天性
ギリギリ投稿かつ長めです。
少し時間は遡る。
昨晩、ミナトが漏らした一言は意外性も含めて、僕には予想だにしない意見。
『戦闘の才』。所謂――天才なんて誉め言葉。
僕ら客相手に対して、過剰に煽ててるだけだろう。最初はそう思った。
ミナトが、僕の心を読んだように話を切り出す。
「あの逆に刃がついた大鎌を上手く扱うのもそうですが、ルイス様とお二人でメインクエストをクリアしたのは、中々ではないでしょうか」
「はぁ。そうですかね」
僕は釈然としない態度で相槌を打つ。
「他の墓守系のお客様から聞いたところによると『ソウルオペレーション』の操作は、大雑把に動かすだけなら簡単ですが、複数の鎌を繊細にコントロールするには、プレイヤーのセンスに問われると聞きましたので」
「……確かにレオナルドは、『ソウルオペレーション』の操作は得意みたいですね」
「練習は如何程されましたか?」
練習……してはいた。
『ソウルターゲット』や『ソウルオペレーション』を試行錯誤していた時。
しかし、あれも数える程度で実際は、どう使えば手探りしていただけで、バランスは元から良く。
逆刃鎌の練習で三面ボスのロンロンに挑んだ時もあったが。
それも数十回。たかが数十回で逆刃鎌のコントロール感覚を完成させた訳でもある。
ミナトは、不思議なくらいに淡々と話を続けた。
「アレを見て、私は何故イベントに参加されなかったのか疑問に思いました。彼ほどの実力者なら、終盤まで生き残れるレベルだった」
一旦、話題を中断して「すみません」とミナトが謝罪する。
「少々、熱くなってしまいました。……迷惑を承知で私の考えをお伝えしますが、レオナルド様の実力は信頼してもよろしいのではないでしょうか」
◆
時は戻り、逆刃鎌に腰かける僕は地上で盾兵系の防御エフェクトを目にする。
ここから姿は見えないが、PK集団が僕らに攻撃を仕掛けてきた。
魔法攻撃や弓兵系の攻撃が防御壁をすり抜ける。
盾兵系のプレイヤーと同じパーティを組んでいるプレイヤーの攻撃は、ああなるのだ。
しかし、これでは敵に攻撃できない。
レオナルドは、レベルアップにより最大数である五本分の鎌を操作している。
僕たちが乗る逆刃鎌の二本以外の三本が、地上のプレイヤーに向かう。
途中、僕とレオナルドの双方が青白い光に包まれる。『ソウルシールド』だ。
複数同時に対処できないよう、相手は連携していた。
まず、地上の盾兵系のプレイヤーが『挑発』を使用。
これで『ソウルオペレーション』で操作されるレオナルドの鎌を惹きつける。
僕が乗る逆刃鎌も『挑発』で引き寄せられる対象に含まれていた。
その傍ら、上空から攻撃を仕掛ける算段だったらしい忍具で飛行する忍者のプレイヤーが二人。
一人が何かに追われながら、僕に接近する。
天狗だ。妖怪を他プレイヤーに誘導し、間接的なPKを狙う魂胆だ。
もう一人は着色された煙幕を放ち、僕に状態異常を与えるようだ。着色から『睡眠』の状態異常を狙っている。
『睡眠』になると、僕自身がレオナルドにボイスチャットなど助けを求められなくなる。
ただ、レオナルドは『ソウルシールド』で対処していた。
少なくとも、盾兵系の『挑発』を無力化出来ている。
最初に展開された防御エフェクトは盾の前方のみに展開されるものだ。
『ソウルターゲット』の急接近で上手く回り込んだレオナルドは、盾兵系のプレイヤーを片付けたようでエフェクトが消失する。
続けて、地上で駆け巡るレオナルドを収めようと、敵の攻撃が飛び交っていた。
問題は僕の方だ。
『ソウルシールド』で状態異常を防げても、忍者二人と力な天狗が相手。
非常用として所持していたが……僕は調合薬品の一つを放り投げる。
それは僕の手から離れた数秒後――爆発した。
僕の体は爆風によって鎌ごと吹き飛ぶ。
これはアイテムによるダメージに加算されるうえ、爆発による火の粉が僕が乗る逆刃鎌に降りかかり、燃え上がってしまった。
茜の助言を聞いて、焼失するのは覚悟の上だったが、こうも簡単に壊れてしまうとは。
当然、僕の体は落下していく。
そして、爆発に巻き込まれた忍者二人と天狗も落下した。
ただ落下するのではなく、彼らは麻痺状態に陥って、無抵抗で落下していったのだ。
「お、おい! アイテム盗んだか!?」
「変なイベントアイテム持ってたんだよ! でもイベントアイテムだから盗めねぇって――」
そんな会話を繰り広げる二人と天狗を他所に、僕の体は浮かび上がる。
レオナルドが戻って来た。
僕の体をキャッチする前に、脇を通り抜けた瞬間。レオナルドがジョブ武器の『死霊の鎌』で二人と天狗を切り倒す。急所の頭部を狙い、完璧に成功させた。
一息ついてから、レオナルドが言う。
「ったく……ビックリしたぜ。なんだ? 今の」
「君に言われたくないよ」
レオナルドが最初に作った鉄の逆刃鎌を呼び寄せ、そちらに乗り移ると、彼が乗っていた木の逆刃鎌を僕に譲る。
僕は、さっきと同じように腰かけるスタイルに戻った。
落ち着いたところで、僕は説明する。
「君の前では『火炎瓶』を使わなかったからね。知らなくて当然かな。攻撃系の薬品だよ。ちょっとした爆弾みたいなものだから、敵味方関係なく巻き込んでしまうのが欠点だね」
「じゃあ、さっきのは『火炎瓶』となんか調合した奴?」
「うん。『火炎瓶』と『麻痺粉末』、状態異常成功率を上げる類など調合したものさ……ああ、でも君の武器まで壊れるとは思わなかった。ごめんね」
「いや、いいよ」
最深部に移動するまで、敵の攻撃は一切なかった。
PK集団も、レオナルドが全員片付けてしまったので心配する必要すらない。
穏やかな時間が流れる中、レオナルドが僕に話を持ち出す。
「ルイス。そのー……俺もちょっと勘違いしてたんだけどさ。PKする奴ってフツーにいるっていうか……ここにいる連中って、やっぱりPKを楽しむ為に居るんだよ」
「…………」
「あっ、いや。楽しむって語弊があるけど、なんつーのかなぁ」
「君の言いたい事は分かるよ」
僕もレオナルドに言う。
「僕も勘違いしていたよ。君は単に飲み込みが早いんじゃない。『天性の才能』があるんだね」
「褒めても何も出てこねーぞ」
「褒めてないよ」
「?」
エリア内で太陽の光が一筋差し込むと、春の美しい風景がくっきり見えるようになり。
妖怪の姿は一つもなかった。
皆様、感想・誤字報告・評価・ブクマありがとうございます。
今日もギリギリで申し訳ありません。
しばらくは連続投稿していくのでよろしくお願いします。