反撃
今回は少々長めになっています。
彼らは攻撃されるのはともかく、自分が死ぬとは想像していなかったのだろう。
木から鉄の逆刃鎌に切り替えたレオナルドが『ソウルターゲット』で急接近。
頭部目掛け逆刃を振り下ろす奇襲を読まず、彼等の内一人が死んだ。
逆刃鎌と『ソウルターゲット』を併用する場合、急加速のみ使用。
そうする事でMP消費の節約と、多彩な切り返しで攻撃が回避しやすくなる。
そして、レオナルドは敵の頭部を狙う。
これは本来、ルイスがバトルロイヤルに向けたアドバイスで挙げていた作戦の一つだ。
鎌は攻撃範囲は広いが、攻撃力が低い。
なら、急所の頭部を狙えばいい。
攻撃範囲がある分、他のジョブ武器よりも狙いやすく、逆刃鎌の浮遊操作なら、回避しつつ攻撃を行える。
接近戦に優れている剣士系のプレイヤーが、慌ててレオナルドに対処しようとスキルを発動。
怯まずに攻撃をし続けられるスキル『コスモスラッシュ』を選んだのは、鎌の怯み攻撃を警戒してだろう。
レオナルドは片腕でサクラを抱えたまま、逆刃鎌を傾け『コスモスラッシュ』が繰り広げられる範囲の真下を潜り抜け。
逆上がりのように体を後方回転しながら、足場の逆刃鎌で剣士系のプレイヤーを斬った。
それから、魔法使い系のプレイヤーを片付けるレオナルド。
彼らが、近距離の魔法発動を行うエフェクトが見え。
魔法を浮遊回避し、ジョブ武器の『死霊の鎌』を『ソウルオペレーション』で遠隔操作。
背後から相手の頭部を斬る。
(よし)
最初にやったのは厄介な妨害スキルが多彩の盗賊系。
それから近距離型の格闘家系、剣士系、武士系、それから魔法使い系……という順番。
最後の一人を倒し、レオナルドは一旦動きを止めた。
抱えられているサクラは、逆刃鎌の動きに酔ったのか「うう」と情けない呻きを漏らしていた。
一安心する間もなく、遠距離から弓兵系の攻撃が襲い掛かる。
普通、逃げてもいい場面だが、意地を張って、レオナルドをPKしようと躍起になっているのだろう。
確か……レオナルドは記憶を巡らせた。
ここに居たのは十人、残り二人でパーティの最大人数だ。
恐らく、残りは弓兵系と薬剤師系だろうとレオナルドは考える。
何故なら、レオナルドが倒したプレイヤー達はMPの枯渇を気にせずスキルを使っていた。
MPや体力を回復してくれる存在がバックにいたという事。
『ソウルサーチ』で周囲を探るものの、やはり魂を捕捉できない。
仕方なく、攻撃の方向を頼りにレオナルドは残る敵を探す。
逆刃鎌で移動を開始すると、広範囲攻撃『天津風』のエフェクトが天空に現れた。
レオナルドは、木の逆刃鎌に乗り換えて、そのまま無数に拡散した矢を回避。
次に『時雨』というホーミング性能に加えて、時差式に対象へ接近する厄介な矢が無数に放たれる。
ようやく『ソウルサーチ』で二人分の魂を捕捉した場所は、レオナルド達のいた『冬の名残』より大分。
相当距離の離れた僅かな森林地帯。
そこの木の上から、レオナルド達を狙っていた。
薬剤師系のプレイヤーは、木の下で身を潜めているようだが。
接近するレオナルドの姿を発見して、慌てた様子で上にいる弓兵系のプレイヤーに呼び掛ける。
弓兵系――騎射の少年には、見覚えがあった。
彼はバトルロイヤルで、ムサシとカサブランカに横槍さした。ランキング上位に食い込んだギルドの一人。
すると、騎射の少年はスキルを使用せず、通常攻撃を仕掛ける。
MPがなくなった訳じゃない。魂食い相手に今更隠密するのも変だ。
最初、サクラを狙ったように通常攻撃が飛ぶ。
的確に狙った矢をレオナルドは、ギリギリで回避した。
相手もレオナルドと同じ、頭部の急所狙いに絞っているようだった。
攻撃間隔は長くなったものの、回避に失敗すれば死に至る攻撃が幾度も繰り返される。
危険な状況に、抱えられているサクラも悲鳴を漏らす。
「キャア! あ、危ないじゃない!! 魂食いって派手な攻撃できないワケ!?」
出来たら苦労しない。
と、文句を言うまでもなく、漸くレオナルドの射程距離に敵が収まった。
薬剤師系のプレイヤーの声も聞こえる。
「おい! 何やってんだよ! こっち来たぞ――」
「やぁ~~~~!!!」
サクラが杖を構えて、派手に巨大な火炎玉をぶっ放す。
きっと、レオナルドに守られている間にMPを回復しておいたのだろう。立て続けに火炎玉を連射。
薬剤師系のプレイヤーもろとも、周囲の木々に火が移った。
レオナルドが騎射の少年の行方を探っていると、ある事に気づく。
(あ! ここの木も素材で……はぁ………)
素材は、自然回復すると聞いているので、それまで待たなければならなそうだ。
煙立つ森から馬が一頭飛び出す。騎射の少年が騎乗している。
高原を旋回し、騎射の少年は弓を構えていた。
「この~~~~~!」
サクラが怒りを露わに火炎玉を放つものの、その程度の攻撃は相手も余裕で回避している。
この場合、馬が回避してくれているのだろうか。
レオナルド達を襲撃した騎射の少年は、焦りを隠せない。
返り討ちに合ったのも理由の一つに入る。それ以上に矢を引き絞りながら独り言をした。
「クソッ、どうなってるんだよ! 落ち着け僕、県大会優勝者……!! 相手はムサシやカサブランカじゃないんだぞ! いつもの調子が出てないだけだっ!!」
通常攻撃の方が、正確なのだ。
スキルでは攻撃の軌道や威力が自動的に調節されてしまい。繊細な射撃が不可能。
恐らく、騎射の少年のような弓道経験あるプレイヤーは、スキルを使用しない方がマシまである。
馬がレオナルド達の方へ駆け出し、一定の距離まで詰めた瞬間。
騎射の少年は、的確に矢を放った。サクラに対して。
「んな事だろうと思った」
ジョブ武器の『死霊の鎌』の刃を盾に、矢を防ぐレオナルド。
レオナルドは少年の狙いを見抜いていた。
強い奴より弱い奴を優先するのは、自然な事だろう。少なくとも、サクラやホノカに嫌がらせする目的なら、彼女を狙う。
サクラを守り切れなかった事も、レオナルドへの嫌がらせに繋がる。
「……ッ! ざけんな!!」
再びレオナルド達から距離を取ろうと、悪態付きながら少年は馬の進路を横に逸らす。
その一瞬、少年が目を離したのを見逃さず。
レオナルドは木の逆刃鎌を降り、それで馬の足元を狙った。
馬の視野は広い。唯一の死角は――真後ろ。
最高速度を叩き出せる木の逆刃鎌が、死角から馬の駆ける足に飛び込むと、盛大に転倒した。
同時に木の逆刃鎌も破壊してしまう。
武器が壊れた事はどうでもよく、レオナルドはサクラを地面に降ろし、『ソウルターゲット』で少年に接近した。
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