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マルチエリア


 躊躇している僕に見かねてか、レオナルドが話を持ち出す。


「ムサシが教えてくれたんだけどさ。マルチエリアって日中だと妖怪が少ないし、最深部のボスも弱くなるんだって。人も少ないらしいぜ」


「うん。それは知ってるよ。ただ午前中じゃないと」


「午前中?」


「午後からは小中学生が増えるからだよ。正直、彼らはモラルとマナーが欠如している。素材収集を邪魔したり、アイテムを寄越せと付きまとったり、普通にPKしたり」


 日中の難易度が下がる理由も、それが要因だ。

 レオナルドのような大学休み、会社休みのプレイヤーもいるが、小中学生、ゲームに疎い主婦層が多くログインする時間帯がそこだ。

 顔をしかめ、レオナルドはぼやく。


「もうなんか、やりたい放題だな……」


「よくある現象さ。……そう言えば、明日は木曜日だから君、午前中行けるんだね」


「覚えてんのスゲーな、お前」


 以前、レオナルドがフレンド登録したての頃に教えてくれた情報だ。

 こうなると、祝日・休日しか日中ログインできない僕にとって、レオナルドの存在は相当大きい。


 なら……僕は攻略サイトに掲載されていたマップや素材情報を基に、ルートを考えた。

 どうせなら、多くの素材を回収して欲しい。

 レオナルドは逆刃鎌の騎乗で、魔法使い系が行ける隠し場所にも行ける。

 僕がルートを記したマップをレオナルドに送信していく。それを確認しながら、レオナルドは聞いた。


「ルイスは嫌かと思ったんだけど……いいのか? マルチエリア行って」


「君や僕がPKに粘着されるハメになるのは、勿論嫌だよ。でもそれで楽しむ幅が狭まるのは、もっと嫌だね」


「そっか」


「よし。これで終わりだ」


 最後のマルチエリアマップを送信し、改めてレオナルドに念押す。


「君の事だから、大丈夫だと思うけど……変な奴に絡まれたら、挑発に乗らないで、すぐ引き返すんだよ。分かったかい」


 まるで彼の保護者のような物言いになってしまった。

 レオナルドは普通に「おう」と返事する。

 手元に犬面を出し、弄んでいる様子は、やはりどこか子供染みていたが、根本は妙に大人びている。

 それがレオナルドという人間。

 僕はそう理解していたが、後になって違うと思い知らされた。





 翌日、レオナルドはイベント用だった仮面とコートを着用。

 それから木製の逆刃鎌をメインに装備し『ソウルオペレーション』でジョブ武器『死霊の鎌』と鉄製の逆刃鎌をセット。

 鎌はメインクエストで妖怪からドロップ、宝箱に入ってたものを適当に選んでいる。

 持ち物が揃っているか、最終確認した。


「えーと……『魔法水』、『回復薬』、『砥石』。ルイスに頼まれた効果確認する新薬……あと、スキル」


 アイテムが拾えなくなるスキル[天、二物を与えず]が外れているのを確認。

 他にもさっき購入したばかりの、攻撃速度上昇スキルをセット。



<プレイヤースキル>

[積羽舟を沈む]

[疾風の手腕]

[山谷風の手腕]

[勇猛精進]

[勇猛果敢]

[胆勇無双]

[勁勇無双]



 プレイヤースキル内容は、純粋に攻撃速度を上昇させる『疾風の手腕』『山谷風の手腕』。

 敵を倒すごとに攻撃速度が上昇する『勇猛精進』『勇猛果敢』。

 クエスト中、ダメージを受けない限り攻撃速度を超上昇させる『胆勇無双』『勁勇無双』。

 マルチエリアを選択する前に『サクラのフロート』でステータス強化。


「よし、行くか」


 まずは初級の『菜の花高原』から。

 今日まで素材収集エリアの花畑やメインクエストしか訪れたこと無いレオナルドは、転移先で壮大な高原風景に感動を覚える。

 植わっている木々が少ない為、ちょうどいい穏やかで温かみある風が吹き抜けた。

 上空も、場所も。自分がいた世界が、窮屈で狭いものだと思い知る広さ。


 早速、レオナルドは『ソウルオペレーション』を用いて、逆刃鎌の峰に足をかけ、飛行移動を開始した。

 プレイヤースキルや、重量をギリギリまで絞ったお陰で、凄まじい風圧を受けるほど速度が出る。

 普通なら頭にかけたフードは外れるだろうが、そこはゲーム仕様。ビクともしない。


「お、なんだアレ」


 上空にて、白い布のようなものがピラピラと靡いている。

 レオナルドが徐々に接近してみると、何かのアイテムではなく妖怪『一反木綿』だと分かった。

 思わず手を振ってみるが、『一反木綿』は段々とレオナルドから離れて別方角に向かう。

 『一反木綿』のようにメインクエストに現れない妖怪が、マルチエリアにはいる。


 日中だが、草陰に隠れる妖怪がちらほら。

 レオナルドは『ソウルサーチ』で妖怪と他プレイヤーの位置を捕捉。

 注意しながら最初の素材収集ポイントに降りた。


 一番の目的である菜の花の脇に流れる小川。ここで汲めるのは『おれづみの水』。

 数人程度だが、水汲み場には裁縫師や鉄人のプレイヤーがいた。

 実は、布の染料染めや武器作製でも水を使用する。

 更に言えば、鍛冶師系は武器作製で火を熾す際に木が必要になる。


(そう考えると、こういう素材って生産職全員に必須なんだろーな……)


 そして、他プレイヤーの素材収集中に割り込まないのがマナーというもの。

 レオナルドが無言で順番待ちしていると、彼に気づいた他プレイヤーはビックリした。

 慌てて「終わるの待ってます」とレオナルドが言うが。

 仮面をつけているプレイヤーに警戒しているようで、彼らは急いで立ち去ってしまう。


(やっぱこれ、仮面つけない方がいいんじゃねえか?)


 ルイスも念の為、付けた方が良いと忠告していたが、実際に他プレイヤーの反応を見るとレオナルドは疑問を覚えてしまう。

 申し訳なさを感じながら、レオナルドはスタック上限まで『おれづみの水』を採取し始めた。


(地味に大変だなー……)


 一汲みで得られるスタック数が3だったり、10だったり、まちまち。

 ここはランダム仕様らしく、運が悪いと時間がかかる。

 どうにかならないかとレオナルドが思っていると、影が頭上を通過。

 妖怪ではなく、魔法使い系のプレイヤーが箒で飛行しているものと、影の形で察した。


 多分、飛行特訓を行いに来たんだろうとレオナルドは特に関心を抱かず。

 『おれづみの水』の採取に集中した。


(おし、これで終わりっと)


 最後の一汲みを行った時、背後から何かが駆け寄る音が聞こえる。


「ねー! なにしてるの?」


(……な!?)


 レオナルドが声で「まさか」と思ったのは間違いなかった。

 振り返った先にいたのは、バトルロイヤルに出場できなくなった原因・サクラだった。



皆様、感想・誤字報告・評価・ブクマありがとうございます。

明日も通常通り投稿します。

よろしくお願いします

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