全季
「まず、君の持つ『全季』の特徴を理解しようか」
僕とアルセーヌは専用訓練クエストに移動する。
奴が開口一番に切り出した内容は、僕も理解はしているつもりだ。
全季は、全ての季節を操れる。それらを適材適所に活かして様々な相手にも対応できる唯一の属性。
アルセーヌは笑いを溢し言う。
「いまいち実感できないだろうけど――『全季』には『全季』って属性が備わっているんだよ」
「……どういうことですか?」
「ちょっと試しに攻撃して欲しいんだけど……攻撃する時に何も季節を付与しないのと、うーん、単季四種類で攻撃してみて」
僕も以前、攻撃の練習でやったので問題はない。
ダメージ量も、最終試験を合格した為か、多少ダメージ量が増えただけで、以前と大差ないものだ。
アルセーヌがそれを把握し、僕に告げる。
「やっぱりね。さっきの遠距離攻撃で白薔薇と青薔薇で分けて攻撃してみて」
「……? わかりました」
言われた通りにすると……驚いた事に白薔薇の方が攻撃の数値が高い。
他にも、白――『季節石』で精製した攻撃は数値が高いと分かる。
僕はアルセーヌが告げた内容を理解した。
「変な話ですが、無意識に攻撃する際だと自動的に『全季』の季節が付与されていて、『全季』と『季節石』は相性がいい為、攻撃力が上昇したのですか」
「そういうこと。君や相棒とか、季節が二つ三つあるプレイヤーは意識して付与する事が多いから忘れがちになっちまう。季節の効力を発揮させる際にSGを消耗するだけで、基本的に季節自体は無意識に付与されているんだよ。武器の属性付与スキルみたいにね」
多くのプレイヤーはエフェクトなどを拘って、季節石や季節に合わせた植物を素材に選んだりしてたが、案外悪くない選択。むしろ最善の選択まである。
僕は、素材を率直に選択した訳ではなかったが、需要がありそうな『季節石』は『全季』と相性いいものだったのが幸いだった。
それに、アルセーヌは更に付け加えた。
「むしろ、君や相棒は変に季節を変化させる必要がないんだよ。『全季』はどの季節にも等倍でダメージが通るから。案外、これが厄介で優れた部分だと俺は思うぜ。だって、相手の季節を深く考えたり警戒する必要なしで思考停止で攻撃ぶっ放しても、半減されないし、ダメージが通るのが約束されているんだぜ?」
確かに……相性を考える必要がない。
僕としては、ありがたい属性な訳だ。そして対人戦では有利になりうる。
「あ、ゴメン。嘘。全季は無季だけ倍率上がる。まー、そんなに無季の奴はいないから警戒しなくていいけど」
おい。
いや、むしろ無季相手にはダメージが変化するのか。
無季自体、全体の比率を考慮すると少ない方ではあるけど……
一先ず、僕は話を進める為、アルセーヌに話を促した。
「わかりました。これからは『全季』で攻撃する事を意識します。次は何を覚えればいいですか」
「手始めに、盗賊系のトラップ解除と敵の索敵、素材採取かな? 最初の二つは言わずもがな。素材採取もチンタラ取ってる状況じゃないから、ジョブの特性を生かして手際よく採取。まぁ、変に気を引き締めなくていいよ。基礎的な動きみたいなもんだから、慣れていけばいいって奴」
そうして、気さくに説明をするアルセーヌ。
盗賊系のトラップ解除と敵の索敵……これは動画でエスプレッソが行っていたものだ。
だが、僕と彼では『賢者の石』の素材やスタイルも異なる訳で。方法も彼とは別の手段になる。
アルセーヌと共に僕の『賢者の石』での手段を模索する中、他にもこんな説明を行う。
「ただ、解除したら盗賊側に解除の知らせが届くのは注意ね。今じゃ、トラップに引っ掛かるのを狙うより、相手が来る通知代わりに使ってるからさ」
「ああ……そうなりますよね。僕の場合だと兎に乗って上空を通るのもアリですけど、上に移動するのも恰好な的になるので、どうしたものか」
「ふふふ、それね」
アルセーヌがマスコットな兎の練り切り型バッグを見物し笑い溢す。
「じゃあ、早速だけど行ってみる?」
「マルチエリアにですか?」
僕が少し目を見開いて尋ねる。
それなら準備を整えたいが――アルセーヌは不敵に笑う。
「最初は俺が一緒に付き合ってあげるから、大丈夫。えーと……ちなみにどこ行きたい? 夏と冬は気候的に最悪だけど、春と秋は気候がいいからPK多いぜ」
「……冬は妖怪が強いと聞いていますが、大丈夫でしょうか」
素材的にも冬のものがほとんどない。
やはり、手に入れたいと思ったので頼んでみるが、PKより妖怪が厄介なのは事実のようだ。
アルセーヌはアッサリするほど余裕で「昼間だからマシだな」と答えた。
「夜だと『吸血鬼』と『黒サンタ』が面倒だからな。素材目当てで挑む奴らが出てきそうだけど、君には早いね。あ、ついでに何か要らない冬以外の素材とか持ってきてくれれば『サンタ』とアイテム交換できるぜ」
アイテム交換? 成程、そういう要素があるのか。
僕は「準備をするので少しだけ待って下さい」とアルセーヌに伝え、ワンダーラビットにて準備を整えるのだった。