巡回
レオナルドは、再度PK集団と遭遇する可能性を考慮して、癖あるマルチエリアから向かう。
次に足を運んだのは『春出水の乱』と呼ばれる水辺が多いエリア。
「そーいや、ここで新しいスキル使えるんじゃねえか?」
レベルアップで獲得したスキル詳細を確認するレオナルド。
[ソウルシールド]
状態異常耐性・環境対応する特殊なシールド。パーティにも適応可能。
使用し続けるとMP消費。
「攻略サイトとかで確か……あ、やっぱり! これ使うと水ん中入れるんだよ」
情報を確認して、レオナルドは早速『ソウルシールド』を発動。体から武器まで青白い発光に包まれた。
通常、水中に入ると呼吸ゲージが出現。息切れでゲームオーバーがある。
武器によっては、水で錆びや腐食状態になってしまう。
しかし、『ソウルシールド』で保護すれば、呼吸も錆びも心配する事なく潜れる。
水中に入ると貝や海藻等の素材だけではない、妖怪たちの姿もあった。
レオナルドは『ソウルターゲット』で水圧や水流を押しのけ、敵を倒す。
それでもMP消費が馬鹿にならない。
「やっぱ、俺一人じゃキツイ!」
『魔力水』が底尽きる前に、レオナルドは海面に浮上する。水中の探索・採取を諦めた。
◆
中級エリア『ネモフィラ弥生山』。
高い木々など障害物が一切ないエリア。
一面が青の花・ネモフィラで埋め尽くされた光景を逆刃鎌で浮上し、見下ろすレオナルド。
美しい情景に気を取られると、彼の背後から怒声が響き渡った。
「オイ! なに人より速度出してやがんだ、オメェ!!」
派手な装飾を施したコートを着用し、これまた派手な紫髪のショートヘアの荒い口調の男性魔法使いが、箒の柄に立ち乗りしていた。表現は悪いが暴走族そのものである。
(なんだ、コイツ!?)
レオナルドは、思わず『ソウルターゲット』を用いて暴走族から距離を取ろうとした。
箒に無数の魔法陣を展開させると、どういう原理か不明だが急加速する暴走族。
レオナルドが身軽かつ『ソウルターゲット』で最高速度を出してるにも関わらず、暴走族が徐々に距離を詰める。
だが、暴走族の魔法使いの方も驚愕していた。
「はぁ!? オメー『農家』かよ!!? なにアホみてぇに飛んでんだよ、『農家』の癖して!」
「農家ぁ???」
墓守系は草刈り専門ジョブ=『農家』と嘲笑されているのだが、専門用語の意味が分からないレオナルドは素っ頓狂な声で聞き返す。
相変わらず暴走族は、問答無用で怒声を上げる。
「ここは俺のシマだぞ! 勝手に荒らしてんじゃねぇ、農家風情が!!」
「ああ、もう!」
まともに素材が取れないうえ、これ以上巻き込まれるのは勘弁。レオナルドは、潔くクエスト離脱した。
◆
上級エリア『山桜の街道』。
白煉瓦で舗装整備された西洋の商店街を桜並木が包み込む。
ただし、既に廃れた廃墟の街で、NPCの姿は無い。長い商店街だけが行動範囲エリア。
喫茶店のテーブル席やティーセット、雑貨屋にはインテリア雑貨など。
廃墟に残された代物を、実質無料で入手できるサービスエリアだ。
運営の謎のこだわりなのか、デザインも良く、これ目当てに訪れるプレイヤーも少なくない。
レオナルドが『ソウルサーチ』で妖怪も誰も居ない事を確認。一安心して、素材集めに専念した。
先ほどと打って変わって、ゆっくり探索する余裕すらある。
素材以外にも何か持っていこうかと、レオナルドは見まわった。
「食器……これ食べる時に使えんのかな」
喫茶店から幾つか食器やテーブルを拝借。
ルイスが『ワンダーラビット』という店名にしているので、うさぎ好きだろう。
そう思ってレオナルドは、うさぎを中心に雑貨を選んでみる。
ふと、レオナルドが目についたのは、薬屋っぽい看板を掲げた場所。
中に入ると、薬品棚や薬の素材保管庫らしい場所はあるが、何一つ残っていない。
「ん~~……お、あった」
レオナルドが発見したのは、暖炉の灰。
燃え残った紙片の断片。慎重に採取しなければ崩れそうなほど脆い紙きれ。
無事に回収すると、特殊アイテムの詳細が表示された。
[春のイベントレシピ(1):なんでもない日のケーキ]
ある錬金術師が残した特殊な新薬。
薬剤師系のプレイヤーがINT判定に成功すると解読可能。
「へえ、探せば他にもありそう―――」
レオナルドは何か視線を感じて振り返る。念の為『ソウルサーチ』を発動するが、魂らしい反応はない。
気のせいか?
この街にも相当長居しているので、一旦引き上げようとレオナルドは最深部のボスへ向かう。
時間を確認すると、正午過ぎになっていた。
「やっぱり、今日中に全部まわれねぇよなー……朝めっちゃ早い時間に行くって奴、ルイスに話してみるか」
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