季節
翌日、午前三時。
僕は予定通りログインをする。
レオナルドと決めた時間は午前四時だが、一足先に準備と深夜にかけて出回った情報を収集していた。
新薬の情報は、ホノカのSNSアカウントを通じて広がっていた。
カサブランカ相手に敗北したせいで、嫌な注目を浴びたお陰だろう。
攻略班の一人が、深夜から出動するハメになったと愚痴を漏らし。
薬剤師でアバターを作り直したプレイヤーの何人かは、INT極振りで最前線に立ち、率先して情報提供を続けている。
他のジョブプレイヤーも協力する旨があった。
流石にこの時間帯は賑わいが収まっている。
「……ふむ」
その中で、幾つか目に付くのが『新薬で隠し属性が分かる』『ひょっとしたら、薬剤師系はINT極振りが正解かもしれない』『アルケミストになったら攻撃スキルが覚えられる』……
情報が錯綜して信憑性は危うい。
発端は隠し属性――『季節』の発見から始まったようだ。
まず、僕は新たなNPCイベントのメッセージが届いていたのを開き、実行した。
以前は老婆が登場したが、今度は中年女性の錬金術師が訪問する。
「まだ医者なのに、中々頑張るじゃないの。これ『機関』からのお届けもの。あ、そうそう。これも渡しておかないと」
新たな製造キットと共に渡されたのは特殊な陣『四季陣』。分類上は家具扱いされている。
女性が話を続ける。
「その陣の上に立った人間の『季節』が分かるようになるわ。これで依頼人に合わせたものを作りなさい」
合わせたもの、か。
イベント終了と共に女性の姿は消えた。
僕は店内にスペースを作って、四つのクリスタルに囲われた『四季陣』を設置。
同時に『四季陣』の解説画面が表示された。
<四季陣について>
〇陣の中央に立ったプレイヤーの『季節』を鑑定できます。
※『季節』が解禁されるのはジョブ3ですが、ジョブ1・ジョブ2の状態でも鑑定可能です。
〇鑑定終了後、プレイヤーのステータスに季節の項目が追加され、表示されます。
<季節について>
〇ジョブ3習得後、新たな属性『季節』が追加されます。
〇各『季節』の特性は以下の通りです。
・春…増加。スキルで発生する攻撃数・生産物を増量します。
・夏…強化。スキルや生産物などに強力な補正を与えます。
・秋…変化。スキルや生産物に通常とは異なる変化を与えます。
・冬…硬化。スキルで発生するもの・生産物を強固にします。
(別枠)無季…あらゆる季節を打ち消します。
〇『季節』はプレイヤーごとによって異なります。
・単季…一つの季節だけ操れます。
二季・三季・全季よりも季節の能力値が高く、強力な技を覚えられます。
・二季/三季…二つ、あるいは三つの季節を操れます。
単季の派生で、基の季節に隣接する季節を使用できます。
(例:基の属性が春、隣接する夏と冬の三季)
・全季…全ての季節を操れます。
単季・二季・三季よりも季節の能力値は低いですが、全ての季節に適応できます。
・無季…残念ながら季節を持たない存在です。
代わりに全てのステータスが、特大上昇。
季節持ちのプレイヤーが覚えない技を習得することも……?
書いてないのか……少し触れられている『隣接する季節』から話を発展させよう。
たとえば、春属性の場合。
春に隣接しているのは夏と冬。
その対極にある季節――秋は春の弱点になる。
そして、春属性のプレイヤーが秋属性の新薬を食べてしまうと、デメリット効果を得てしまう。
……そう。
別名『食中毒』で倒れる事態になったプレイヤーが続出。
クエストを受注からの離脱を行えば、デメリットは解消されるのだが、食べた時の状態は……大変らしい。
だが、他プレイヤー達はこの『四季陣』を入手していないらしい。
当然と言えば当然。先行していた僕が、いち早く条件を満たしたのだろう。
しかし……つまりこれは。
僕は『四季陣』の中央に立ってみる。
周囲にあるピンクのクリスタルが春、緑のクリスタルが夏、オレンジのクリスタルが秋、青のクリスタルが冬。鑑定が終わると四つのクリスタルが同時に輝き、七色を放つ。
[鑑定結果:ルイス さんの季節は『全季』です]
やっぱり。僕は溜息をついた。
更に言えば、恐らくレオナルドも僕と同じ『全季』だ。
『全季』は四季全ての新薬を食してもデメリットはない。
代わりに、単季・二季・三季にある『属性にある似合った新薬の効果が急上昇する』メリットを得られない。
ついでに、現時点のデータによると全体の割合だと『全季』と『無季』は数%。
性能云々ではない。
何故、こうも目立つような状況に追い込まれるんだ。僕もレオナルドも……
ただ……『錬金術師』が『季節』のスキルを取得するという噂。
MP(魔力)がない代わりに『季節』が優れている。
あるいは、MPに代わる『季節』の消費エネルギー要素が出てくる、か。
『錬金術師』本来の在り方を考えてみると、首を傾げたくなる。
文字通り、錬金術は金を生み出す為の技術であり、有名な賢者の石を含めた不老不死を追求する医術にオカルト要素が加わったもの。
薬草だけではなく鉱石類の素材を活用できるようになる。僕はそう考えていた。
「どちらにしろ、DEXにある程度振っておいた方がいいだろうね」
僕はレオナルドが来るまでに、日課の放置製造の設定、新薬開発を行う。
最中、カチャカチャ……と地下室で瓶が鳴る音が小さく聞こえる。
座敷童子はプレイヤーがログインして、少し経つと行動を始めるようだ。
今日のマルチエリア巡りで食す予定の『おはぎ』を複数作り置きする。
いつでも飲めるように『梅茶』も準備だけ整えた。
『おはぎ』はSTR、『梅茶』はAGIを急上昇させる効力がある。
新薬は最大五つ分の効力を得られる。
このようなセットで食し、楽しむのも要素に考えられていると分かる。
さて――まだ、時間に余裕がある。
花からエキスを抽出したカラフルな液体を素材を加え、練った白あんに着色として混ぜ込む。
「余裕があるから、これをやってみようかな」
他プレイヤー達も色々とメニューをSNSに載せている。
中でも『練り切りチャレンジ』というのが、自棄に流行っていた。
『練り切り』。
和菓子の一つで、今作った白あんの生地にあんこを包み生地を作る。
それから、様々な手法で整形・細工を施す。この整形・細工次第で、効力が変化するらしい。
……僕は日頃、練り切りは見慣れている。
故に、色々とアイディアが浮かぶ。……まあ、ちょっと作っても見たかった。
皆様、感想・誤字報告・評価・ブクマありがとうございます。
大変な時期ですが、頑張りましょう。