ジョブ2
僕らがスポーン位置のクリスタルに触れ、個人経営店内に帰還。
売上報告とは異なるメッセージが届いていた。
どうやら、僕だけではなくレオナルドにもある。内容を確認すると、種類はNPCイベントだ。
<ジョブ2昇格儀式の案内>
ルイス様。
以下の条件が満たされた為、ジョブ『医者』に昇格する資格を得ました。
・初期ジョブ武器の上限レベル到達。
・付喪神系の妖怪を50体討伐。
・作製薬品50種類以上。
昇格儀式には以下が必要となります。
準備が完了次第、マップにマークされてある場所で昇格儀式を行います。
・初期ジョブ武器(装備必須)
・サクラ×50
・ウメ×50
まさか、とは思わない。
初ログイン時にプレゼントされた物の中にあった武器の上限解放チケット。
初期武器のレア度に合った『レア武器上限解放チケット』が丁度三枚あったことに違和感があったからだ。
レオナルドの達成条件は、僕と少し異なり『怨霊系の妖怪討伐』『ソウルターゲットの浮遊時間』の二つ。儀式に必要な素材は僕と同じ。花畑エリアで入手できる素材なので問題ない。
予想外な展開に、レオナルドは興奮しながら聞く。
「行ってみるか?」
「ちょっと待って……中途半端な場所にあるね。ここから直接行った方が早そうだ」
倉庫から備蓄していた素材を取り出し、目的地に向かう。
町から離れ、花畑と小川を超え、梅と桜の木々が植わる長閑な一帯の最奥に、春の女神を祀る神殿がある。
マークされていたのは、神殿内部。
神殿自体は、攻略サイトの攻略班がイベント発生しそうな仕掛けの痕跡がないか、徹底して調査した。
だが、プレイヤーがそういう調査をする程度、運営も想定している訳で。
イベント発生しそうなフラグを、思わせぶりに設置しない手法も近頃取り入れられている。
内部の中央付近まで移動するよう指示され、僕たちがそれに従う。
すると、イベント演出が開始した。
桜色の光が神殿内を満たす。薄っすらと僕らの前に、桜を連想させるような色合いの女神が現れる。
女神自体は半透明のまま。
概念思念の類だろう。僕らの反応に関係なく話はじめた。
『初々しい冒険者の方々……私は春の女神。あなた方は自身の能力の基礎を習得しました。新たな段階へ進む為に、力を解放させましょう』
僕らは光に包まれ、容姿と武器に変化が起きる。
ジョブ名通りに医者らしい白衣の恰好。だけど半袖、いや、ベルトで袖の長さが調整されている。
初期武器の竹籠も、革製の医療鞄に変化。
レオナルドは『魂食い』に昇格した。
彼の武器も、青白い炎が閉じ込められた檻が柄込みに飾られた雰囲気ある鎌に変貌している。
下半身の黒ズボンとブーツは通気性は良さそうで、白の腰布も軽い素材らしく風に靡く。
対して、上半身は袖なしの黒インナー……
僕が観察していた途端、レオナルドの謎絶叫が響き渡った。
「謎インナーはやめろっつっただろーがっ!!!!」
レオナルドの背後を伺うと、見事に背中がガラ開き……前掛け状態のインナーだった。
奇妙な謎インナーは、よく漫画やアニメキャラは平然と着用している気がするけど。
僕は興味本位でレオナルドの背後に触れると、レオナルドが悲鳴を上げる。
「触んじゃねぇえええぇっ!!?!?」
「ああ。もしかして、くすぐったい?」
「だから触るな!」
「触ってないよ」
レオナルドの面白い反応を楽しんでいると、春の女神が彼女なりに自信満々で言う。
『第二層は非常に暑いです。ジョブの正装も涼しいものにしました』
「こ、これ正装ゥ?」
半信半疑でレオナルドが聞き返す。
『第二層は本当に暑いのでお気を付けてくださいね。冒険者の方々』
二度も繰り返した。
女神が姿を消すと、彼女が居た場所に緑のクリスタルが出現し宙に浮いている。
僕らの前に詳細情報が記載された画面が表示された。
[ジョブ2が解放された事で第二層『夏エリア』が解放されました。
クリスタルに触れるか、自宅もしくは個人経営店からの転移移動で『夏エリア』に向かいましょう!]
評価、ブクマありがとうございます。
明日は普通に投稿予定です。