ソウルオペレーション
皆さま、評価・ブクマありがとうございます。
遅くなりましたが、ギリギリ投稿します。
イベント開催まで残り三日。
各々が準備期間に入っているのを察し、運営が一日限定の特別クエストを設けた。
経験値獲得クエスト。
制限時間内に妖怪『座敷わらし』を倒していくだけの内容。
『座敷わらし』はフィールドの物陰に現れ、物音や囁き声を頼りに探し出す。
倒せば倒すほど『座敷わらし』の現れる量と速度が増加。
大量討伐に成功すれば膨大な経験値が得られる……のだが、肝心の『座敷わらし』を捕捉するのに多くのプレイヤーが苦戦を強いられているようだ。
だが、レオナルド――墓守系のジョブが新たに獲得したスキルがあれば、余裕だった。
[ソウルサーチ]
周囲の魂を索敵する。効果はパーティ全員に適応される。
使用し続けるとMP消費。
隠れ潜んでいる妖怪以外にも、姿を眩ます盗賊系のスキル『隠れ蓑』で透明化したプレイヤーも捕捉できる。遠距離や不意打ち系のジョブ対策は万全だ。
僕はレオナルドのMPを絶やさないよう『魔力水』で、こまめに回復を行い。
レオナルドは『ソウルサーチ』と『ソウルターゲット』を組み合わせ、広範囲攻撃で『座敷わらし』を狩り尽くし、僕は彼が倒し損ねた『座敷わらし』を片付ける。
他にもレオナルドのスタイルが変わった。
カサブランカの指摘を意識したのか、『ソウルターゲット』の切り返しを鎌を手前に振るのではなく、大鎌を片手で回転させる。
回転するのは手前ではなく、レオナルドの背後。
お陰で視界が開け、『ソウルターゲット』の軌道が描きやすくなったと分かる。
何より、回転し続ける事で宙に留まる時間も延長していた。
制限時間終了のホイッスルが鳴り響き、僕とレオナルドの経験値が加算されていく。
レオナルドは以前購入したスキル[天、二物を与えず]により、獲得量は三倍。
僕よりもレベルアップは早い。当の本人は、レベルより件の切り返しに関して感想を求める。
「ルイス。さっきのどうだよ? 早く飛べるようになっただろ」
「うん、いい感じ。あとは回避の特訓かな。丁度、次のボスが空中回避の耐久戦だよ」
「じゃあ……どーすっかな。ステータス」
「ちょっと待ってね」
僕らは集会所のテーブル席に腰かけ、話し合う。
墓守・魂食いのスキル・ステータス情報は、大分更新されている。
『ソウルターゲット』の発見でMP消費系のジョブだと判明したのを期に、INT極振りで作り直した攻略班や動画実況者から得た内容をまとめた。
まず、レオナルドがレベルアップで獲得した新たなスキルは、これだ。
[ソウルオペレーション]
大鎌を魂で浮遊操作する。
『ソウルオペレーション』は武器を手で振るわず、浮遊操作し遠距離の敵に攻撃する。問題点は、プレイヤーは武器なし状態になり、浮遊操作に意識が奪われがちになる事。
さて。
情報を整理して気づいた事が幾つかある。最も意外なのは―――
「『ソウルターゲット』は案外難しいんだね。君がすぐに慣れたから、簡易仕様になっていると思ってたよ」
多くのプレイヤーが『ソウルターゲット』を使用すると猫背になる。
鎌の重さで重心がずれたり、鎌を一旦地面に置いてもスキー初心者みたいなくの字足状態やバランスを取れずに体が斜めったり……
レオナルドは、他プレイヤーの動画を視聴して「スケボやってたからかな」と心当たりをぼやく。
「『ソウルターゲット』以外にも、この『ソウルオペレーション』の操作が難しいのが不人気な理由なのかな」
「おお、これスゲーじゃん」
レオナルドが感激しているのは大鎌を操作する『ソウルオペレーション』関連の動画だ。
INT極振りしたプレイヤーが『ソウルオペレーション』にスキルレベルが存在する旨を説明し、レベルMAX状態で五本の大鎌を装備し、浮遊させるモーションを映している。
しかし、一本手元に残しても、残り四本の大鎌を上手く操作しなければ意味がない。
加えて『ソウルオペレーション』の武器装備に関するデメリットがあった。
レベルMAX状態の『ソウルオペレーション』の説明文は以下の通り。
[ソウルオペレーション Lv.MAX]
大鎌を魂で浮遊操作する。更に、大鎌の装備数を増やす。(最大5)
デメリット:装備数分、自身の最大HP半減。
あくまでHPが半減するだけ。スタミナには影響は及ばないらしい。
だが、複数の武器操作に加え、相応の回避能力が必須。――やはり僕が予測した通り、プレイヤースキルが試されるジョブだ。
僕は浮遊する大鎌の動き等を観察し、バトルロイヤルの対策を練った。
「レオナルド。一番厄介なのは遠距離型と盗賊系のジョブだ。君の『ソウルサーチ』で敵の位置を捕捉すれば、問題ないけど。常に捕捉し続ける必要がある」
「そうだよな。アイテムって幾つ持ち込めんの?」
「アイテム数制限ないよ。スタックは通常通り99まで。三十分の制限時間を考慮すると消費アイテムは必要不可欠だからね」
ただ――『ソウルターゲット』を使う余裕がない。
『ソウルサーチ』との併用使用し、『魔力水』でMP回復し続けても、十五分どころか十分持つか怪しい。
そして、僕らが狙うギルドの愚策が行われるのは序盤中盤の峠を乗り越えた終盤。
序盤中盤は『ソウルサーチ』のMP消費だけで抑えたい。
「君のバランス感覚を信用しよう。まず『ソウルオペレーション』をレベル3にして、大鎌を三本装備可能にする。大鎌の一本は君の後頭部を保護するのに使う。無理に動かさなくていい」
警戒するべきは、銃や弓のヘッドショットだ。
いくら『ソウルサーチ』があっても、レオナルドが即座に反応できる訳がない。
まずは、そこの保護。
「もう一本は攻撃兼牽制用。回転と旋回を組み合わせて、広範囲攻撃して、近距離型を遠ざける。フィールドに木々があれば、それを切り倒して、高所に陣取る弓兵や銃使いの妨害になる」
「じゃあ、最後の一本は手元に残す奴?」
「うん。手元の一本は『ソウルオペレーション』で浮遊させて――君が乗るんだ」
「乗るゥ!? 魔法使いの箒みたいにかぁ?」
素っ頓狂な声を上げたレオナルドは、一体どうするのかと困惑している。
僕は、それを微笑ましく眺め教えた。
「動画を見て、安定しそうな乗り方を思いついたんだ。やってみないと分からないから、後で鍛冶師のところに―――」
その時だった。
折角、気分良く盛り上がっていたところに、耳障りな少女の声が割り込んできた。
「いたー! この嘘つき!!」
僕らにムスッとした腹立たしい表情をするうざったい少女は、本当に初対面の魔法使いだった。