刺激
僕は冬エリアに足を運んだ。
ここにワンダーラビットの三号店を置く為でもあるが、もう一つ目的がある。
レオナルドに関する情報はSNSでも把握できたので、すぐに目的地へ転移する事ができた。
レオナルドの自宅。
どうやら、他のエリアにも彼の自宅はあるらしい。
ギルドを設立したのに何故、と思うものの。
プレイヤーによって、ギルドと別にマイルームを取得するのは珍しくないので、変な探りは入れられない。
だが、僕は違う。
冬エリアのレオナルドの自宅は、この間、僕が訪れたアルセーヌの自宅の隣ときた。
夏エリアはムサシの自宅の隣に建てたとか。
冬エリアらしいクリマスツリーが植えられて、何故か畑がある。
少しばかり庭の家具も置かれて、煉瓦を一通り敷き詰め、柵も洒落た鉄柵に変更している。
自宅の外観も、普通の煉瓦造り。
内装はここからでは確認できないものの。何もないんだろうなと勝手に想像していた。
僕がレオナルドの自宅を眺めていると声をかけられる。
「残念だけど、相棒は趣味のプレゼント配りに勤しんでいるぜ?」
アルセーヌだ。
自宅の庭先から僕の様子を面白おかしく観察しながら、またコーヒーを飲んでいる。
僕は――最早アルセーヌに対し、苛立ちを覚えることは無く。
むしろ、妙な境界を感じざるえない。
溜息混じりで僕が告げた。
「先程、動画の方はSNSにアップしておきました」
「取り合えず、了解。じゃ次のステップに行くとしようか」
「……動画の内容は確認しないんですか」
「ここまで来たらぶっちゃけると、実んところね。動画の内容はどうでもいいのよ。問題は君のやる気」
ああ、やっぱりそうか。
ヘラヘラと笑った表情を作っているようで、瞳は全く笑ってないアルセーヌに僕は腑に落ちた。
最初から自棄に僕を煽って、挑発している風に誘導していたが。
実際のことろ、僕は動画投稿を継続できるか……正しくは攻略動画の投稿を継続するかを観察していた訳だ。
途中、僕は無関係の動画ばかり投稿していた。
『賢者の石』の情報を集める目的はあったが、それ以外のは投稿の必要もないものばかり。
謂わば、他の人間と同じ、承認欲求を満たす為だけの投稿を。
「君の場合は、承認欲求じゃなくて刺激が欲しいのさ。じゃないと退屈だからね」
「……そうみたいですね」
「あれ? 急に素直じゃん」
「僕に気づかせる為に、わざわざティアマト戦まで迎えと指示したのでしょう」
「ん~。そういう目的はなかったんだけど」
再度、コーヒーを飲み干したアルセーヌは語る。
「サイコパスがシンパシーを感じるのは、サイコパス相手なの案外多いんだってさ」
「……」
「ま、一概にそうとは言えないけどな? でも、君が相棒と上手くやれると感じたり、カサブランカに惹かれたりしたのも同じ事よ」
「いえ、僕は別に……」
あの女は違う。
……と思ったが、違わないのだろうか。自分でも分からない。
アルセーヌは話を続けた。
「正直、俺は君たちの感覚を共感できないから、世間体での客観的な意見になるんだけど。存外、君たちは孤独で、それ故、刺激を求めるんだとさ。カサブランカが戦闘狂なのも、戦いが好きっていうか、殺し合いによるスリリングな感覚を欲している方が表現に合っている」
「……僕も彼女と同類だから、と?」
「ん~……ちょいと違うな。そういうスリリングで危険な感覚でしか、脳に刺激が入らないから、無意識に求めちまってるんだよ。殺しにしろ、些細な嘘にしろ、ドラッグとか酒とか性行為とか、普通に手を出せるのは」
成程……少し分かる気がする。
僕自身、僕を理解していなかったのかもしれない。
変な話――脳の欲求か。
「刺激の欲求は盲点でした。僕としては、手持ち無沙汰になって退屈を感じる方が腑に落ちたものだったのですが」
「それもあるよ。相棒が変な奴にあえて突っ込んでいくのも同じ同じ」
……思い返せば恐ろしいほど辻褄の合う話だ。
レオナルドも。
カサブランカも。
僕も。
意識はせずとも方向性はまるで同じだった訳か……本当に奇妙な事だ。
アルセーヌは不敵な笑みを浮かべ、僕と向かい合い告げる。
「ようやくスタート地点に立てたってところで、早速やっていこうか。対人戦」