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邂逅


 彼らの、現時点でのキレの良さは、他プレイヤーと比べ格段に違う。

 開発者冥利に尽きる様子で中田が言う。


「プレイヤーの大半があらゆる機能面における全身疲労困憊状態ですが、身体強化の薬品をクールタイムなしで使用し続けられる『医者』は中盤にかけて伸びてきますよ」


 キャサリンが状況を理解したらしく、声を上げた。


「ああっ! 確かにっ。他プレイヤーの方々は疲労蓄積で勢いが低下しているのに。ズルじゃないですか!」


「あのくらいのズルがないと他ジョブと渡り合えませんから……」


 解説の矢先、会場がざわめいた。

 再び、遂にだろうか。カサブランカの姿が映し出されたからだ。

 加えて、ゆったり移動する彼女と鉢合わせたのは―――ムサシ。


 カサブランカがムサシに話しかけていると分かるが、何を話しているのかはこちらから聞き取れない。

 彼らの邂逅に、レオナルドも身を乗り出す。

 最強と異常の対決がどのようなものになるか。観客の誰もが息を飲んだ。





「ああ、よかったです。こんなに早く貴方と出会えて」


 弾む声色で話しかけるカサブランカに対し、ムサシは彼女と対面する間際、目を細める。

 カサブランカは、一方的な不満を並べ始めた。


「本当、嫌になりますよ。裁縫師相手にどんな手が仕掛けられるのか、楽しみにしていたのですが……まさか、何の対策もして来ないなんて。期待していた私が、馬鹿みたいじゃないですか」


 裁縫師。その単語を聞き、ムサシの手が僅かに止まる。

 カサブランカは失望の溜息をつく。


「存外、この界隈は弱者の集いのようですね。私が現実(リアル)で相手した輩の方が手強かったですよ」


 ロクでもない内容を語る女に、ムサシは無言で斬った。

 だが、いともたやすく、カサブランカが片手の指二本で白刃取りする軌道がムサシにも見切れる。

 彼女の指が刃を受け止めた瞬間。ムサシは振ったカタナを手放し、鞘に持ち変える。


 そして、鈍い金属音が響き渡った。

 激しい斬り合いが開幕する。

 両手に大針を二本構え、ムサシの刃を上手く受け流すカサブランカは、彼の隙を探り始めた。

 ムサシの腕力、カタナの重量、双方を平然と耐える麗容の彼女に対し、珍しく彼も言葉を吐く。


「頭がおかしい奴だ」


 今度はカサブランカが黙っている。

 真剣な表情で、針穴に糸通しした大針を数本加え、斬り合いに参戦させた。

 レオナルドは彼女を強いと呼んでいたが、全く違うとムサシは分かる。

 彼女は『殺し合い』という難問に挑戦する為、赴いたイカレであると。


「終電を乗り過ごした酔っ払いの方がマシだな」


 こうしている間にも、如何に『ムサシ』という超難問を解き明かそうか試行錯誤を繰り返している。

 ムサシが、人の顔を認識できないように。

 カサブランカは、人を人ではなく『数式』と認識している。

 異常極まりない()()()()()だ。

 ひとでなしが真剣な眼差しをしているのが、気狂い以外のなんだという。


 待ち針やボビンに棒針と、手数を増やしていくカサブランカ。

 彼女のような思考回路の輩には、普通の技など通用しない。反射神経は優れ、五感も敏感。

 ならば――


 カサブランカとムサシは互いに遠くから、走り来る音を耳にする。

 お互い、攻撃の手は緩めない。カサブランカだけは、手元に先端が丸鋸になったルレットを構えた。


「『春季闘争』!!!」


 接近するプレイヤーが発動したのは格闘家系のスキル。

 一定時間、全ステータスを増強する。

 デメリットは効果が切れると、全ステータスが本来より半減する点。

 本来、終盤に畳み掛ける段階で発動すべきスキル。だが、地面を裂く勢いで足を振り落とし、二人の合間に割り込む拳闘士は違った。


「やっと見つけた! テメェだけ倒せば、後は楽だからな―――ムサシ!!」


 その人物は、よりにもよってホノカだった。

 彼女の足技を軽々回避し合ったムサシとカサブランカ。

 ムサシは相も変わらず表情を動かすことなく無言。ホノカとは初対面なので、話しかける素振りすら見せない。

 カサブランカも不思議そうな顔で、ホノカを髪先からつま先まで観察してから。


「私が片付けますので、貴方は休んで貰えます?」


 と、ムサシに対して言うものだから、ホノカが憤りを感じない訳が無い。


「んだと……!? しかも、いつかの勝手にパーティ抜けた非常識野郎じゃねえか!」

 

 カサブランカが躊躇なく振りかざすルレットを蹴り上げるホノカ。

 ルレットが手元から上空に舞い、一見カサブランカは無防備になった。

 だが、既にホノカの周囲に針とボビンの群衆が取り囲んでいる。


「小細工なんざ通用するか! 『波動』!!」


 ホノカの体から魔力の圧が放たれ、道具類は全て吹き飛ぶ。

 今度こそ無防備になったカサブランカ目掛けて、ホノカは直情的に拳を突き出す。

 カサブランカは足場を整え、普通にホノカの手首を取る。それから、ホノカの外側に体を捌いて、仰向けに倒すまで不気味なまでに機械的にこなす。


 何故、こんなにもあっさり。

 呆然とするホノカに対し、カサブランカは至って平静に告げる。


「これ、()()()()()()()()()()()()


 上空から蹴り飛ばしたルレットがクルクルと落ちて来るのに、ハッとしてホノカが体を起こそうとした時にはカサブランカが、彼女の体に針を突き立て、地面に張り付けた。

 血は流れないが、感覚設定を高めていたホノカは痛みで叫ぶ。

 高速回転するルレットの丸鋸が、ホノカの脳天に突き刺さった。


「何故、私が刺繡師を選んだのか。殺す手段が他のジョブより多いと思ったからですよ」


 惨劇を繰り広げる半ばに。

 ムサシはアイテムから『特製スタミナドリンク』を選択していた。

皆様、感想・誤字報告・評価・ブクマありがとうございます。

連休中なので明日も無事に投稿できます。

よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 終電を乗り過ごした酔っ払いよりひどい人より 読んでますアッピルのつもりで…… 「お互い、攻撃【を】手は緩めない」 【の】 「ホノカを【噛み先】からつま先まで観察して」【人狼ゲームで誤変換?…
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