魔境
一部レオナルド視点が入っています。
格闘家の少女も小雪と同じく、以前と服装が変わっていて、黒のタンクトップに炎が描かれたワイドパンツを履いている。
ラフな格好だが、格闘家にも関わらず、縛ってもない黒のロングヘアーは邪魔ではないのだろうか。
彼女はジロジロと僕らを観察している。レオナルドが「どうした?」と思ず尋ねた。
「お前ら、ソロでボス倒せんのか??」
レオナルドが顔をしかめて答える。
「ソロォ? 一人で倒すとか無理に決まってんだろ。あとルイスは参加しねぇよ」
「だったら無理だな。参加したって一人も倒せねぇよ。こっちも初心者が来られたら萎えるんだよ。強い奴同士でやり合いたいってのに……」
彼女の言い分は理解できる。
弱者相手に圧倒しても意味はない。強さを示すには、強者相手でなければならない。
ムサシと同じ部類の人間だろう。
だが現実問題、残りの弱者のユーザーを切り捨てる風潮が、ゲーム業界にはよろしくない。
強者と弱者。どちらが比率として多いか問われれば――弱者だ。
弱者の居場所がなくなり、強者だけが蹂躙する風潮が広まってしまうと、衰退が始まる。
即ち、ゲームのサービス終了。
変に話を炊きたてるのは良くない。
僕は咄嗟に割り込んで、レオナルドの代わりに彼女への誤魔化しを行う。
「すみません。レオナルドはギルド貢献の為に参加するんです。大目に見て下さいませんか」
「ケッ! ギルドかよ……面倒くせーな」
所属ギルドを問い詰められるかと身構えたが、格闘家の少女は疑う素振りなく。
むしろ、助言をしてくれる。
「知らねーだろうから教えてやるけど、最近サービス終わったVRMMOがある。そっからコッチに人が流れ込んでるんだよ。『マギシズ』の運営もそれ狙って中途半端な時期からサービス開始したんだろうな」
妙に話題が挙がっていると僕も違和感はあったが、そういう理由があったのか。
なら、今回のバトルロイヤル。相当の魔境状態だ。
多くの初心者は、熟練プレイヤーの点数稼ぎにしかならない。
「イベントを盛り上げる為だろーが、ギルド貢献度とか糞仕様だよ。ホント。貢献度にうるせーギルドだったら、ウチのギルドに来いよ」
レオナルドが気まずそうに「ありがとう」と礼を告げる。
少女は他にも苛立ちを抱えているようで、ズケズケとクエスト受付に向かっていった。
一先ず、僕らはイベント受付でレオナルドだけ参加手続きを行う。
レオナルドが犬の仮面を被り、青を基調にした姿から匿名を『蒼狼』にした。
「お。ポイントで武器とか貰えるのか」
受付を終え、レオナルドはバトルロイヤルのルール確認、獲得ポイントで貰えるアイテムや武器の一覧を眺めていた。
イベント限定の衣装や武器もあり、これ目当てに参加するプレイヤーも居るだろう。
唸りつつレオナルドが注目したのは――
「五人倒せればいいか……?」
参加プレイヤーを一人倒して100ポイント。
彼が狙っているのは、500ポイントで交換可能な薬剤師系の武器――洒落た革製の旅行鞄。
僕の為よりか、最低目標だろう。
大鎌は5000ポイント……初心者のレオナルドが目指せる無難な目標だと分かる。
「ルイス、鞄欲しいか?」
「そうだね。一旦、店に戻ろうか」
周囲に聞かれては不味いので、店内に転移してから僕はレオナルドに伝えた。
「まず、断言してしまうと君が生き残るのも難しいね。現状、最低限の参加賞が貰えるくらいだ」
「結構はっきり言うな……」
「実力差は圧倒的さ。格闘家の彼女もそうだけど、ムサシのようなVR常連者が犇めいている訳だ。普通じゃ勝てない。普通ならね。残るは策を講じる事だけ」
僕はメニュー画面を開き、再度バトルロイヤルのルールを表示した。
<第一回 春季バトルロイヤル>
・制限時間30分。倒したプレイヤーの数で順位を決定します。
・プレイヤー1人倒すごとにイベントポイント100を獲得。イベントポイントで限定アイテム・装備品と交換しましょう!
・参加賞は5000マニーとJP5000獲得。
・ギルド加入者には、参加賞で貢献度1000ポイント。上位100名には順位に合った貢献度を獲得。
100~51位 貢献度 5000ポイント
50~31位 貢献度 6000ポイント
30~11位 貢献度 7000ポイント
10~6位 貢献度 8000ポイント
5~4位 貢献度 9000ポイント
3~1位 貢献度 10000ポイント
シンプルかつ単純なルールだ。多く倒した者が優勝。
そして、イベントを盛り上げる為に、限定アイテム等や貢献度を餌にプレイヤーを参加させようとしている。
だが……
「今回のルールを悪用する輩が必ず現れる。そこを狙うのさ、レオナルド」
◆
~フレンドチャット~
※最新のメッセージ100件まで表示します。
<レオナルド>
[空中攻撃しないで浮き続ける事ってできんの?]
<ムサシ>
【武器を動かし続ければ5秒持つ】
<ムサシ>
【回転でもしてろ】
<レオナルド>
[ペン回しみたいに?]
<レオナルド>
[今度やってみる]
<レオナルド>
[聞きたいんだけどさ、何でムサシは強くなろうとしてんの?]
<ムサシ>
【忘れた】
<レオナルド>
[そっか]
<レオナルド>
[そろそろ寝るわ]
<レオナルド>
[おやすみ]
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