カウントダウン
中田は中継映像を眺めながら語り出す。
「え~。さて、現時点での参加プレイヤーのジョブ割合ですが、剣士系、魔法使い系が一位二位を争ってますね」
「どちらも使いやすいですからね~」
「その次は鍛冶師系、格闘家系、盗賊系、弓兵系、銃使い系、盾兵系……と続きますね。鍛冶師系は生産職の面もありますが、戦闘面でも活躍できます」
参加プレイヤーの中継映像で、レオナルドが驚く。
「ルイス。馬いるぞ、馬!」
「弓兵の昇格後のジョブ『騎射』だね。馬に騎乗して射ることができる」
所謂、戦闘で仕様する装備の一つながら、ペット要素としてある意味親しまれている馬。
『騎射』を含めた他ジョブと接触する機会が少ない故。
今回のイベントでも、驚く要素が次々と発見できる機会だろう。
レオナルドが面白そうに映像に映る馬を眺めているのを、サクラが鼻で笑った。
「アンタ、そんな事も知らないワケ~? 攻略サイトとか見なさいよ!」
「いや、まぁ……弓使う奴が周りにいないからさ」
サクラが作った嫌な空気を壊すように、キャサリンが「おおっと!?」と声を荒げる。
「『薬剤師』、いえ『医者』の方! 結構いらっしゃいますね!? 意外や意外です!」
「十名弱ですがいますねー。どういった動きを見せてくれるか、楽しみです」
映像で『医者』の面々が映し出されているが、彼らはひと塊になっていて。
リーダー格らしき男性プレイヤーが他の『医者』プレイヤーに指示を伝えているようだった。
あのプレイヤーは……僕も知っている。
異端中の異端。
『医者』統一のギルド『ヒュギエイア』のギルドマスター・オズワルドだ。
またもや驚きの様子でキャサリンは反応した。
「ちょ、ええっ!? 『魂食い』と『武将』はそれぞれ一名だけ!?」
「武士系はともかく、墓守系が一名というのは残念ですね。仕様の見直しを検討しましょうか」
「大鎌の巻き込みを何とかして下さいよ、中田さーん!」
「よく言われるんですけどねぇ。アレ駄目にしちゃうと全体的に調整しないといけないですし、膠着状態の味方を吹き飛ばして、緊急回避って裏技も使えなくなるんですよ」
「う、うーん。成程。じゃあ武士系の調整を行いましょう!」
「武士系も全体の割合は決して少ない訳じゃないんですがね~~」
映し出されたクリムゾンレッドを基調とした女性の『魂食い』。
レオナルドが「どこかで見た事あるような」と呟く。僕は彼に教えた。
「『ソウルオペレーション』の解説動画をあげてた人だね。確か『紅殻』ってプレイヤーネームの」
「あ! あの人か」
それからムサシも映像で映し出された矢先。
最後の最後に、キャサリンが今日一番の驚愕を見せた。
「ななななんとぉ!? たった今入った情報によりますと……参加者0でした『裁縫師』ですが、エントリーされたプレイヤーが現れたとのこと!」
「あー、ちょっと安心しましたね~」
中田が呑気なコメントを残すが、他プレイヤーからは衝撃が走ったようだ。
レオナルドはカサブランカの印象で理解していないだろう。
刺繡師系の武器『大鋏』が『大鎌』以上に使いにくい事や、そもそも刺繡師系を選ぶプレイヤーは戦闘よりも生産を楽しむのが常だからだ。
案の定、映像に映ったのはカサブランカ。
鼻高い顔立ちに銀目、白髪のロングウェーブ。服装は灰色のレギンス、長袖の白シャツ。
容姿は格別変ではないが、彼女が『裁縫師』なのと一際シンプル過ぎる出で立ちに、他プレイヤーからも注目の視線が注がれていた。
観客のプレイヤーも「アレ誰?」「どっかの有名プレイヤーかな」と口々に語り合う。
映像を眺め続けていたレオナルドが僕に尋ねる。
「同じ制服?で衣装統一してる連中がギルド入ってる奴らなのか?」
「うん、間違いないね」
各々のギルド所属プレイヤーは、特徴的な衣装で格好をギルドで統一していた。
イベント会場にランダムに転移される為、遠目から分かりやすいように工夫している。
彼らは以前、僕が触れた愚行を行う可能性が高い。
手元に何等かの画面を表示させ、キャサリンが「はい」と一声の後、告げた。
「只今を持ちまして、参加者は締め切りました! えーと……? 参加プレイヤー総数は、合計で5031名、です!? あ、あれれ。少なすぎません!?」
「うーん、VRMMOの上級者を恐れて初心者が委縮してしまったのかもしれませんねぇー」
五千。という数だけは多く感じるが、プレイヤー総数と比較すると圧倒的に少ない。
貢献度狙いでギルド所属の生産職や不慣れな初心者も多く参加すると、僕も予想していた。
実際は、何故か過度な参加は見られない。
本当の意味で強者ばかりが、揃いに揃ったように思える。
『武将』や『魂食い』、『裁縫師』が一人だけなんて異常事態は、普通は起きない。
だが、これを自慢げにしている者が一人。
「初心者は参加すんなって、ホノカちゃんのアカウントで皆に言っておいたからね~! お陰で強い奴だけのイベントになったのよ! これが当たり前なの!!」
レオナルドの隣でドヤ顔するサクラだ。どうやら、コイツの仕業のようだ。
コイツのわがまま一つならともかく、ホノカのSNSアカウントでそれをやったなら多少影響力はある。
彼女のファンや、それに便乗したタチ悪い輩が、初心者に対するイベント参加自粛を促した……
最悪、業務妨害で訴えられてくれ。
胸糞悪い空気を打ち消してくれる勢いで、キャサリンが叫んだ。
「さあ! まもなく第一回『春季バトルロイヤル』開催いたします! 参加プレイヤーはイベント専用エリアに転移され、カウントダウンが開始します!!」
中継映像が特設広場から、桜や梅を含めた木々と花畑、清らかに流れる小川のある春エリアの一角を切り取ったような光景を映し出す。
そこへ次々と転移していく参加プレイヤー達。
モニターに表示されるカウントダウンを観客のプレイヤーも叫ぶ中。
数値が0となった瞬間。いよいよ、地獄のバトルロイヤルが開始されるのだった。
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