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閉幕


 僕とレオナルドは普通に鑑賞し続けるが、他プレイヤーはブーイングの嵐に溢れていた。


「ふざけんな! こんなのねーよ!!」


「倒した数とかアテにならないって」


「あーあ、無駄な時間過ごした」


 次々と観客が立ち去っていく。

 ランキング上位は、すっかり実力者の名はなく、無名のギルドマスターらしきプレイヤーネームばかり。

 より多くのプレイヤーを参加させようと、貢献度を売りにしたのが仇になった。


 同ギルドプレイヤーをキルした場合、貢献度大幅マイナス。などすれば問題なかったのに。

 デメリットが一切ないのだ。

 味方も点数稼ぎに利用して上位に食い込む。

 運営は予測していなかったのだろうか。立ち去っていく観客に焦る様子のキャサリンがあった。


 中継映像では、残りのギルドマスター同士の消化試合が繰り広げられていた。

 随分と静かになった広間で、中田は唸って「色々見直しが必要ですね…」と項垂れている。

 アレは心象悪い光景だが揃いも揃って、全員がしでかすものなのだ。


 何はともあれ。

 鬱陶しかったサクラも、ホノカが退場した際。

 騒ぎ立てて強制退去されたので、僕とレオナルドの二人でゆっくりイベントを見守れる状況になった。


 苛立ちが吹き飛んだ僕は、再度売り子のNPCにバーチャル飲食を頼む。

 カサブランカとムサシの決着だけを心待ちにしているらしい観客だけ残った。

 レオナルドは平静に映像を眺め、僕に尋ねた。


「ホノカの奴って、ギルド作ってるのに一人で参加してたのか?」


「うん。サクラも含めて、ギルドメンバーは女性ばかり。どうやら、腕に自信ないプレイヤーが多かったみたいだ。SNSでも無理に参加させないって宣言していたよ」


「じゃあ……代表背負って頑張ってたんだろーな、ホノカの奴」


「そうだね」


「サクラも感情的になりやすいけど、本気でホノカを応援してたもんな」


 微粒子レベルの善意を拾って語るレオナルド。

 すると、残った観客から僅かに声が上がる。中継映像が切り替わると、向こう側ではムサシとカサブランカの死闘が続けられていた。空気を変えようと、キャサリンも無理矢理盛り上げる。


「さあ! ムサシ選手にカサブランカ選手! お互いに一歩も引かない模様!! 残り時間は三分切りました!」


 チラチラと映像の隅には上位のプレイヤーの姿が映り込むが、邪魔する素振りすらない。

 相手にするだけ無駄と考えているのか。

 そう思いきや。

 木に身を潜める騎射のプレイヤーが彼らを射貫こうと、矢を放つ。


 スキルだと、どうしても発動エフェクトが出てしまう為、隠密に行くなら通常攻撃するしかない。

 放たれた矢は、ムサシが飛ばす一本の鞘で弾かれた。

 それだけでビビリ。件の騎射は潜伏していた木から離れていく。


 しかし、双方は拮抗し合っている。

 ムサシがカサブランカの驚異的な反射神経を上回るには……レオナルドも戦況を観察し、自分なりに考えているようだ。


「ムサシの奴。どーすんだろ。何か狙ってるっぽいけど」


 狙う。あの戦闘狂の隙を狙う。

 それしかないが、一体何が奴の隙を生み出せるというのだろう?

 キャサリンが手元のタイマーを確認しつつ叫ぶ。


「残り一分――――!!!」


 途端にムサシがカタナでカサブランカを突く。一点集中の突きで両者の動きが僅かに停止。

 だが、攻撃はカサブランカには見切られており、刃を避け、ムサシの間合いに入り込もうとした時。

 思わぬ障害が、彼女を襲う。


 ()()()()


 地面に届くほど異様に長いムサシの髪が靡いて、カサブランカの顔に向かう。

 見る見るうちにカサブランカの表情は歪む。

 髪を切り落とすなり出来ればいいものを、アバターを変化させる傷は付けれない仕様上、ムサシの長髪は斬り落とせない。


 それでも奴は攻撃を止めない。逆にムサシの髪を掴む。

 だが、その掴み上げる行為は本来行われないもの。次にカサブランカが、行う筈だった攻撃から方針を切り替えたのだ。

 即ち、それがほんの少し生じた隙。


 カサブランカが髪を握りしめた瞬間に、ムサシの方が自らの髪を引っ張り。漸く、カサブランカのバランスが崩れた。

 刹那に、ムサシが突きに使ったカタナで、一閃。

 観客や解説も全員が結果を知ろうとした瞬間にイベント終了の笛が鳴り響き、中継映像も終了した。

 これには、再び残った観客も口々に騒ぐ。


「やったか!? 今の斬ったよな!!?」


「ムサシが勝っただろ! あれでカサブランカが勝ち逃げたとかねぇよな!?」


 解説を放棄して夢中になっていたキャサリンが、慌てて手元の情報を確認しつつ宣言する。


「し、試合終了―――! 選手の皆様はお疲れ様でした!! 上位十位のランキングはこのようになりました! 十位以下のランキングは、後ほど掲載いたします!」


 中田も遅れて「お疲れ様でした」と静かに言う。


「えー……はい。今回、改善しなければならない点が多くあった事。我々から深くお詫び申し上げます。『夏季バトルロイヤル』までにジョブ調整とルール調整を行う所存です」


「い、色々と想定外の連発でしたが……まだ他にもお知らせが?」


「そうです。次回は全プレイヤー協力型のダンジョンイベントを予定しております。イベントダンジョンはマルチエリアよりも数倍も広いです。疲労回復や限定アイテムを多く確保する為に、薬剤師系のプレイヤーとの協力をオススメします」


「ダンジョンイベントですか! えーと……皆様! 次回はちゃんと協力し合ってくださいね!!」


「それとダンジョンイベントは参加によるギルド貢献度はありませんので、ご注意を」


「はー! 良かった~!! って何が良いんでしょうか。ダンジョンイベントは初心者の方々も参加できるレベルなのでご安心下さい! えー……さて、これから終了の挨拶となりますが、中田さん」


「あ、ちなみに、先ほどのムサシ選手とカサブランカ選手。結果の方は?」


「は、はい………データ上では最後の一撃、入ってますね! ムサシ選手の勝利です!!」


 キャサリンの結果発表に、残った観客は全員湧きあがる。

 他にも、中田とキャサリンが挨拶らしいものを交わし合っているが、誰も聞いちゃいない。

 最後にキャサリンの挨拶でイベントは幕を閉じた。


「これにて第一回『春季バトルロイヤル』閉幕となります! 最後までお付き合いいただきありがとうございました!!」

皆様、感想・誤字報告・評価・ブクマありがとうございます。

次回は明後日の投稿となります。

よろしくお願いします。

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