表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/315

実況動画

 

 翌朝。

 教室ではジョブ2の解放条件が話題になっていて、情報の発信源はムサシの動画らしい。

 悪寒がして、僕も携帯端末から問題の動画を探す。

 彼も初期武器を装備し続けていたが、彼の場合は『プライム』スキルと武士の特性上、武器に拘る必要ないから。鍛えていたか怪しい。


 ムサシに情報を提供したのは――間違いなくレオナルドだ。

 何より、昨日のレオナルドと遭遇した部分は、編集処理がしっかりされているのか。


 ランキング上位に入るそれらしい動画を視聴する。

 [喋らないの?][呼吸フェチだから助かる]などのコメントが画面に流れるように、ムサシ本人は案の定一切喋らず、吐息程度は聞こえる。こういうスタイルのようだ。


 最初は春エリアのメインクエスト五面のボス『ブライド・スティンク』の攻略。

 ボス戦を飛ばすと問題のPKKシーン。

 集会所で他プレイヤーが『鉱山エリア』でPK集団がいると噂しているのを聞き、彼は『鉱山エリア』に直行。


 さて、問題はPK集団を一掃した後。

 ……編集。されてはいる、が――とんでもなく雑。

 あまりの雑さに視聴者のコメントも突っ込みの嵐で、笑いを呼んでいる。

 レオナルドに適当な犬の画像を貼り付けて、姿を隠していた。一応隠れてはいる、完全に。


 ちなみにムサシが話しかけたシーンは、珍しく喋った事で視聴者は別の意味で驚愕していた。

 視聴者コメントによると、十年ぶりに生声が出たらしい。

 まぁ……フレンド登録の所もレオナルドのジョブが分からないよう(雑な)犬画像を貼り付けてたので良しとしよう。


「あー! レンレンもムサシーヌの動画見てるんだ~!!」


 僕の手元を覗き込んで来たのは、いつもの男子。

 ムサシを変な渾名で呼ぶ彼を少し睨んでしまったが、僕は無言で携帯端末を鞄にしまっておく。

 彼は、僕の機嫌などお構いなしに話しかける。


「俺さ~ギルド作ったんだよね! レンレン、俺のところ来ない?」


 あえて申し訳なく僕は答える。


「ごめん。僕もうギルドに入ったんだ」


「え~……てか、レンレン。ジョブ何にしたの?」


「魔法使いだよ。君は?」


 彼を避ける為に一応尋ねてみると、疑うことなく「格闘家だよー」と呑気に返事をしてくれる。

 それから、僕は彼に伝えた。


「僕のギルドマスター、他ギルドのフレンドは切るようにって方針でね。結構、厳しい所に入っちゃったみたいだ」


「うっわ。ブラックギルドだったら抜けた方がいいよ~?」


「うん。不味い感じがして来たら、適当なタイミングでそうするつもり」


 何事もなくホームルーム開始のチャイムが鳴り響いた。



 ◆



 今日は、先に草原エリアで繊維回収。

 PKの一件やジョブ2昇格を優先してしまったせいで、こちらをすっかり忘れてしまっていた。


 だが、ジョブ2の情報が出回ったお陰で、他プレイヤー達は誰もいない。

 夏エリアの難易度も低めらしく、攻略を優先したり、人によっては夏エリアにも経営店や家を建てたり、レベル上げやジョブ2の新要素を楽しんでいる。

 春エリア全体的に人が少な目だ。


 不穏要素のPK集団も、ジョブ2昇格し夏エリア攻略を優先させなければ、他に遅れを取るハメになるからか現れていない。当分、心配はなさそうだ。


 繊維素材には色々ある。麻や綿、蚕の絹から、羊のウールまで。

 大鎌なら生えている植物繊維、蚕の絹の回収は簡単だが、羊に関してはなかなか難しい。

 レオナルドが『ソウルターゲット』を使い、放牧されている羊を追い込んでいく。


「うおおおおおおおお!!!」


 めぇ~


「あああああ! また変な方向行きやがった!!」


 めぇ~


「何匹か逃げた!!」


 めぇ~


 ……という具合に、牧羊犬が如く誘導しているレオナルド。


 繊維集めは、本来なら盗賊が適任だ。

 彼らは道具の一種に網を所有している。元よりAGIが高いので、自力で煙玉や爆弾で羊を誘導し網のトラップで大量に捕獲。武器のナイフで羊の毛も刈れる。

 他の武器では刈れず、ピッケルと同じく『毛刈りハサミ』を用いる必要がある。


 そして、レオナルドが誘導してくれた羊が僕に接近してくる。

 『麻痺粉末』を羊たちに撒き、彼らの動きが止まったところで急いで毛を刈った。

 ウールは冬服用だが、これから向かう秋や冬エリアで必要になる。誰もいない内に余裕もって素材を備蓄して損ではない筈。


 繊維素材を最大スタック数の99まで揃え、レオナルドの分も合わせれば一先ず安心だ。

 僕はレオナルドに告げる。


「お疲れ様。そろそろ行こうか」


「はぁ~……やっとかよ。服屋行って、次はメインクエストの3面だろ?」


 麻痺状態が終わった羊たちが慌ただしく飛び上がり、僕らの脇を通り抜けていく。

 しかし、毛を刈らなかった羊たちのみが再び囚われた。

 僕らの仕業ではなく、皮肉にも糸に巻きつけられ、身動き取れない状態に…………


 不可解なのは羊たちを捉えた糸。

 まるで生きた触手のように蠢いて、羊たちを持ち上げている。

 一人の女性が、僕たちに話しかけて来た。


「おや、まだ3面なのですか? 随分遅いですね」


 僕もレオナルドも沈黙する。

 相も変わらず澄ました顔で倫理観ない物言いする女など、一人しかいない。

 カサブランカだ。

本日は投稿が遅れて申し訳ありません。

評価、ブクマありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ