終息
「なんなんだよ、お前ッ!」
接近して攻撃しないレオナルドに対し、落馬した騎射の少年が開幕早々言い放ったのがコレだ。
むしろ、被害を受けたレオナルドが言い返したい台詞である。
悩ましい態度でレオナルドは少年に尋ねる。
「お前さ。確かイベントで上位取って、ホノカより貢献度貰ってたじゃねーか。逆だったら分かるんだよ。ホノカの方がお前より順位高かったら。でも逆だろ?」
「あぁ!? ギルド関連の事なんもしらねーのかよ! 貢献度なんざ糞要素だ! あの廃課金ギルドが一位維持してる以上はなッ!!」
これまた複雑な事情があるらしいギルド界隈。
無知なレオナルドは話題に触れることも出来ないが、他にも疑問はあった。
純粋で素直に思った事をレオナルドは伝える。
「でもさ、俺が思うに強いと思うんだよ、お前。すげー距離から撃てるし。ムサシには見切られたけどさ。実力はあるんだから、普通にホノカ相手に挑めばいいじゃん。嫌がらせみたいな事しないで……」
「人の攻撃散々回避しておいて、上から目線でほざくんじゃねぇえぇぇっ! 大体ホントにお前はなんなんだよっ!?」
「素材集めに来ただけだよ」
「嘘つけ、糞野郎!」
少年が身を起こして、弓矢を構えようとした。
彼を説得するのは無謀だと分かり切っていたレオナルドは、既に手元から離し、少年の背後に回り込ませた『死霊の鎌』で後頭部に刃先を突き立てるように、回転移動させる。
レオナルドに意識を向けていた事で、少年は背後の凶器に気づくこと無く体が粒子化して消失。
やっと一息ついたレオナルドは、ステータスのメッセージ履歴に目を通す。
経験値を多く獲得し、レベルアップと新たなスキルを入手していた。
(おお……すげーレベル上がるな。PKしたくなるのも当然か)
レベル43だったレオナルドは、今回の一件でレベル52と十近く上昇していると分かる。
PKしたプレイヤーのレベルが高くて、経験値を多く獲得できたのだろう。
騎射の少年が落としたアイテムは無視して、レオナルドはサクラの様子を伺った。
先ほどの会話を聞いてたらしく、高慢な態度で反論する。
「アイツが強いって本気で言ってるワケ? アンタが簡単に倒せるんだから、ホノカちゃんは余裕で勝てるわよ!」
すると、サクラが引き起こした木々の火災を目撃して駆けつけたらしいプレイヤーが二人。
眼鏡をかけた小柄の鍛冶師の女性が、大声で呼び掛けた。
「ここにいたのねー! サクちん!!」
「あっ!」
態度を一変させ、サクラはレオナルドの背後に隠れるが意味はないだろう。
眼鏡の鍛冶師と同行していたもう一人は、深緑を基調としたおかっぱの少女。
レオナルドと同じ『魂食い』の武器を携えていた。魂食いの少女が深々と頭を下げる。
「すみません、サクラちゃんがお世話になって」
どうやらこの二人は、サクラと同じくホノカのギルドに所属しているプレイヤーらしい。
レオナルドを盾にしながらサクラは、自信満々に言う。
「コイツ、マルチ来るの初めてだから、わたしが案内してあげたのよ!」
信用してないらしい眼鏡の鍛冶師は「嘘つけ~!」と疑っていた。
レオナルドも、あまり喋りたくないが、彼女達に「本当だって」と伝える。
「それにさっき、ギルドの奴らが襲って来て、俺と一緒に戦ってくれたよ」
彼の言葉に、彼女達は顔を見合わせた。
複雑な表情で眼鏡の鍛冶師の女性が、頭抱えつつ溜息つく。
「ホノちんがカサブランカに負けてから、こればっかりだね。しばらくマルチ潜るの止めた方がよさそう」
おかっぱの少女も「ですね……」と項垂れる。
話を少し聞いてレオナルドは不安に感じ「大丈夫なのか」と尋ねた。
眼鏡の鍛冶師の女性は、諦めた態度だった。
「一時的なもんだろうから気にしなくていいよ。ホノちんは有名人だからしゃーない」
そういう訳で、改めて鍛冶師の女性がサクラに怒る。
「サクちんは帰って魔石作り! 当分マルチ潜るのも禁止!!」
「えー!!」
「えー、じゃない! これ以上、皆の迷惑かけないように!」
「超レア武器手に入れたから、ボス倒して帰る!」
レオナルドはフォローするように「プラチナ武器手に入れたっぽいから」と二人に教える。
鍛冶師の女性が「マジかよ」とサクラの手持ちを確認して、再度驚く。
空気を読んだおかっぱの少女が提案した。
「一緒に最深部のボス、倒しませんか? サクラちゃんの事でこちらもお世話になりましたし……」
「お世話になってない!」
サクラが突っ込む傍ら、レオナルドは普通にありがたく承諾する。
それより、ルイスにどう伝えようかと悩む。
午前中、他に誰も目撃者はいなかったものの。ギルド連中の噂などで注目されないか、不安を抱えていた。
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