チケット
僕の隣で、レオナルドが衣服変えに戸惑っていたので、装備欄に誘導してあげた。
最初の浮浪者っぽい恰好に戻ると、レオナルドは一息つく。
僕も医者の恰好は悪くないが、目立つので初期装備の軽装に着替えた。
落ち着きを取り戻したレオナルドは、僕に尋ねる。
「まだ行かないよな? 俺達、春のメインクエスト全部終わってないんだぜ」
「それもそうだけど……向こうでする事もないからね。一番乗りに店や家を建てるのは、かえって目立ってしまうよ」
「ホント、お前さ……」
レオナルドは、僕に対して呆れとは異なる印象を抱いているようだ。
「躊躇なさ過ぎるんだよ。さっきの素材の時といい」
どうやら、素材に固執していたのではなかったらしい。
「それは君も知っているだろう?」と僕は彼に答えると、向こうはやれやれと黙る。
僕がメニュー画面から時刻を確認する。
ボス戦から素材集めまで、あっという間に感じられたが現実時間は残酷で、深夜をまわっていた。
「こんな時間だ、僕はログアウトするよ」
「げ、俺も明日は早いんだよ」
僕もレオナルドも、ジョブ2昇格で入手した衣服を倉庫にしまおうと一旦、店に戻った。
店内に僕たちが転移した時、僕に一通メッセージが届く。
差出人に納得して、僕はレオナルドに呼び掛けた。
「レオナルド。次は何時くらいにログインできる? オーダーメイドの予約するから」
「予約だぁ?」
「完全予約制のところで依頼したのさ。ちなみに、僕もついでに作って貰うよ」
刺繡師の経営店も販売形態は様々。
オリジナルブランドを量産するスタイル。
個人趣味オリジナル作品を一つずつ作製し、量産しないスタイル。
客に合わせたオーダーメイドに徹底するスタイル。
中でも、完全予約制は比較的多めだ。
何故ならPK専用の衣装に需要がある。他プレイヤーの出入りがない状況なら、完成された衣服や装飾品と、それを着るプレイヤーの情報は、作製を受け持った従業員だけが把握している。
仮にそこから情報が洩れ、プレイヤーが晒される事態に発展すれば、店の信用問題だ。
困惑しつつレオナルドが大凡のログイン時間を教えてくれる。
僕の都合も合わせた時間帯を、差出人の店主に返信した。
「あれ。アイツ、まだログインしてんのか」
レオナルドが窓越しに呟く。
無人販売所に誰かいるなら小雪だけか。彼女の現実は分からないが、深夜までログインする余裕があるなら、中高校生ではないだろう。
唐突に、レオナルドは外へ向かう。
関わらないと言っていたのに―――と僕にも苛立ちが込み上げるが。
無人販売所前にいる小雪に話しかけるレオナルドは、日常会話をしている様子じゃない。
メニュー画面を開いて、何か説明していた。ジョブ2の話だろう。
攻略班も到達してないジョブ2解放条件の情報は、普通ならタダ事で済まされない。
非常に目立つ話題だからこそ、人見知りの小雪に伝えたのか。
僕も店から顔を出し、様子を伺った。
すると、性格に似合わず小雪が大絶叫する。
レオナルドも驚き「どうした!?」と聞き返すと、彼女は震える声で
「チケット売っちゃった……」
そう落ち込んで蹲った。
あまりの展開に、レオナルドも「チケットって売れたの?」と変なところに反応してしまう。
僕もそれは初めて知った。
レオナルドが顔を覗かせていた僕に気づき、尋ねる。
「あー……ルイス、上限解放ってチケット以外でどうすりゃいいの?」
「普通は同種の武器を鍛冶師に合成して貰えばいいけど、初期装備はチケットじゃないと駄目だよ」
「なんで?」
「初期武器だけはNPCの経営店で販売してないし、モンスターからドロップしないからだよ。だから、おかしいと思ってたんだ」
小雪はますます落ち込んだ。
他に入手する方法は……僕は仕方なく調べようとしたが、レオナルドが言う。
「ジョブポイントんところにチケット交換あったから、そことか」
「マジっすか!?」
生き返ったように小雪が立ち上がる。
少々驚きながらも、レオナルドは頷いた。
「何ポイントで買えるかわかんねぇけど」
「あざっす! 行ってきます!!」
勢いで威勢いい返事をしてから速攻で転移する小雪は、深夜帯とは思えない元気の良さだった。
評価、ブクマありがとうございます。
明日の投稿は夜になります。よろしくお願いします。