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マカロン


我に返った時、僕はワンダーラビットの店内に戻っていた。

クエストに挑戦する前に用意したマカロンをタワーのように積み重ねて遊んでいるジャバウォックと目が合う。

もう一人、霊体で浮遊するロンロンが呑気に『おやおや、どうなさいましたか?』と尋ねて来る。


上手く思考がまとまらない。

だが、崩れたマカロンのタワーを呆然と見つけるジャバウォックに、僕は問いかける。


「まさか……知っているのか。レオナルドの事を」


無垢な眼光をするジャバウォックが、テーブルの上にマカロンを並べ始めた。

用意されたのは四種類のマカロンを複数。

桃色、緑色、橙色、そして青色。

その中央に幾つかの()を置いた。チェスの駒と似通った形だが、形状は……プレイヤーのジョブを象徴しているようだった、


僕がテーブルの上に注目したのを確認し、ジャバウォックが桃色のマカロンを一つ動かす。

桃色のマカロンは、緑色のマカロンたちの方へ移動した。

盤面をロンロンが解説始める。


『嗚呼、ジャバウォック兄さんがご説明してくれるようで。まず貴方がご存知ない情報からお伝えしますと――スパロウ兄さんは、どうやら()()夏の層におられるとの事でした』


「……まだ、夏に?」


『ええ。件の天狗(アーサー)とは行動しておられないようですが。貴方が気になさっている()が調査したので間違いないでしょう』


という事は……レオナルドは秋エリアの調査を完了したのだろう。

そこでティアマトと遭遇した……

ジャバウォックは、橙色のマカロンを一つ、緑色のマカロンの方へ移動させた。


『どうやら以津真天(秋の大王)は夏の層に逃げ込んだ同胞を追って、近頃、夏の層に侵入しているようです。とは言え、秋の法に基づいた行動だとマザーグース様は介入はしないおつもりのようです』


成程。

料理店コンテストのイベントに、前回活躍の場を貰った春の妖怪たちは登場しないと。

言われれば納得するが、今回は秋の妖怪が介入しているが……まあ、それはそれでいいのかもしれない。

まだ対人相手にできるマザーグース達と異なり、アーサー達相手に同様の期待は求められない。

一工夫必要になってしまう。


「……それで、レオナルドがティアマトと………いえ、この場合は何と言えばいいのか分からないですが。何やら妙な関係になっているのは一体」


ロンロンはわざとらしいほど気まずい態度と動作を加えながら述べる。


『一つだけお伝えしますが、もしもマザーグース様や私の家族にその件を尋ねないようお願いします。ああでも、バンダースナッチ兄さんは大丈夫かと!』


「わかりました。……それでどういう状況なんですか」


『ん~、私にもサッパリ理解できませんねぇ!』


清々しい表情で返答するロンロンに、ちょっとした苛立ちが込み上げる。

ジャバウォックは橙色のマカロンと中央に置かれていた鎌を象徴する駒と隣り合わせにした。

あの悍ましさを体験した僕を他所にロンロンが饒舌に語った。


『しかしまぁ、不思議な事に以津真天(秋の大王)当人はともかく周囲の妖怪も彼が以津真天(秋の大王)のご子息だと神輿を上げているのは、少々意外や意外ですよ。妖怪など人間とは異なり、変に一個人を持ち上げたり、囃し立てたりなどしませんから!』


確かに妖怪の事情など、知った事ではない。

少なくとも、人間社会とは模様が異なるだろう。

現実世界やネットだけではなく、妖怪共にもか……少なくとも妖怪に関しては――


「それは……レオナルドがティアマトと()()()()()()、ですか」


『ん? おや、少々視野が広がりましたか?? 私も醜悪さは確かに似通っていると感じておりましたよ。ですがまさかの息子扱い、彼の義理の父親を名乗るとは流石に想像できませんでしたが!』


そうか……そうなのか。

だが、ロンロンの口ぶりから、二人の関係をマザーグース達は快くは思っていないようだ。

当のレオナルド自身は、どうなんだ……?


すると、ジャバウォックは青色のマカロンを一つ、盗賊を象徴する駒に近づける。

オーバーなリアクションで、ロンロンが僕に伝えた。


『そうそう! 貴方のご友人に怪盗の方がいらっしゃるでしょう? 彼、実は冬の大王たる()()()()()()とご関係がおありのようで、この間、ギルドの敷地に現れて皆、驚きましたよ!!』


「アルセーヌさんが――?」


僕は何故か気の遠くなる感覚を覚える。

いいや、彼は、アルセーヌに関してはレオナルドを驚かせる為に、冬エリアを先行クリアしていた。

だから別に、冬エリアの妖怪と関りがあっても驚き、ではない筈なのに。


あの男――どこまでいっても、僕を信用しない。

それどころか、飄々とした態度で人を攪乱し続けている。


僕はいよいよ何か、表現できない疎外感を――孤独を感じ始めたのだった。

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