死んでくれ
カキン!
と、耳に残りそうな金属音が鳴り響く。サクラは驚いて立ち止まる。
彼女の背後で、レオナルドのジョブ武器『死霊の鎌』が『ソウルオペレーション』の操作で回転している。その鎌が何かを弾いた音だ。
咄嗟に動いただけで確信はなかったが、レオナルドの予感は的中する。
「チッ! 防がれたぞ!!」
背後から複数の声が聞こえる。
レオナルドが振り返ると、複数のプレイヤーの姿が大凡十人ほど。
恐らく、パーティを組んでいるギルド集団だと分かる。だが、さっきのサクラに放たれた攻撃――矢を扱う弓兵系のプレイヤーはいない。
彼らの内、魔法を放つ魔法使い系と斬撃を飛ばす武士系のプレイヤー達が、ちまちまと遠距離攻撃を繰り出してくる。
「な、なにすんのよー!」
相変わらず覚束ない軌道の箒に乗って、サクラは攻撃を躱そうとする。
攻撃はレオナルドも巻き込んでいた。レオナルドは逆刃鎌で悠々と回避。
どうやら、敵はプラチナアイテムではなくPKを狙っているらしい。
「んだよ! あの魂食い!!」
「先に餓鬼の方をやれ!」
攻撃を完全に捌かれているのに腹立った相手は、サクラの方を優先して狙い始めた。
サクラも一方的に攻撃され、何ともない訳がない。
頬を膨らませ、ヤケクソで雑な魔法を相手にぶちかます。
どういう訳なのか。サクラの攻撃は、明後日の方向へ飛んだり、上手く命中しない。
相手は、わざと挑発してくる。
「全然当たんねーぞぉ、下手糞~!」
「下手糞がゲームするんじゃねーよ、ブサイクチビー!!」
今にも泣き出しそうな顔でサクラは雷の魔法を杖に宿す。
最早、レオナルドを巻き込む事すら考慮せずに、雷撃の広範囲攻撃を展開。
サクラを中心とした広範囲攻撃なので、遠く離れているPK集団に届かない有り様。
彼らはゲラゲラ、馬鹿にしている風に笑っていた。
(うーん……)
人によっては頭に血が上りかねない状況で、レオナルドは悩む。
(魔法使いの仕様は全然知らねーから、ルイスみたいなアドバイスはしてやれないし……)
なので、レオナルドは挑発的なPK集団について考察した。
(アイテム狙いじゃない、経験値狙いでもない。よく居る人を馬鹿にして楽しむ連中か)
レオナルドは逆刃鎌で地面をスライドするように、サクラの攻撃を後方移動で回避する。
(俺達を見逃してくれないだろーな)
すると、再び風を切る音が。
今度はバトルロイヤルでも見た効果音エフェクトが見えた。
紅の閃光が数発。あれは弓兵系のスキル『夕立』だ。数発の矢を突発的に素早く放つもの。
レオナルドは逆刃鎌を地面すれすれに傾けて『夕立』を回避。頭上に紅の閃光が通り抜けた。
(弓使う奴、一体どっから攻撃してんだ?)
一瞬だけ『ソウルサーチ』を発動するが、どこにもそれらしい魂を捕捉できない。
『ソウルサーチ』の索敵範囲外から攻撃を?
それはそれで、とんでもない腕前だと謎の感心をするレオナルド。
PK集団の攻撃がサクラに命中し、彼女が箒から落ち、悲鳴を上げた。
同時に広範囲攻撃も終わったので、レオナルドは漸く回避行動を終えられる。
転落するサクラを回収しようと急接近するが、PK集団が追撃の遠距離攻撃を仕掛けていた。
落ち着いてレオナルドは、攻撃を見極める。
(斬撃、雷、氷、光――炎がないから、木鎌で行ける)
今のレオナルドは、素材アイテムを抱え持っているせいで重量がある。
しかし、木鎌の軽さとスキル性能で速さを補えた。
木鎌の弱点がない以上、まだ安全に攻撃回避に専念できた。
単純に鎌を傾けるだけでなく、あらゆる角度で切り替え、時には一回転する姿は、一種のアトラクションを体験しているよう。
レオナルドは、空中でサクラをキャッチし片腕で抱える。彼女を助けたレオナルドに、PK集団も敵意を向けた。
どうしたものかとレオナルドが思案する一方、彼に抱えられているサクラは吠えた。
「アンタらの事、ホノカちゃんに言いつけるわよ!」
すると、彼らは鼻で笑う。
「初心者にビビってたホノカがなんだって?」
「アイツ、初心者来るなってほざいてた癖に初心者相手にやられてやんの!」
カサブランカを初心者と呼んでいいものか。
彼らの難癖を理解すれば、ホノカを精神的に追い詰めようとギルドメンバーを襲撃している。
そんなところだろう。
レオナルドも、似たような経験を中学生時代で味わった。彼の場合はギルドではなく不良グループだが。
(……ムサシとルイスは間違っていねぇな)
ルイスが午前中は人が少なく、PKとの遭遇も低いと推測し、計画的なルートをレオナルドに渡した。
あくまで遭遇しにくいだけ。
今のように、遭遇する確率がある。
ムサシはこう言っていた。
『PKされたくなければ、別のゲームをやれ』と。
他社のVRMMOも当然存在するがPKは例外だ。一般的に受けするVRMMOにはPKがないものが多い。
マギア・シーズン・オンラインは数少ないPK要素を売りにし、それに集るプレイヤーは気性の荒い連中ばかり。
双方の考えは、どちらも正確だった。レオナルドは理解する。
(どんだけ警戒してもPKと遭遇するんだ。避けようがないだろ。……何事も楽にはいかねぇ)
ここにはPKを楽しみ、他者を貶める事を快楽とする人間が多く集う。
普通の人間が冗談半分に入ってはいけない場だと。そういう意味ではホノカの警告も正しい。
憤りを隠せないサクラを伺うレオナルド。
彼女に離脱を促しようがない。プラチナアイテムを捨てる提案を、彼女が受け入れる訳がないだろう。
そして、レオナルドはそんな彼女を見捨てる性格ではない。
やっとの事で、レオナルドは申し訳なさそうにPK集団へ告げた。
「あー……楽しんでるところ悪いけど、死んでくれ」
皆様、感想・誤字報告・評価・ブクマありがとうございます。
明日は通常通り投稿します。
よろしくお願いします。