迫害
色々と鬱陶しい内容になります。
一番先に作ったのは、僕達と反論したいが僕は堪える。
どうやら、エリア全体の喧しい騒動は『クインテット・ローズ』ファンの無茶苦茶な主張で絡んでくる迷惑行為だ。
レオナルド以外の魂食いのプレイヤー相手に無差別な迫害行為をやっていた。
大多数のプレイヤーは、絡まれるのが面倒でマイルームなどに転移する。
しかし、レオナルドは違う。
僕もレオナルドも、ほんの少し先にある防具店に行きたいだけ。
たったそれだけ。
なのに、次々と女共がレオナルドを取り囲んで、子供と対して変わらない嫌味を吹っ掛ける。
「どうせ上手く乗れないんでしょ? 鎌使うのやめたらぁ?」
「目障りだから消えて」
「イベントに参加しないで!」
「ゲームやってないで、真面目に働け。クソニート」
まるで小学生のノリで「やめろ」コールを続ける女共。
コイツらが立ち往生するせいで、肝心の防具店にも入れなくなり、コールは大音量となる。
何故、NPCの販売店は店内に直接転移できない仕様なんだ! 集会所や市役所だってそうだ。
些細な部分は大目に見たが、最悪のタイミングで不満の形に昇華した。
周囲の人間は誰も僕らを助けない。見て見ぬふり。
むしろ、さっさと逃げればいいのにと阿保を見るような視線を注ぐ。
僕は舌打ちしながら、レオナルドにメッセージを送るが、返答がない。
間違いなく女共に囲われている。
身動きできない状態でも、音声認識か脳波認識でメニュー画面などは開ける筈だ。
それでも、僕に返答しないという事は、まさかと悪寒を覚える。
レオナルドは「やめろ」と言われたら『やめてしまう』人間だ。
こんな自分勝手で他人の気持ちも考えない屑どもの言葉に耳を貸す方が愚か。
無視するのが正解だ。
しかし、レオナルドからメッセージの返事は来ない。
自棄になって何度も繰り返す短い内容『店に転移』に気づいていない。
メッセージが届くとなる効果音が、糞アマ共の声でかき消されてしまっているのか。
冗談じゃない。
レオナルドが居なくなれば、代わりの墓守を確保すればいいものを。
人間性が塵のブサイクメス豚どもが喚くせいで、他の墓守系プレイヤーが委縮する。
誰も続けようとすらしないものを、続けられる人間はレオナルドだけだ。
彼ほど都合のいい人間はいないのに……!
「レオナルド!」
普通の呼び声なんて意味ない。自分で自分の声が聞こえないほどだった。
段々と、僕も苛立ちが募る。
この瞬間まで、この状況に腹立たなかった訳がないが、血管が破裂してもおかしくないほど、感情的に大声を出す。
「レオナルド!!」
「「「「やーめーろ! やーめーろ! やーめーろ! やーめーろ!」」」」
「レオナルド!!!」
「「「「やーめーろ! やーめーろ! やーめーろ! やーめーろ!」」」」
「レオナルド!!!!」
「「「「やーめーろ! やーめーろ! やーめーろ! やーめーろ!」」」」
本当になんなんだこの状況は!
どいつもこいつも糞ったれのゴミクズだ!!
全員小学生か幼稚園児か!? 常識的な教養すらない、全員訴えて刑務所にぶち込んでやりたい!!!
内心で溜まり切った暴言を吐き出すように、僕は人生で初めて喉が潰れ兼ねない声量で吠えた。
「レオナルドォォオオォォォォオオォォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!」
すると、周囲が僅かに落ち着いたように感じた。
僕の前に立ち塞がっていた糞アマは、僕の怒声に耳を塞いで、何事かと血相変えて振り返る。
他にも屑どもが、僕に視線を送るが知ったものか。
張り裂けんばかりの声で、僕は言う。
「僕のメッセージを無視するんじゃあない! 早く返事をしろ!! 都合のいい善人がッ!!!」
バーチャルなのに息絶え絶えの僕が叫び終えると、ここからじゃ姿が全く見えないレオナルドから『悪い!』『店に移動する! ほんとゴメン!!』と間抜けな返事が返って来た。
長々しい溜息をつく僕に、不可解な視線を送る女共に嫌味と皮肉を込めて告げる。
「ゲームが下手糞で目障りで働きもしないクソニートな僕の従業員が、ご迷惑をお掛けし申し訳ございませんでした!」
生まれて初めて、ガンを飛ばしながら僕も鬱陶しい現場から転移した。
◆
ただ買い物をしに行っただけなのに。
ジョブスキルだけは、本人が直接購入しなければならないから、タイミングは良かった。
防具店で買おうとした『白金の鎧』は……茜かミナトに頼もう。
今は、そんな事はどうでもいい。
春エリアの『ワンダーラビット』に戻った僕らを出迎えたのは、ジャバウォック。
テーブルにうさぎの小物などで組み立てたタワーを完成させようとしている。
突然、僕らが戻って、僕が乱雑に椅子へ腰かけた騒音で手元を狂わせたのだろう。
小物がバラバラと崩れ、床に散らかった。
レオナルドが「あ~……」と声を漏らし、床に落ちた小物を片付け始める。
僕は真っ先に確認した。
「君、本気で止めようとしたんじゃないだろうね」
僕が若干苛立っているのを理解したのか、レオナルドは一旦片付けを中断して、回収した小物だけテーブルへ置く。
彼は、不思議と焦りもなく首を横に振った。
「まさか。イベントもゲームも、止めたくないに決まってんだろ」
「じゃあ、何故さっさと転移しなかったんだい」
「だって……その、著作権とか、法律とか、裁判沙汰になるって言うからさ」
なんだ。それか……
嫌々、アイドル関連の情報収集をするべくSNSを漁り始める僕。
黄金色の瞳で、じっと観察するジャバウォックが視界を端に映ってくる。
舌打ちして、まずはジャバウォックの餌を出す。
作り置きしてある新薬の一つ『アップルパイ』のホールを大皿に載せ「食べていいよ」とテーブルに置いた。
奇妙な事に、いつもなら真っ先に餌を食うジャバウォックが僕ばかりジロジロと眺め。
僕を指さして言う。
「怒ってる。パパみたい」
レオナルドは空気を読んで「怒ってるから向こうで食べてくれ」とアップルパイとジャバウォックを工房側に移動させた。
戻って来たレオナルドに、僕が話す。
「裁判沙汰になったら僕が相手するよ。両親の知人に優秀な弁護士がいる。最悪、証人を買収してでも勝つ」
「怖いこと言うなよ……」
「……はあ、案の定。馬鹿な連中が調子乗っているだけだ。糞アマ共が主張してた『逆刃鎌』の件は、アイドル連中は公式に宣言してないよ」
「本当か? じゃあ、なんであんな嘘つくんだ」
「勢いで相手を委縮させようとしているんだよ。どうやら墓守以外にも飛行の邪魔をする魔法使いや盗賊にも似たような事をしているらしい。魂食いの動画投稿者、紅殻は覚えているかい。彼女、適当な通報のせいで動画サイトのアカウントが停止されたらしい」
「…………」
「自分のせいだと思ってるかい」
「俺達、無関係って立場じゃねーだろ。俺が色々考え込んだせいで、ルイスをあんな目立たせちまった。イベントに参加しようもんなら絶対に邪魔される。こんなの、お前に恨まれても仕方ねー。俺の自業自得って奴だ」
「恨んでないよ」
インターネット検索を閉じて僕は反論する。
「あれの一体どこが自業自得なのかな? 彼女達は、自分の好きなものの為に赤の他人どころか、このゲーム自体に影響を及ぼすほど暴れ回っている。全て非常識な彼女達のせいだ。君も、僕も、被害者だ。分かったかい」
レオナルドはどこか納得いかない複雑な表情で頷いた。
皆様、感想・誤字報告・評価・ブクマありがとうございます。
次回の投稿は明後日になります。
リアルの都合とはいえ、一日一話更新を守れず申し訳ございません。
明後日以降、連休となる為、連続投稿ができますので、よろしくお願いします。