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最終試験


第二形態へ移行したウシュムガルの攻撃モーションや戦法自体には変化がない……のが通常。

強いてあげるなら、図体がでかくなった分、攻撃範囲が広くなったのと。

図体のでかさ故に攻撃が命中しやすくなった。

が、第二形態は第一形態とは異なり、耐久値が上昇しており、通常攻撃だろうが特殊攻撃だろうがダメージを与えにくい。

その為、ウシュムガルの攻略はなるべく早く第一形態を終わらせて、第二形態へ移行させるのが基本攻略になっている。


通常攻撃という名の、巨体を生かして広範囲攻撃を巻き込む形で薙ぎ払う攻撃が繰り出された。

僕はウシュムガルの図体に薬品を投げまくって動きを停滞させ、自力で駆け続け、『賢者の石』の精製可能となるクールタイム終了まで時間を稼ぐ。

『賢者の石』が精製可能となり、僕は再び武器のアタッシュケースをウサギミサイルに変化させ、上空へ飛び上がった。


ウシュムガルは上空の僕に向かって、酒を含んで広範囲の火炎攻撃を息吹として放つ。

僕は再度ウサギミサイルで特攻をかけようとした。

薬品の水流をウサギミサイルから噴射。軌道を切り替えながら、攻撃をさけていく。

すると――


『先程から珍妙な技を使うと観察していたが……また私を突撃させるつもりか?』


男の声がウサギミサイルから聞こえる。

説明するまでもなく、声の主は呪いとして憑りつくアーサーのものなのだが、練り切り形状のうさぎの外見が相まって、シュールな光景だ。


僕は割と真面目にウサギミサイルにしがみついているので、シュールさに笑う状況じゃない。

アーサーの問いへ、僕は決死な声色で返す。


「これが僕が引き出せる最大火力になります。勿論、これ以外の技をウシュムガルに仕掛けてダメージを与えますが――」


『先程から思ったが、奴に直接攻撃を与える手段はないのか。効率が悪過ぎる』


お前が言うな、と悪態をつきそうになる僕。

しかし、アーサーは続けて、ある事を言及するのだった。


『防御でお前自身を包み込んでいたアレで攻撃はできないのか。あの図体を包み込み、まとめて攻撃できれば大分楽だろう』


「……試してみます」


防御に使っていたあの技を――しかし、薔薇の練り切りでやるよりは……

僕はウサギミサイルで攻撃を回避し続けながら、ウシュムガルの巨体をなるべく包み込めるような円形の格子――練り切りの『手毬』をイメージした拘束攻撃を仕掛けた。


だが、あの巨体全てを包み込むのは流石に困難のようだ。

図体の一部を『手毬』で覆い、ダメージを与える範囲拘束攻撃になる。

この辺りはDEXの値が関係してきそうだ。


不味い、そろそろだ。

僕はウサギミサイルの精製時間が切れるのと、精製の際、追加ダメージの為に夏の季節を付与していた為、SGが消耗しているのを理解していた。

一旦、地上に降りて回復を挟まないと――


すると、ウサギミサイルは速度を低下させるどころか形状も出力も保ったまま、ウシュムガルの背中にあるトサカから放たれる雷撃を回避してくれた。

僕の精製能力ではない。

アーサーの能力で形状と出力を保っているようだ。


ある意味、狙い通りになった。

僕が『賢者の石』の能力を行使し続けていたのは、武器に憑りついているアーサーにも『賢者の石』の能力を理解させる意味があった。

むしろ、武器に憑りつくアーサーは、同じく武器に装着されている『賢者の石』の力も引き出せる。


それを試すように、アーサーが勝手に『賢者の石』の精製能力を活用した。

僕が繰り返していた『練り切り』を精製。

掌サイズの青薔薇や白薔薇の練り切りを弾丸の如く、連射し、ウシュムガルの巨体へ命中し続ける。

感覚は、どちらかと言えば飛行シューティングゲームのようだった。


()()()()()()はアーサーの能力が付与されているようでダメージ量はそこそこある。

よし、良い調子だ。


僕がタイミングを測ってウシュムガルの最大火力と言える、フィールド全体に八つの竜巻や水柱、火球、雷撃を発生させ蹂躙する攻撃も、アーサーの妖力と『賢者の石』のエネルギーを組み合わせ、ウサギミサイルを加速させ、回避し、適度に攻撃を行い、いざとなれば僕が防御を行う。


ウサギミサイルの通過と共にウシュムガルへ『手毬』を爆撃のように投下し、攻撃をしかけた瞬間。

強制的に、僕――とウサギミサイルになっているアーサーは地上へ降り立つ。

所謂、イベント発生による仕様だ。

つまり、ウシュムガルの攻略が完了した訳である。


巨大が図体が消失し、人間形態に戻ったウシュムガルは体がフラフラとして、今にも倒れそうだが。

かすれる声で、何とか言葉を紡ぐ。


「駄目だ……俺は……まだ、まだ、死ねない………まだ……」


意味深な発言を残しウシュムガルは、覚束ない動きで山奥に消えていった。





錬金術師の最終試験。

僕が発見した情報を基に、既に幾人の錬金術師が最終試験のクリアを達成していた。

それにより、最終試験の詳細な概要が把握された。


「ようこそ、ルイス様。この度は錬金術師の最終試験となります」


まず、プレイヤーは特殊な空間に転移される。

そこは様々な種類の食材から、植物、鉱物、その他の素材が集められた木造作りの大規模な倉庫。

更に錬成鍋に調理器具と、錬金術師が使用する器具と施設が空間の中央にある。

案内人のNPCが簡単な説明を行う。

それが以前、『賢者の石』の件で尋ねた男性から教わった通りの内容。


「これより四つのお題に沿った新薬を作製して頂きます。一つは『貴方の隣人に向けたもの』。一つは『遠方にいる友人に向けたもの』。一つは『貴方の家族に向けたもの』。一つは『貴方自身に向けたもの』となります。制限時間は一時間とさせて頂きます。それでは――」


NPCの合図と共に僕の画面に[START]のフォントが表示された。

僕は事前に頭に叩き込んだ食材の位置を思い出し、目的の物を確保していく。


以前、僕は考察をしたが、一つだけ異なっていたところがある。

『貴方自身に向けたもの』……『プレイヤー自身の強化』と考察していたが、実際はこれは通常攻撃を行う際に『賢者の石』で武器を変化させる形態だった。

それ以外は概ね、僕が想像していた通り。


まずは手際よく食材調理を行う。

四種類の練り切りを完成させた僕は、NPCに完成の報告を行う。

眼前に浮かび上がる最終確認で[完了]を選択。完成した四つの品を秋の女神の祭壇へ運ぶ。

それらを捧げる台座の下へ到着すると、NPCが告げた。


「では一つ一つ、思いを込め捧げて下さい」


重要なのは()()

そして、多くのプレイヤーが駄目だしを受けた原因がここにあった。

()()()()()とは、プレイヤーが望む攻撃のエフェクトを脳波で伝える事だった。

ここで詳細なエフェクトが反映され、正しく脳波をキャッチできれば合格だ。


最初は『貴方の隣人に向けたもの』。接近攻撃に選んだのは『ハサミ菊』の練り切り。

次に『遠方にいる友人に向けたもの』。遠距離攻撃は『薔薇』の練り切り。

その次は『貴方の家族に向けたもの』。バフ補正は『手毬』の練り切り。

最後に『貴方自身に向けたもの』……武器の形態は『うさぎ』の練り切り。


四つの台座が輝き、成功のエフェクトが表示された。

同時に茶髪のロングヘアに暖色系の着物を纏った女神――秋の女神が降臨し、四つの練り切りを観察し不思議な溜息を漏らす。


『はわあ~……成程ですねぇ~。わかりました! 貴方のイマジネーションを凝縮し「賢者の石」を完成させますぅ! えぇーい!!』


僕のジョブ武器と、それに装着された『賢者の石』が秋の女神の力に包み込まれ、新たな形を成した。

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