夏エリア
今回も比較的長めです
レオナルドにジャバウォックの反応を見て貰い、僕は確信を得た。
レシピイベント最後のピース『食器』を入手するには『バンダースナッチ』を倒さなければならない。
ジャバウォックが「お茶会で食べたもの」と発言していた。
隠し要素があるとすれば『ボス戦』だ。
春エリアのボス戦。実は共通点がある。
それは、プレイヤーが一定の行動をするまでボス戦が開始しない点。
まだ、僕達が挑戦していない夏エリア。
とっくに夏エリアを攻略し終え、秋エリアの攻略を始めているムサシの動画を参考にする限り。
春エリアだけにある特徴のようだ。
大多数の他プレイヤーは、最初のエリアだからこそ準備時間が設けられている。
そう考えているだろう。
でも、違う。
レシピイベントを通して発動可能な行動をする為のものだ。
何であれ、『バンダースナッチ』の討伐ができなければ話にならない。
そして、件の『バンダースナッチ』は恐ろしく速い攻撃ばかり繰り出す。
ムサシの動画は参考にならない。
彼のステータスがレオナルドと同じものではないうえ、武士系と墓守系では可能な手段が異なる。
レオナルドに必要なのは――武器だ。
『バンダースナッチ』自体が固く。普通の武器では攻撃が通らない。
スキル『防御貫通』を付与しても、『バンダースナッチ』の体力そのものが多い。
そこに『バンダースナッチ』の凶悪な速度が立ち塞がる。
頑丈で攻撃力の高い武器は金・銀・鉱石類を連想するが、あれらは重量がデメリットに付きまとう。
つまり、必要な素材は……
「―――『季節石』は大鎌一本作るのに70個ね」
茜に尋ねた所、彼女からとんでもない量を要求された。
ただ、盾や大ハンマーよりは必要素材量が少ないので、嘘ではないだろう。
僕の隣で「70!?」と驚愕するレオナルド。
彼は必要数を暗算し始める。
「……280。280個!? 俺たち二人じゃ持ちきれねーから、一度戻る必要あんじゃねーかッ!」
「アンタら四本作るつもりかいっ!!」
茜が思わず突っ込みして、一つ話を付け加えた。
「アタシには他の依頼もあるし『季節石』は加工に時間かかるから。四本作るんだったら三日必要だね」
三日……
告知されたイベント『不思議の春の神隠し』が開始されるのも、ちょうど三日後。
どうしたものか。
僕がレオナルドの様子を伺おうと視線を向けると、タイミングよく彼も僕と目が合う。
なんだか、くすぐったい気分だ。
レオナルドは何ら反応せず「どうする?」と僕に聞いた。
零れそうな笑いを堪えて僕は提案する。
「夏エリアで購入できるジョブスキルを試してみようか。それで無理だったら、イベントまでにレシピイベント攻略は諦めよう」
「だな」
仕方ないかとレオナルドも決断した。僕らの反応を見て、茜は不思議そうに尋ねた。
「なんだい。イベントまでにって、焦る必要ないよ。制限時間つきのイベントじゃないんだろ?」
僕が説明する。
「例のイベント。春エリアの妖怪関連のイベントじゃないですか。バックストーリーを把握できたら楽しめるんじゃないかと思って」
「はー……確かにね。だったら、レオ。ムサシに頼めばいいじゃないか」
「ムサシは秋エリアの攻略進めてるじゃないですか。あともう少しで、冬エリア行けそうなところ、邪魔しちゃ悪いですよ」
控えめなレオナルドの態度に呆れつつも、茜は一安心しているようだった。
その理由を彼女は自然と明かす。
「イベント参加するつもりなら……アンタたち、もう変な連中に絡まれたりしてないんだね?」
ああ、それか。
僕は漸く謎が解けた。きっとミナトや小雪が意味深な反応をしていたのも、それが理由だ。
サクラに絡まれ、変に目立ったせいで僕達二人はイベント参加しにくくなり。
結果、参加を自粛。
折角のイベントに参加できなかったのを、レオナルドは根に持っているのではと心配しているのだろう。
僕が「おかげさまで」と答える。
「次のイベントは全プレイヤー協力型。PKが制限されていますので、大丈夫でしょう」
第一、僕もレオナルドも仮面を被って参加するつもりだ。
PK行為で目立つレオナルドに関しては、新しい仮面と衣装をミナトに依頼してある。
念には念を。僕もマルチエリアで着たのとは異なる衣装を依頼した。
レオナルドが話に加わる。
「それと、集会所じゃなくてメニュー画面から参加受付できるようになったからですよ」
「そうだね。これは、君の騒動が運営の目に止まったからだよ」
「んー……そうか?」
レオナルド以外でも起こりうるトラブルだ。
一例として、運営に注目されたのが功を奏した訳だ。
茜が言葉交わす僕らを眺め「イベントに間に合えばいいんだけどねぇ」とぼやいた。
◆
素材集め目的で、夏のマルチエリアに足運んではいるが、夏エリアの街に訪れたのは今日が初めてな僕ら。
噂に聞いた通り、時間帯に合った熱帯夜。肌をベタつく湿気と暑さが襲う。
勿論、ミナトに作って貰った夏用の服を着用して来たが、僕もレオナルドも暑さで参りそうだった。
春エリアと雰囲気も異なり、街は活気づいて日夜NPCのダンサーが踊り、祭り状態。夜には屋台が並ぶ。
街並みは、比較的近代的で道もコンクリートか何かで舗装され、人の手が及んでいる場所には街灯が建つ。そして――街は海に面して存在し、白い砂浜が見える。
一言で説明すれば、ハワイを連想させる層だ。
夏エリアは海と山があり、どちらに建てるかで庭で育つ植物や新薬に影響があるらしい。
僕は、まだ二号店を建てられないが、建てるとすれば山側にするつもりだ。
山は涼しく、人目がつかない場所が多く。気候上、好き好んで一軒家を建てるプレイヤーは少ない。
わざわざ建てるのは、僕と同じ薬剤師系のプレイヤーだけ。
「ルイス! さっさと入ろうぜ!!」
レオナルドは早速、転移したNPCが運営する販売店に入る。
僕も続いて入店すると、建物内部はクーラー代わりに冷気を放つ特殊な鉱石が置かれて涼しい。
まずは、スキル販売店に向かう。
「お! あった。これだよ、これ」
レオナルドが自棄に欲しがっていたのは、問題スキル。
[無欲の寵愛]
装備を除く、アイテムを所持していない場合、全てのステータスを+50する。
一見、とんでもないスキルだ。
僕は警告同然に、レオナルドへ助言を与える。
「レオナルド。前回のバトルロイヤルで多くのプレイヤーがスタミナ対策をしていなかった原因がこれだよ」
僕も後に知ったが、これがバトルロイヤル向けのスキルと噂になり。
結果として、薬品系だけではなくアイテムも持ち込まず。
開幕から全力を出し、多くポイント稼ごうとしたプレイヤーばかりになったのが、事の顛末。
「……あー。考える事は皆、同じって奴だな」
「うん。ムサシもこのスキルを装備するつもりだったから、薬品をいらないと拒否してたんだろうね」
「げ。そうだったのか。悪い事したな……」
「でも、君の助言を聞いて持ち込んだ。いざという時は、自分で捨てられるからね。『バンダースナッチ』相手はともかく、バトルロイヤルでは気を付けるんだよ」
「おう。あとは――」
マルチエリアを巡り巡り、クリア報酬で貯まったジョブポイントで使えそうなスキルを購入していくレオナルド。
だが、ジョブスキルもセットできるのは十個だけ。
どのスキルが有用か、これから調整する必要がある。
スキルの次は、防具だ。
NPCが販売する防具は、形状が固定されている欠点があるが、オリジナル衣装とは違い防御補正やスキルが付与されている。
防御補正は皆無だが、重量補正と攻撃速度をアップする『白金の鎧』。これが目当てだ。
防具店は隣なので、一旦外に出て移動しようと矢先。
なんだか、外が変に騒がしい。女の奇声が耳につくから、例のアイドル共が夏エリアにいるのかと思った。
が、どうやら違う雰囲気が漂う。
僕もレオナルドも足を止め、ごった返す人混みに注目した。
すると突然。人混みに紛れていた女性プレイヤーが叫ぶ。
「ちょっと! そいつ鎌持ってるわよ!!」
瞬く間に無数の女がレオナルドを囲い、険しい表情で睨みつけて来る。
僕は「邪魔!」と女共の誰かに押し出され、固いコンクリートに転倒してしまう。
これが現実なら最悪、大怪我になっただろうに。冗談じゃない。
レオナルドも見知らぬ女たちに困惑していた。
「な、なんだぁ?」
「アンタ、『逆刃鎌』使ってるでしょ」
「え!?」
僕も一瞬、レオナルドが逆刃鎌を広めたプレイヤーだとバレたのかと焦ったが。
女共が喚き出した内容は、見当違いで支離滅裂なものだった。
「『逆刃鎌』は『クインテット・ローズ』のもの! 勝手に使わないでくれる!?」
「そうよ! 著作権って奴があんのよ!!」
「分かる? 勝手に使い続けたら法律でアンタを訴えるから!」
…………はあ??????????????????
皆様、感想・誤字報告・評価・ブクマありがとうございます。
少々遅刻して申し訳ありません。
明後日に投稿予定ですが、リアルの都合上、最悪投稿できないかもしれません。
ご了承ください。