サンタ
それから無事に林の奥へ進むと、老若男女様々な声が聞こえて来る。
だが、彼らが発する言葉は決まっていた。
「HOHOHO」
「HOHO!」
「HOHOHO……HOHO……」
服装は赤と白の制服だが、性別や年齢は様々。
クリスマスツリーを家に改装して住み着いている『サンタクロース』達がちらほら姿を見せる。
彼らが拠点にしているクリスマスツリーには種類ごとに異なっている。
鉱石、薬草、食材、繊維、木材、武器、衣服などなど、求めるものを拠点にしているサンタクロースに冬エリア以外で取得できるアイテムを渡すと『プレゼント』を交換できる。
ただ、交換されるものはランダムなので、何度も訪れるプレイヤーは珍しくない。
実際に、僕とアルセーヌが来た時にも幾人かのプレイヤーがサンタクロースと取引をしており、何度か取引を続けている様子が見られる。
アルセーヌが僕に提案してきた。
「先に君から交換してきていいよ。俺が周囲の警戒しておくから」
「ありがとうございます」
交換中に襲撃される事も否定できない。
こういう場合だと、パーティを組んだ方がいいと思う場面だ。ソロの場合はどうするのだろう。
取り合えず、僕からサンタクロースとの取引を開始する。
少し試したい事があるのだ。
適当に薬草のクリスマスツリーのサンタクロースに、春エリアで採取可能な『サクラ』、他にも『向日葵』や『紅葉』といった他季節を代表する素材を積極的に渡す。
素材を受け取ったサンタクロースは、しげしげと観察した後に「HOHOHO」と鳴いて僕にアイテム渡す。
[『クリスマスオーナメント』と交換できた!]
[『クリスマスオーナメント』と交換できた!]
[『クリスマスオーナメント』と交換できた!]
……まあ、こんなものか。
『クリスマスオーナメント』はクリスマスツリーの飾りであり、サンタクロースとの取引のみで入手可能な特殊素材だ。
興味があればオーナメントを集めておきたいが、別の機会にしておこう。
僕が試そうとしたのは新薬――即ち、料理などと取引を行う事。
ジャバウォックの為に作り置いた『マカロン』をサンタクロースに渡してみる。
「HOHOHO……」
普段と少し変わった鳴き声をすると
[『紅葉の電飾』と交換できた!]
見かけないアイテムが入手できた。
気になるところだが、他にも試したいので確認は後回しにて、僕が次に取引を行うのは衣服のサンタクロース。
先程の通りならば、僕はマカロンを三回渡してみる。
「HOHOHO……」
[『吸血鬼のコート』と交換できた!]
[『ジャックフロストの手袋』と交換できた!]
[『聖夜のブーツ』と交換できた!]
様子を伺っていたアルセーヌが珍しい様子で声をかけてきた。
「お、中々いいじゃん。『聖夜のブーツ』なんか冬エリアを巡るのに必須装備だぜ」
「それは良かったです。……ちなみにサンタとの取引での当たりとか、アルセーヌの調べで分かってたりしますか?」
「これ、プレイヤーのジョブ次第で貰える素材とか武器とかが変化しまうから何とも言えないんだよね。最高レアみたいなもんがあるかもサッパリ」
お手上げ状態のような素振りをするアルセーヌ。
ジョブごとに異なるか……僕は次の取引先を目指した。
鉱石のサンタクロースとの取引は多く行ったが冬エリアで採取可能な鉱石だけしか入手できない。
一応、武器も交換してみたが『サンタの袋』というサンタクロースとの取引でのみ入手できる薬剤師系専用の武器を確保できた。
次はアルセーヌが取引を行う。
僕が周囲の警戒を引き受けたが、奴がどうするのかも流し見で観察する。
アルセーヌが渡したらしい素材は――『ツリーの実』?
冬エリアで採取できる素材は受け付けないのに、どうしてだ??
何等かの方法で素材を受け付ける方法があるのだろうか……
「HOHOHO!」
すると、サンタクロースは少し様相が異なる『ツリーの実』を渡してきた。
形状はほとんど『ツリーの実』だが、宝石のような装飾が飾られて、オーナメントのように煌びやかである。
アルセーヌが「あーそういうね」と納得して、今度は別の『ツリーの実』を渡す。
その『ツリーの実』は普通とは異なった色をしていた。
白だ。
大体の『ツリーの実』は様々な色合いをするが、それらは大体『季節』に基づいた色。
つまり、白は『全季』の季節……ああ、もしかして……
アルセーヌが渡しているのは『ツリーの実』でも、冬エリアではないギルドで生産された『ツリーの実』。
異なる季節と気候で育ったものだから、サンタクロースも引き取るのか。
「HOHOHO!」
サンタクロースから渡されたものに「ううーん」と気まずそうに唸るアルセーヌ。
もう一つ白の『ツリーの実』を渡して、再度取引を行う。
次も満足な内容ではなかったらしく、何度も繰り返したり、他のサンタクロースと取引を行う。
試行錯誤するアルセーヌは自棄に真剣で、僕が見た事もない姿だったので、意外性を感じた。
すると、目当てを引き当てたらしく「おっと」と言葉を漏らす。
が、ここで終わる事なく、今度は黒の『ツリーの実』で取引を始めた。
……もしかして、結構時間がかかるのか?
結局、マルチエリアの制限時間五分前まで粘って、ギリギリでマルチエリアのボスを倒すハメになった。