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奥に向かう手前に店のカウンターがあり、楓が「こんばんは」と挨拶をしてくれる。

彼女はレオナルドの恰好や様子に違和感を覚えていないようで、ごく普通な接客態度を保つ。


「カサブランカさんは奥にいらっしゃるので呼んで来ますね」


「必要ない。少し彼女と話をしたい。奥に行けるようにして欲しい」


「わかりました……あ、()()の方はどうですか?」


「問題ないよ。三日月も気に入っている」


レオナルドはペットごとに武器を新調しており、山猪の三日月の武器に関しては楓に依頼をしたのである。

少しだけ武器の話題を交わした後。

楓が店主権限でレオナルドを奥に進めるように解禁するや否や。

『深紅のオーダーメイド』の靴で歩む事で鳴り響くゴツゴツとした効果音と共に、レオナルドはカサブランカのいる場所へ目指した。


最中、蒼のレオナルドが尋ねた。


[さっきの人……祓魔師?]


「最近現れた新入りらしい。()()はまだ会った事がなかったな。どうやら夏のバトルロイヤルに参加するという。中々、面倒な相手だ」


[へえ。チャットで会話してきたのは驚いたけど、喋れないとかそういうのか?]


ピタリとレオナルドの足が止まる。

美しい止まり木で羽を休めて大人しくしている不死鳥・ふーちゃんが何とも言えない様子で、じっとしている一方。

奥からドスの効いた乱雑な男の声が聞こえていた。

最初、レオナルドは誰かと思ったが、聞き続けていると声の主の正体に気づく。


『いい気になってるんじゃねぇぞ、阿婆擦れの娼婦風情が。あの男はお前を眼中にも留めていない。他の人間共にチヤホヤされて、気分よくイキってるだけの承認欲求の塊だろうが。それとも、それがお前とお似合いだなんて勝手に思い上がってるのか? 自意識過剰だなぁ? 大した実力もねぇブスの癖に』


声の主は、紛れもなくロンロンだった。

以前までの丁寧かつ紳士的な応対をする彼とは不釣り合いな様相に、蒼のレオナルドは戸惑いを覚える者の。

紅のレオナルドは分かり切っていた風に、動じる事なく奥へ進む。

罵倒は刻々と続いていたが、途中、レオナルドの足音に気づいたらしく、唐突にロンロンの声が消えた。


工房奥にある倉庫には、様々な素材がいつも通り置かれてあり。

端の方でテーブルで作業を行うカサブランカの姿は、いつも通りの様子で恰好だった。

何事もない態度で、チラリとレオナルドの方を確認した彼女は、リアクションの一つもしない。

再び、刺繡作業を行いながら「何用ですか」と素っ気なく聞き返す。


すると、紅のレオナルドは不敵に笑みを浮かべる。


ただ彼女に近づいて、近づき、そしてカサブランカの間近まで距離を詰めた彼は、優しくも愉快そうな声色で言う。


「久方ぶりだな、カサブランカ。()の方を見てくれないか?」


流石のカサブランカは少し手を止めて、レオナルドの方に向き直った……が。

初めて見る彼女の表情がある。

真顔だが、眉間にしわを寄せて口元も不快な形で歪んでいた。一言で説明すると「なんだコイツ」な顔。

そんな彼女の表情だけで上機嫌な紅のレオナルドは、舞台役者の如く語る。


「漸くだよ。こうしてお前と言葉を交わせるようになったのは。幾度となく、あの――ルイスに邪魔立てされたが、もう問題ない。奴はイベント後にギルドから抜けさせるさ。奴が抵抗しようとも私の権限でそうする。だから――」


紅のレオナルドが愛おしそうに語る様に、表情がそのままなカサブランカと何とも言えない気分になる蒼のレオナルド。

特に、蒼のレオナルドは「俺はこんなんじゃねーぞ」という戸惑いを隠せない。

これでよく、様子が変とか別人だと疑われなかったものだと関心してしまう。


台詞を途中まで述べた紅のレオナルドは、唐突にクリスマスカラーの大鎌の柄でカサブランカを突く。

住宅エリアでは攻撃できない筈――なのだが。

カサブランカの体を通り抜け、ロンロンの喉笛を捕らえており、彼女から一時的に引き剥がす。

呪いは継続中なので、エフェクトで解呪されていないのは明白だが。

少なくとも、カサブランカに害を為せない状態だろう。


一瞬で不快な声で、レオナルドは言う。


「いよいよ、コイツとはお別れだな。最期に何か言う事はあるか?」


[おい、だから待てって。カサブランカはそれでいいのか?]


蒼のレオナルドの言葉は全く誰にも伝わらない。

カサブランカは沈黙しているうえ、紅のレオナルドは容赦がなかった。

大鎌を押さえ、どうにか喋るロンロン。


『がっ、ま、マザーグース様の耳に入れば、ど、どうなるか分かっていらっしゃる? 再び人間を信用せずに暴君へ戻るでしょう! あ、貴方がやって来た努力を不意にし、周囲の信用も地の底に』


「お前を消した所で問題はないだろう。お前の()()は残るのだし」


『は――』


「いや、だから。お前は所詮、魂の残滓だろう。妖怪の呪い自体、妖怪自身の自己責任。一種の賭け事のようなもの。ダウリスの法の範囲外だ。ダウリスもお前を庇えない」


『………』


「ダウリスは妖怪としての縄張りは継続するようだが、人間との同盟に関しては放棄を継続中だ。私との交流は、ダウリス個人の関係に過ぎない」


『……』


「それで、もう一度聞くが最期に言い残す事はあるか?」


いよいよ。

逆に、ここまで来て、ロンロンが最早言い逃れも抵抗も無意味だと悟った。

嫌味で傲慢な余裕ある態度は消え失せて、何故か引きつった笑いをする。

恐怖のあまり、笑ってしまうという現象はこういうものなのか。

蒼のレオナルドは変に関心する中、焦りを隠せないロンロンがいつになく饒舌に語った。


『ち、違うんです。違うんですよ。彼女に酷い事をするつもりはなかったんです。本当です本当。私はね。彼女があまりに非常識で、だから彼女の為に色々施そうと、社会の事を教えたかったんです。な、なのに彼女が、い、言う事を聞かなくて、私の話、全然聞いてくれないんです』


「お前は何のつもりだ」


『わ、私――私! 彼女の事を()()()()()()()()! ()()()()()()!!』


蒼のレオナルドは、ちょっと驚き隠せない様子で[ええ?]と困惑を漏らす。

必死な形相でロンロンは続けた。


『だ、だけど、どうすればいいか分からなかった! マザーグース様は人()()()()()()()()()()()()()()()()!! 何が正しいのか私には理解できなかっただけなのです! 私は――』


「やっと終わったか」


ロンロンを壁に押し付けながら紅のレオナルドがメニュー画面を開く。

緑光がこちらに向かう旨をメッセージで送ったのを把握したからだ。

『ぐえっ』と潰れたような声を出すロンロンを、蒼のレオナルドは何とも言えない様子で見続けていた。


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