表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/315

裁縫師


 カサブランカは、僕らも以前見た刃を外した大鋏の二刀流状態だった。

 白色で目立つ彼女を狙う剣豪(剣士の昇格後)や拳闘士(格闘家の昇格後)が、周囲の木々に身を隠しつつ。個別に取り囲み始めている。

 彼女は微動だにしない。

 耳を澄ましている。五感を頼りに敵の位置を捕捉しているのか。


 まず、()()()を取り出す。ミシン糸を巻き付けるのによく見る筒状のアレだ。

 通常よりも大きいボビンを回転させて、ある一点目掛けて移動。

 すると、ボビンが虚空で何かに衝突。スキルで透明化していた忍者だ。


 忍者の姿が露わになった瞬間、カサブランカは次の攻撃行動に移る。

 見届ける必要なく、ボビンが潜んでいた忍者に命中すると確信しきった切り替え。

 新たな武器――裁縫道具を出現させる。


 次なる得物は、大鎌ほどの大きさの()()()()

 柄の先に小さな歯車があり、それを回転させ布地などに印をつける道具なのだが……

 鍛冶師が加工したのか? 歯車の部分は、すっかり丸鋸に変貌を遂げている。


 先端の丸鋸が回転を開始するのに、他プレイヤーたちが動揺するのはおかまいなしに。

 カサブランカは丸鋸ルレットを振るう。

 周囲一帯の木々を斬り落とすだけではなく、プレイヤー達にもダメージを与える。


 遠距離攻撃には巨大な針山で銃弾と矢を受け止め。

 以前、僕らの前で見せたように糸を触手の如く操作し、馬を転倒させ。

 単に糸で拘束するのではなく、木々を利用して首に糸を巻き付け、プレイヤーを吊るし上げる。


 同じく地上では鋭利な刃がついたボビンも回転し、プレイヤーに迫る。

 中でも武器の大鋏を破壊されて以降は、ナイフよりも長めの大針で急所たる頭部を狙い。

 編み物で使用する棒針を槍のように振るった。


 ……他にも針の雨、フリスビーボタン、新たな武器もといリッパーと呼ばれる糸切り道具の登場。

 攻撃手段は豊富にあるが。

 厄介なのは、彼女の異常な操作能力と反射神経。


 一個人の攻撃、一つのスキルを繰り出すだけ。それだけならVRMMOの常連者にとっては、余裕で対応可能な部類に入る。

 だが、彼女は手元の武器を振るいながら、ボビンや針雨、ボタン、糸を()()()操作する。

 加えて、開幕繰り広げられた大雑把な広範囲攻撃とは違った精密さで。

 五感を頼りに、全プレイヤーへ的確に対応した攻撃を仕掛ける。


 これが敵モンスターの一挙動であれば、手強い敵として許容される部分もあるだろうが。彼女は普通に操作しているだけの一般プレイヤー。

 十人の話を一度に理解するような、空想染みた化物でしかない。

 全員が彼女に呆気取られ、キャサリンも慌てて解説に戻る。


「す、すごっ、凄まじい反射神経です! 彼女一体何者なんでしょうか!! 最早、ランキングの一位争いはカサブランカ選手とムサシ選手の……おおっと?」


 中継映像を眺める中田は、冷静な反応を返す。


「他プレイヤーの方々、逃げてますね」


「敵わないと判断し逃亡~!?」


「まあまあ、これも一つの手ではありますよ? 強いプレイヤーを無理に狙わないで、他プレイヤーを倒してポイントを稼ぐ。今回のバトルロイヤルは()()()()で順位を決めていますから」


「う、うーん。ちょっと納得いきませんがっ」


 怯えた様子で逃亡するプレイヤー達を、カサブランカは追跡しない。

 つまらなそうな嘆息。それから『スタミナドリンク』などの強化アイテムを使用する。

 他プレイヤー達が貢献度やポイント獲得を求め、必死に駆け回っている最中。

 彼女は探索するかのように、ゆっくりとした歩調の下、徒歩移動を始めた。





「ホノカちゃん、いけー!」


 レオナルドの隣で喧しく応援するサクラ。

 中継映像にはホノカが映し出されており、上空の魔導士を倒すべく拳闘士のスキル『大気蹴』で空中を走り抜けられるようにして、次々とプレイヤーを倒して行く。


 先ほどまで異常性全開で無双していたカサブランカは、すっかり落ち着いた。

 倒された訳ではない。誰も倒さないだけ。

 他プレイヤーがポイントを稼ぎ、彼女は上位十位から圏外に落ちた。


 一位に君臨しているのは、ムサシだ。

 カサブランカに匹敵する反射神経を駆使して、武将で習得可能となる()()()二刀流となっていた。

 以前、僕達も見たジャグリングスタイルで次々と他プレイヤーを斬る。


 ランキング上位には、やっとホノカの名前が浮上し、サクラが歓喜を上げていた。

 序盤の広範囲攻撃が嘘のように落ち着き、バトルロイヤルも中盤に差し掛かる。

 真剣に鑑賞していたレオナルドは、気づいて僕に話しかけた。


「自棄に静かになったな?」


「うん、やっぱりね。みんな疲れているんだ」


 中継映像を見ると、疲労で潰れた馬が一時消失した騎射の姿があった。

 騎乗していたなら体力は残っているだろうが、弓矢を引こうとして中断し、手首や腕の筋肉痛を感じるような仕草を見せる。

 勢いあった他プレイヤーも、様々な物陰に隠れながら休息を取っていた。

 魔導士は頭を抱え、武器を振る近距離型は腕の痛みや体力の消耗による疲弊、駆け回るのを得意とする盗賊は足の筋肉痛に苦しんでいる。


 疲労を甘く見て、薬品を購入しなかったのだろう。そうなると、余裕があるプレイヤーは()()

 静まり返った場を波紋を起こす一撃。


「ああっと!? ここで『医者』が勢いをつけ始めてます!!」


 途中で武器が壊れたらしく、まるで格闘家と同じ素手で渡り合う『医者』のプレイヤー。

 むしろ、これを狙っていたのだろう。

 遂に、件の医者統一ギルド『ヒュギエイア』のメンツが動き出す。


皆様、感想・誤字報告・評価・ブクマありがとうございます。

次回は明後日の投稿となります。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ