行妨害……
つまるところ、居住区内での迷惑行為を一定時間行うと、警備用NPCによって強制連行され警告を受ける。
悪質な迷惑行為を続けるプレイヤーは、アカウントの永久停止措置を行い。
オフラインでも可能な、メインクエストのみ挑め。
最低保証の、武器の耐久力回復とレベルアップ、上限解放のみ行うNPCの鍛冶屋を加えた、NPCが運営する販売店だけ利用可能。
フレンド機能を含めた、他プレイヤーと交流可能なあらゆるオンラインコンテンツが利用不可に。
……なんてものは意味ない。
アカウントを削除し、適当な新しいアカウントでログインされる。いたちごっこだ。
この事態が解決するには、忌まわしいアイドルグループが『マギア・シーズン・オンライン』から離れるぐらいか。
とにかく、イベントに参加すればPKに合わずとも、過剰な妨害行為を受けるのは避けられない。
最後まで無事にクリアできるか……
レオナルドは僕と同じように考え込んでいた。
互いに沈黙を保っていたが、レオナルドは僕に聞き返す。
「ルイス。俺達は本当に被害者か?」
「被害者だよ」
「そっか。…………じゃあ。俺、イベント参加する」
「……本気かい?」
僕は聞き返す。
レオナルドは――真剣だった。
今までないほど、本気の眼差しで話す。
「正直、参加したら駄目だろって思うぞ。でも……参加、しなくちゃいけねーんだ。カサブランカに認めて貰うには。この間、俺を尋ねに来たんだぜ。アイツ。俺がイベント参加しなかった理由、聞いて失望された」
よりもよって、あの女が?
確かに、バトルロイヤルに参加するかと聞いてきたが。
お人好しな彼には悪いが、流石に僕は忠告した。
「レオナルド、あの女は止めた方が良い。ムサシのように上手くいく相手じゃない。付き合ったら駄目な人間だよ」
「知ってる。カサブランカって、ダチ欲しくないだろーし。俺もアイツとダチになるつもりねえよ。偶然、出くわしたら軽く話できるような知り合い程度になりてぇ」
「………はあ?」
「赤の他人以上、知り合い未満? あー、とにかく! このままだと、向こうから俺に話しかけてくれなくなる。俺が話しかけても無視されちまう。それだけは嫌なんだよ」
絶妙な関係性を持ち出し、熱弁するレオナルドは普段と違った様子だった。
まさかとは思ったが。
僕は、レオナルドのカサブランカに対する感情には触れず、イベントに関する話題へ戻す。
「君に対するヘイトは想像以上に酷いよ」
「……分かってる。ルイスに迷惑かけちまうから、バンダースナッチ倒して、レシピイベントが終わったら、フレンドブロックしてくれ。店にも二度と来ない。一人でやってくよ」
「勝手に決めないでくれ。君以外の墓守系プレイヤーを、どうやって確保すればいい? こんな状況じゃ、誰も墓守系をやりたがらないよ」
「明日、明後日、ズル休みして素材集めまくる。俺がいなくなった後は、茜さん達に素材持ち込んでもらって新薬作ればいい。流石にずっとこんな騒動続く訳ねえから、落ち着いた頃に墓守のプレイヤーも増えんだろ」
「君の代わりはいないと言った筈だよ。覚えていないのかな」
レオナルドが気まずい表情で、そうだったかと思い出そうとしている。
構わず僕は話を続けた。
「大体、あの女は協力型イベントの結果云々は気にしないさ」
「そうかもな。でも……イベントは本気で参加する。前と同じで、脅迫に屈する程度の人間で見られたくないからな。結果はともかく、俺の事を噂で聞いてくれればいい」
だが、レオナルドのイベントに出たい意思は変わらない。
これだと、サクラ相手に意固地になった方がマシじゃないか。
……どうせ。大して変わらないか。最善を尽くして、事を収める計画を立てよう。
大分、落ち着きを取り戻した僕は咳払いする。
「君、一人でイベントは無理がありすぎる。僕もついて行くよ」
「え」
「概要に書かれているけど、ちょっとした謎解き要素もある。君はそういうの得意かい?」
「あー……それは」
「ダンジョンの構成も不明だ。あらゆる事態を想定して、僕が付いて行って君のフォローをしないと」
申し訳ない顔で「ありがとう」とレオナルドが言う。
改めて、僕はレオナルドにメニュー画面を開くよう促した。
「『バンダースナッチ』の攻略に挑もう」
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当分は毎日更新が続きますので、よろしくお願いします。