広場
第一回『春季バトルロイヤル』当日。
僕とレオナルドが広間に転移する頃には、多くのプレイヤーで賑わっていた。
多くは生産職プレイヤーばかり。勿論、その他のジョブプレイヤーの姿もある。
中央に運営関係者が座るだろう実況席とそこから距離を置いて、取り囲むように観客席が配置。
巨大なモニターが全方位で見られるように宙に浮かび、今はイベントロゴマークが表示されている。
普段、広場にこのような設備は無い。イベント時のみ配置されるのだろう。
参加受付には、既に衣装をまとったプレイヤーの姿が。
レオナルドが羨ましそうに彼らを眺める傍らで、NPCのバーチャル飲食と応援グッズ販売を見つけた。
僕が適当にバーチャル飲食を購入。
レオナルドを呼び、共にNPCの観客席誘導列に並ぶ。
「あ~! いた!!」
折角のいい雰囲気をぶち壊すように、例の糞餓鬼・サクラが僕らを発見して駆け寄った。
僕が思わず溜息を漏らし、彼女に言う。
「僕らはイベントに参加していない。これで気が済んだだろう? 早くギルドに帰ってホノカを応援したらどうだい」
「イベント始まるまで分からないでしょー!」
癇癪気味にサクラが列の合間に入って来たのに、後ろで並んでいた他プレイヤーが不愉快そうな表情をしている。
NPCもサクラに割り込むのを止めるよう促すが、彼女は前のように騒ぎ立てそうだった。
僕より先にレオナルドが「もう一度並び直します」と言い。一旦、列から離れる。
それからも、僕とサクラを隣同士にしないようレオナルドが席の真ん中に座り。
サクラがバーチャル飲食が欲しがるので、仕方なくレオナルド自身の分を渡したり。
レオナルドに一方的にホノカに関する自慢話を喋り続けたり……
よくまあ舌が回る奴だと、僕は再度溜息ついて、誤魔化すつもりでバーチャル飲食を自棄食いする。
すると、観客席のプレイヤー全員に運営からメッセージが通達され、音声案内が脳へダイレクトに響く。
騒がしかったプレイヤー達も自然と静まる。
『観客席のプレイヤーの皆様にお知らせです。イベント開始十分前となりました』
『イベントはアクセス集中が予想されます。誠にお手数ですが、生中継の実況配信の停止等、サーバー負担軽減にご協力をお願いします』
『バーチャル飲食や応援グッズはイベント開催中、NPCが観客席を回り、販売いたします』
『観客席で他プレイヤーに対する迷惑行為を行ったプレイヤーは、運営の判断により強制退去されます』
『お知らせは以上となります』
『それでは、心行くまでご鑑賞ください』
アナウンス終了から、しばし間を置いて実況席に二名の男女のアバターが転移する。
女性の方の声が会場全体に響き渡った。
観客にいるプレイヤーの声にかき消されないよう、声量を大きく設定されているのだろう。
「皆様! お待たせしました。『マギア・シーズン・オンライン』サービス開始後、初イベントとなります。第一回『春季バトルロイヤル』! 間も無く開始します!! 実況解説役として、私、普段はお客様対応窓口におります。キャサリンと――」
「開発部ディレクターの中田でお送りします。皆さん、盛り上がっていますか!」
二人に振られて、他プレイヤー達も歓喜して躍り上がる。
キャサリンと中田の二名が席につくと、早速モニター映像が切り替わり、こことは異なる特設広場で待機する参加プレイヤー達の様子が映し出された。
「中田さん! サービス開始から一か月も経過してませんが、どうですかっ」
「うーん。ほとんどのプレイヤーはジョブ2に到達してますね」
「ジョブ2の解放条件、なかなか捻くれてると賛否ありましたが~」
「僕としては判明するまで、もう少し時間がかかると思ってたんですがねぇ。案外、早くバレちゃいました」
「い、いやぁ。プレイヤーの皆様も大変だったでしょ~」
キャサリンの言葉に、同意する他プレイヤーもいる状況で、中田が話題を切り替えた。
皆様、感想・誤字報告・評価・ブクマありがとうございます。
明日は通常通りの投稿をします。
また妖怪図鑑も投稿しましたので、是非そちらもよろしくお願いします。