ブライド・スティンク
ボス戦なので長めの内容です
メインクエスト五面ボスエリア。
夜空に星々が輝く中。僕とレオナルドは貧相で古びた一軒家の前に転移される。
周囲にはボロボロの桶や農具。どれも穴が開いてたり、使えない状態で壊れていた。
いつも通り、妖精『しき』が登場と共に助言を与える。
「ここにいるのは『マザーグース』の右腕『ブライド・スティンク』だヨン。……貴方達は乗り物酔いってするヨン? 私は妖精だから、そういう症状はないヨン。人間って大変ヨン」
なんだか、珍しく普通の会話をしてきたように感じるが、この先で起きる事態を予期した助言でもある。
二面の『リジー・ボーデン』よろしく、『ブライド・スティンク』も小屋に入るまでボス戦は開始しない。
レオナルドが、二本の木製逆刃鎌とジョブ武器『死霊の鎌』の三本を装備。
マルチエリアの時と同じように、木製逆刃鎌の峰に腰かける僕。
強化枠も確認した。
クエスト前にレオナルドが食した新薬の効力は以下の通り。
[春エリア内でのSTR急上昇&持続]
[春エリア内でのATK急上昇&持続]
[春エリア内でのATKとSTR上昇&持続]
[春エリア内での全ステータスが上昇&持続]
[春エリア内でのみMP無限状態]
『ブライド・スティンク』――スティンクは形態変化が三段階ある。
レオナルドは第一、第二形態時はSTR強化の薬品を、最終形態時はATK強化系の薬品を使用する。
僕は『サクラのフロート』による[春エリア内での全ステータスが上昇&持続]以外は、[STR上昇&持続]系の新薬効力で四枠埋めている。
どの形態時も僕はSTR強化薬品だけ使用。レオナルドを信じて、全力で逆刃鎌にしがみ続け、生き残る。
以上を同時使用する為にセットした『薬品一式』の内容を最終確認する僕。
レオナルドと僕は、スティンク攻略の手順を覚えているか復習。
木製逆刃鎌に乗った僕らは、小さな家の戸を開け、スティンクの家内部に侵入する。
内装は至って平凡。
玄関は、人間の一般家庭の一軒家と大差ない狭さで、絵画や置物のような特別変わった代物は一切ない。
僕たちが玄関に入ると、背後で乱雑に扉が閉まった。
咄嗟に、背後を振り返った僕。
レオナルドは冷静に逆刃鎌をコントロールし、玄関から続く廊下のすぐ脇にある扉を開く。
そこにはリビングダイニングがある。
ソファーなどが配置された、くつろぐ空間と食事を行う為の質素なテーブル席。奥にはキッチンが。
他にも、家には洗面所や客室、二階には倉庫とスティンクの自室がある。
僕らが、わざわざリビングに移動したのも理由がある。
いよいよだ。
急に室内が暗くなる。レオナルドが事前に分かっていたにも関わらず、声を漏らす。
巨大な黄金色の瞳が窓から僕らを見つめていた。
正確に言えば――僕らが小さくなり、ミニチュアの家に閉じ込められているのだ。
家全体が外にいる女性・スティンクに持ち上げられる。
あくまで、僕達が小さくなってミニチュアの家にいるだけで、周囲の重力などは普通の状態。
家内部もそう。
スティンクの動作に合わせ、レオナルドも逆刃鎌をコントロールして浮上。
こうしないと、単に浮かんだ状態の逆刃鎌は、家の床と衝突する。
ミニチュアの家を高々と掲げたスティンク。
そこから、ミニチュアの家を激しく弄び始めた。上下左右、クルクルと回転、床へ派手に叩きつけ。
内部にいる僕らは、グチャグチャ状態の内部で家具などにぶつかって、ダメージを受けないよう回避する。
これが数々のプレイヤーを苦しめる『ブライド・スティンク』が糞たる所以。
普通なら、天井や床に叩きつけられて、家具などが衝突しダメージを受ける。
防御を高めてダメージを抑えても、こんな状態の内部で酔ったり、目を回して、戦闘どころではなくなる。
激しい猛襲も、しばらくすれば止み、内部にいる僕らを引きずり出そうと、スティンクが窓を開け、指を入れる。
レオナルドが、攻撃用の『死霊の鎌』を『ソウルオペレーション』で回転し指に攻撃。
痛みでスティンクが家を手放した一瞬を狙い、僕達は窓から外へ飛び出す。
ミニチュアの家から脱出すると、僕らの大きさは元に戻る。
既にスティンクは姿を消していて、どこからか「バタン」と扉が閉まる音だけ響く。
脱出した僕らが到着したのは『本来のスティンクの一軒家』。
ミニチュアの家と構造になっていて、僕らがいるのは二階にあるスティンクの自室。
レオナルドが『ソウルサーチ』を発動。
外で巨大化したスティンクが一軒家を持ち上げ、家を弄び始めた。
今度は家具の量が増える他に、空間が一部裂け、ボウガンを持った人間の手がヌウッと這い出る。
的確にレオナルドが回転移動する鎌でソレを攻撃。えげつない鳥の悲鳴が響き渡った。
そう、あれは一面で出現した『クックロビン隊』。
一面と同じく、空間の裂け目から攻撃を仕掛けてくる以外にも、虫や魚の小動物が裂け目から溢れ出す。
長く空間の裂け目を開かせない為にも、素早く『クックロビン隊』を片付ける必要がある。
最終的に、スティンクが僕らを引きずり出す為、窓から手腕を突っ込む下りは同じで。
レオナルドがそれを狙って、鎌で攻撃。
スティンクが窓から腕を引っ込めた隙に、やっとのことで脱出した僕ら。
先ほど巨大化していたスティンクは、普通の人間女性の大きさに戻っていた。
能力の原理はよく分からない。
人前や直接見られている最中以外で自在に大きさを変化させる能力だろうか。
漸くお目にかかれたスティンクは、灰色のショートカットで金目、清楚なメイド服を着ているが容姿に似合わず荒くれもののような険しい目つきをしていた。
スティンクが攻撃モーションを取る前に、僕は一息ついてレオナルドにATK強化の調合薬品『特製破壊薬』と『破壊薬』の派生品を使用。
最初に使用した薬品の効力が消えるタイミングも狙っていた。
「ルイス! 大丈夫か?」
無我夢中で鎌にしがみ付いていただけの僕に、心配するレオナルド。
僕がまともな返事をする前に、スティンクが両手を掲げた。
返事の代わりに、僕はレオナルドに教える。
「レオナルド! 次の攻撃が始まる!!」
レオナルドは即座に集中し直す。
夜空で煌めいていた星々の中から、幾つかが眩い光を放ち、レーザーや光弾を発射しながら僕達に接近。
僕が逆刃鎌から降りたのを確認したレオナルドは、鉄の逆刃鎌に装備を切り替えつつ。
レーザーと弾幕状になった光弾の合間を潜り抜けた。
地上に降りた僕は、鞄を盾にして攻撃を防いだり、自力でなるべく回避する。
これ以降は、レオナルドが戦闘を行う。
僕が出しゃばって足を引っ張るより、彼だけで戦った方がマシだ。
実際に、レオナルドはレーザーや光弾を放つ星々を操作するスティンクの攻撃を容易く掻い潜って、彼女に接近し攻撃を当てる。
「……」
マルチエリアでの一件の後。
僕はレオナルドの実力を理解し、彼に伝えた。
――イベントに参加する時は、絶対に容姿を隠した方が良い。
――そうでなくても、君の実力は無暗に明かしてはならないよ。
彼は不思議そうに「なんで?」と聞き返したが、彼は未だに実感を得ていないのだろう。
――僕は、君の実力が上手かろうが下手だろうが、何とも思わないけど……
――他人にとって、君の実力は普通ではないのさ。
――ムサシやカサブランカが、周りからどう言われているか。君も知っているだろう?
レオナルドは怪訝そうに「あれ誉め言葉だろ」と好意的な捉え方をして反論する。
多分、どこかで自分は普通じゃないとレオナルドは気づく。
自覚した時、一体彼はどうするのか。僕は不安がありながら、その時が来るのを楽しみにしていた。
レオナルドが、スティンクにトドメの一撃を与え、ステージクリアのメッセージが表示された。
厄介な序盤中盤を経た勝利だったからだろう。
レオナルドは自棄に嬉しそうに喜んで、僕の元にかけつけ、色々と話を発展させていった。
皆様、感想・誤字報告・評価・ブクマありがとうございます。
今回予想外のリアル都合により投稿が遅れて、申し訳ありませんでした。
当分の間は予定通り投稿できるので、よろしくお願いします。




