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新たな脅威

長めの内容となっています。


 お茶の時間を終えると、茜たちに依頼していた品々を確認する僕ら。

 中でも、茜に作って貰ったジャバウォックに悪戯されない為の『妖怪避けの守り』を付与した棚。

 ここに下準備の加工を終えた素材を収納すれば、一安心だ。


 ……しかし、悪戯し甲斐のない環境だと、逆にジャバウォックの不服を買う。

 まず、僕はレオナルドにラッピングし終えた箱を渡した。


「レオナルド。薬草の収穫と、柵の取り付け、あとインテリアを配置してくれ。その間に僕は店内を整理整頓するよ。全部終わったら、花畑エリアに向かおう」


「これ、小雪に渡す奴か。わかった」


 レオナルドが庭に移動するのを見届け、僕は手際よく店内全てを整理整頓し始めた。


 最初に購入した『妖怪避けの守り』が付与されてない棚は、工房に配置。

 そこには新薬作製キットを収納。

 工房内部に配置する作業台なども、特殊家具で初期よりも広い台を作製して貰った。

 基礎薬品の製造する器具・タンクの数も増え、スペースを食っていたが、余裕を持って置ける広さまで店全体は拡張している。


 店内に配置したら見栄えが悪い倉庫も、工房に移動。倉庫には貴重品である装備品を保管する。

 地下室の扉も店内ではなく、工房側に移動させて……当初配置していた小物とテーブル席だけある、スッキリした店内を取り戻した。


 テーブル席も、僕とレオナルドが座るだけのものだったが。

 新たに作って貰ったテーブル席は、四人分の椅子と円形で大き目なテーブル。同じものを三組配置。

 僕はそこに、テーブルクロスを敷き、兎の小物を置いた。

 残った店内のスペースに『不思議の国のアリス』をモチーフにした小物や、薬草などが入った瓶を並べた棚を配置。


 ああ、忘れるところだった。

 ミナトに依頼した壁かけのインテリアを取り出す。

 他にも依頼した壁紙・カーテンを新調し、天井にぶら下げる控えめなシャンデリアを配置。

 扉から窓、店全体を『ワンダーラビット』に似合った『不思議の国のアリス』らしい風貌に変更する。

 実際の工事なら恐ろしく手間暇かかるが、そこはバーチャル。

 手軽な操作で、誰でも簡単に変更可能な訳だ。


 お客を招く訳ではないが、店内の小さな喫茶店らしい雰囲気作りは完成した。

 残るは庭だが、もう少し広くなってからで問題ない。

 変貌を遂げた空間をキョロキョロ見回すジャバウォックを他所に、次は地下へ移動する僕。


 地下にあった素材入りの瓶は全て『妖怪避けの守り』を付与した棚に収納。

 さて……備蓄していた基礎薬品用の薬草。

 これを()()()麻袋に詰める。何がどれか分かりやすいように麻袋に印をつけた。

 次に水。種類別に分け、樽に保管。

 木材はそのままの状態で山積み。

 鉱物類や繊維類はそのままの状態で『妖怪避けの守り』を()()()()()()棚に。


「えいえい」


 すると、いつの間に移動したのか。

 ジャバウォックが、僕の傍らで麻袋をサンドバッグのように殴ったり蹴ったりし始めた。

 僕と目が合ったジャバウォックは、構う事なく色んな麻袋をサンドバッグ代わりにしていく。

 それに飽きると、木材で水樽を太鼓のように叩き始める。自棄にリズミカルなのが腹立たしい。

 僕は最後に、邪魔にならない程度の小道具を幾つか地下に置いた。


 こんな具合で、座敷童子を飽きさせないような悪戯し甲斐要素を残しておけば、不服は生じない筈。

 作業を完了した僕は、やっとレオナルドがいる庭へ転移する。


 無人販売所前に小雪が来ており、レオナルドは庭の外側に移動していた。

 庭は外との間に見えない壁がある。ああやって品を渡すには、一旦庭から出るしかない。

 近頃、口が回るようになった小雪の話が聞こえる。


「レオさん。()()()()知ってます? 『ソウルオペレーション(ソルオペ)』で逆刃の鎌に乗る奴」


「え? あ、あー……まあ」


「あれ、凄いっすよね~。見つけた人、神じゃないすか? てか、レオさんやってます?? 鎌バイク」


「う、うーん。結構、バランス取るの大変なんだよな。俺には無理だ」


「やっぱ難しいんすか。自分は楽そうに見えるんすけど……」


 ベラベラ喋っていた小雪が、庭にいる僕の存在に気づくと、慌ててレオナルドに別れを告げ、立ち去った。

 レオナルドも僕に気づき、庭に移動する。

 彼はなんだか複雑そうな表情だ。


「逆刃鎌が広まったら、俺も人目を気にしないで練習とかできるかな~って思ったんだけどさ……」


 僕は彼の言い分が面白くて、吹き出してしまった。

 「何で笑うんだよ」とレオナルドが怪訝そうな表情をするので、僕も笑いを落ち着かせ、返事をする。


「アレを直ぐに乗りこなせるのは、君だけだよ。少しは自身の力量を自覚できたんじゃないかな?」


 レオナルドは珍しくムスっとした表情を浮かべる。

 新薬が注目ばかりされているが、時を同じくして逆刃鎌の噂も墓守系プレイヤーに伝わっていた。

 だが、逆刃鎌のコントロールは『ソウルターゲット』と同じバランス感覚を求められる。


 『ソウルターゲット』を自在に扱えるプレイヤーは、レオナルド程ではないが逆刃鎌を乗りこなしている噂を聞くが、それ以外は練習を続けていたり、センスがないので止めるなど様々。

 影ながら、墓守系の界隈も活気づいた。

 薬剤師とコンビを組むうえでも相性良いことがあり、僅かにプレイヤーは増加傾向にあるようだ。


 庭の作業も終え、僕はレオナルドに提案する。


「よし。じゃあ、そろそろ花畑エリアに行こうか」


「おー。そういや最近、行ってねぇや。花畑。薬剤師増えたから、混んでんのかな?」


「どうだろう。新薬作製に着手するようになったら、足を運びにくくなると思うけど」


 なるべく多くの素材を採取し、店に置いたら再び花畑に向かう。

 何往復かする予定で、僕達は花畑エリアに向かった訳だが…………

 そこには、予想外の光景が広まっていた。





「「「「「「キャ~~~~~~~~!!!!」」」」」」


 無数の女性の絶叫。

 これは悲鳴ではなく歓喜の叫びだった。

 赤や白、黄、紫、緑の衣服やアクセサリを身に着けた女性プレイヤーの群れ、群れ、群れ……


 転移した僕とレオナルドの前には、おぞましい群衆の光景が広がる。

 彼女たちが熱帯びる原因は、スポーン位置付近の花畑をステージにして演技をしている五人組の男性プレイヤー。

 しかも彼らは、()()()を自在に乗りこなして、空中ターンや高速スピンなどの演技を披露。

 女性たちに媚び売るように、手を振ったり、投げキッスしたり。

 その度に女性たちが狂喜乱舞。猿のように黄色い声を上げていた。


「心く~ん!」


「竜司様ー! こっち見てー!!」


「今、直人くんが私に手振った! 絶対、私に!!」


「むっちゃん、可愛いー!」


「翔太スゴ! やっぱり体育会系だから、ああいうの得意なのよ!!」


 あの五人組の誰か名を呼んでいるのだろう。

 僕達は誰一人知らない。

 しかし、彼らが何者か。大体の予想はついた。そして、ここからの悪い展開も。


「ちょっと! ここで立ち止まらないで!! 奥にいけないんだけど!!!」


 僕ら以外にも、スポーン位置で足止めを食らっているプレイヤーが数多くいた。

 皆、目の前の光景に呆気取られているが、素材集めの為、奥に移動しようにも女性たちが邪魔になって通れず。

 空を飛ぼうにも、魔法使いの女性プレイヤーが沢山、箒に乗って五人組を観賞している始末。

 プレイヤーの何人かが大声で、女性たちに注意を始めた。


「おい! 俺達が通れないだろ! 道を開けてくれよ!」


 しかし、彼女達はまるで自分たちが正しいかのように冷たい態度をする。


「はあ? 何なの、アンタ達」


「折角、盛り上がってたのにテンションがた落ち……最ッ悪」


「それはこっちの台詞だ! クソアマ!! ゲームと無関係な()()()()()()()()()を開いてる方が場違いなんだよ! 現実(リアル)でやれよ!!」


「コンサート開く金もない売れないアイドルだから、ここでアピールしてるんだろ? 悲しいねー」


「キモオタだから、CDランキングとか見てないのぉ? 今週もオリコン一位ですよーだ!!」


「だったら、何でこんなところで集客活動なんかしてるんでしょーね? どうせ売上とか誤魔化してるに決まってんじゃん」


「なによ! このゲーム、自分勝手やりたい放題して良いんでしょ!? ゲームだからって平気で人殺してる連中に説教されたくないだけど!!」


 民度の悪いアイドルファンと仮想世界でしかマウント取れないゲームオタク共。

 双方による醜い罵り合いが加速して、不安を感じた者は潔く離脱を行い始めた。

 レオナルドは周囲の状況に困惑した様子。

 騒音で声がかき消される為、僕はレオナルドの腕を直接引っ張り、無言でメニュー画面を開き、彼に離脱を促した。

 納得いかない不満気な態度だが、仕方なくレオナルドも今回ばかりは離脱を行った。


 この騒動が始まりに過ぎないと、僕はまだ知らなかった。

皆様、感想・誤字報告・評価・ブクマありがとうございます。

わたしの作品が暇つぶしのお供になれたら幸いです。

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