お菓子
「ねーねー! これなに~?」
サクラは純粋な子供っぽくレオナルドの周囲に舞い散る桜のエフェクトに興味を示していた。
恐らく、話しかけた理由はコレを聞きたかったからだろう。
仮面をかぶっているので、話し相手がレオナルドだと気づいていない。
因縁ある厄介な相手だ。普通、関わりたくない。
しかし、レオナルドは内心焦りではなく、動揺と疑問の嵐に見舞われていた。
(いやいやいや! 午前中だぞ!? コイツ、学校行ってねーのか? ズル休み??)
アバターは子供だが、実は中身が大人では?とも考えられるが、サクラの言動を見る限り。
これを大人が演技しているとは思えない。
そう考えると……少し不安を覚えるレオナルド。
レオナルドは持ち物から、ルイスが完成させた他の薬品を手元に取り出す。
見た目は薬っぽいどころか――クッキー。
『サクラのクッキー』と言う。春エリア限定だが、クエスト終了までINTを超強化する代物。
VRならではで、パーティを組まずとも、こうして直接サクラに渡すことが可能なのだ。
洒落た袋に入ったクッキーに、サクラは不思議そうだった。
「ホントなにこれ~! 初めて見るんだけど~……チート?」
喋ったら自分だと気づかれそうなので、どう伝えるかレオナルドは困った。
ある発想を思いつき、レオナルドはメニュー画面を開く。
アイテム詳細をサクラに見せた。
「えー、薬? あ! これも~?」
彼女が興味示す『サクラのフロート』。レオナルドはこれも渡してやった。
思わずそれをサクラが口に含んでみると、彼女の周囲に桜のエフェクトが舞う。
薬品の効果よりも、サクラは味に魅了されたようだ。
「おいしー! これ、お菓子じゃん!! こっちはホノカちゃんにあげよーっと!」
彼女は『フロート』だけを飲食し『クッキー』は持ち物にしまう。
この間、レオナルドは菜の花を採取した。
「ねえねえ! それもお菓子になるの?」
楽しそうに聞くサクラの問いに、レオナルドは『まだ分からない』とジェスチャーをする。
一先ず、レオナルドは次の移動先を確かめた。
ルイスがまとめたマップには、採取する素材の画像もあり、丁寧で分かりやすい。
サクラも見たそうな素振りをしているので、レオナルドはサクラが見える位置まで画像を移動させた。
「ふーん。あ、この花! 沢山咲いてる穴場知ってる!!」
自信満々にサクラが案内すると率先するので、レオナルドはついて行く事にした。
◆
(……って、よく見たら取らなきゃいけねーの無茶苦茶あるな!?)
ルイスから渡されたマップ自体よく目を通していなかったので、実際に採取を続け、レオナルドはやっと自覚した。
『フロート』の効力で疲労感は抑えられているが、一緒に行動してくれるサクラもウンザリしている。
「これだから素材集めって嫌! わたしもねー、たくさん『魔石』作らされるの! 銃弾なんてフツーに売ってればいいのに、一々作らないといけないんだよ~?」
銃使い系の銃弾を作製には『魔石』が必要で、魔法使い系はその作製に向いているらしい。
生産職でもないのに、そういう役割もあるのかとレオナルドも関心する。
それより、サクラはレオナルドの逆刃鎌を面白がっていた。
「それ、『魂食い』馬鹿にしてる奴らに教えたらビックリするでしょ! ギルドに帰ったら、凪ちゃんにも教えてあげよ!!」
レオナルドと平行して飛ぶサクラは、派手なピンクの箒に跨っていた。一応、サクラの飛行速度に合わせ、レオナルドは速度を落としている。
次の収集ポイントに到着したレオナルドは緩やかに下降、危ういブレブレな軌道を描きながらサクラもそれに続いた。
ここでは、湖の水と『睡蓮』を採取する。先に採取をしていた鍛冶師の女性が一人だけ。
レオナルドは、彼女から離れた位置にある採取ポイントにつく。
普通に採取し続けていると、鍛冶師の女性がサクラに話しかけた。
「あなた、学校は?」
「今日、学校休み!」
ぶっきらぼうにサクラが即答したのに、不安気に「そう」と納得した様子で引き下がる女性。
やっぱり何かの理由で休校なのかとレオナルドは思ったが、不貞腐れた表情をするサクラを見て、違う予感がする。
サクラはレオナルドに促す。
「早く次のところ行こ!」
不穏を残したまま、彼らが次に移動したのは『冬の名残』と呼ばれる地帯。
冬に降り積もった雪があり、そこから『春の雪解け水』が採取できる。
他にも、冬の植物が採取でき……
「あ! アイツ、わたしがやっつける!!」
威勢よくサクラが杖を構えた相手とは、吹雪を吐く『雪女』。
冬にいる妖怪も、こうして現れることがある場所なのだ。
レオナルドは、採取を行う傍らでサクラの戦闘を見守っていたが、杖から放つ炎玉は上手く『雪女』に命中しない。
それどころかサクラは攻撃する際、目を瞑っている。
レオナルドは鎌を浮遊操作し、『雪女』に対し牽制を行う。『雪女』が鎌の攻撃を回避したところに、サクラが闇雲に飛ばす炎玉が命中。
炎が弱点の『雪女』は、氷のように一瞬で溶けた。倒した瞬間、虹色に輝く宝箱が落ちる。
それにサクラが、はしゃいだ。
「やったー! 超・超・超・レア!! 初めてドロップしたー!」
あの色はSSレアよりも価値あるプラチナ。
レオナルドも初めて見る宝箱だった。
サクラが宝箱へ駆け出した時、レオナルドは風を切る音が聞こえた。
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次回は明後日の投稿になります。
本日は投稿が遅くなり申し訳ございませんでした。