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ムサシ

 

 鉱山エリアは静まり返った。

 僕は『ムサシ』と呼ばれた武士の動向を伺っていると、レオナルドが動く。

 無論、僕は彼を引き留めようとしたがレオナルドは「俺が駄目だったら逃げろ」と言う。


「君はどうするつもりなんだ」


「普通に話しかけるだけ。多分、大丈夫」


「顔を覚えられたら危険だ」


「どういう警戒してんだよ……ルイスはそこで隠れてていい」


 僕らの声が聞こえたのだろう。ムサシが接近する音色が近づくのに、レオナルドは僕を無視して向かった。

 レオナルドは野生の猛獣に、興味本位で近づく命知らずのようだった。

 これまで沈黙を保っていたムサシは、恐る恐る歩み寄るレオナルドに問う。


「お前は顔を隠していないのか」


「俺と悪趣味なコスプレ集団を一緒にすんなよ。俺は素材取りに来ただけだ」


 ムサシは妙に目を細める。

 見えないものを必死に捉えようとしているかのよう。

 レオナルドは、後方に僕が身を潜めている事を考慮し、話題を広げようとしていた。


「アイツら、どっか行ったの」


「私が殺した」


「そっか。お前みてーな強い奴、いるもんだな」


 レオナルドの無意味な会話に飽き飽きしたのか、ムサシが踵返そうとするのに。

 慌ててレオナルドが呼び止める。


「お前に助けられたから、なんか礼するけど」


「いらない」


「じゃあ、フレンド登録しねぇか? なんかあったら俺に連絡くれよ」


 レオナルドがメニュー画面を開いて、操作しているのをムサシは横目で観察している。

 彼は、仕方なくレオナルドのフレンド申請を受けたようだ。

 ムサシは特別変わった事もせず、レオナルドに下手な関わり合いもせず、無言で立ち去る。

 その間、一切レオナルドの顔を見ようとはしなかった。


 一安心してレオナルドは、隠れている僕のところへ戻った。

 流石に僕も不満をぶちまけずにいられなかった。


「どうして君は余計な真似をするんだ。フレンド登録なんて……彼は界隈の有名人だと、PK集団も言っていたじゃないか」


「あー……動画投稿してるらしいな」


 は?

 何も喋っていない。寡黙を貫く威厳を体現したかのような出で立ちの男が。

 リアクション芸を求められる実況動画を投稿しているのか?

 疑問を抱く僕に、レオナルドがムサシのプロフィールを表示してくれた。



<プロフィール>

 実況動画を投稿しています。

 他プレイヤーと関わったら編集処理します。

 人の顔が覚えられません。



 PKKした場面を動画投稿する訳がない。レオナルドが変に晒される心配はないだろう。

 運良く、素材を持ち帰る事ができたものの。

 僕はレオナルドに問いただす。


「離脱するのが嫌だったのかい」


 レオナルドは、神妙な面持ちで僕と顔合わせる。


「ムサシの奴、アイテム目当てじゃなかった。俺と同じスキル持ってたんだよ」


「君と?」


「ホラ、アイテム拾えなくなるって奴。アイツらが倒された時、落としたアイテムがそのまんまだった」


 スキル[天、二物を与えず]だ。

 ドロップアイテムが拾えなくなる代わりに経験値獲得量が3倍に跳ね上がるスキル。

 更に、レオナルドは話を続ける。


「でもよ。経験値目当てでもない。だってアイツ、()()()()()()()()()()()()()じゃねえか」


 僕は息を飲む。


「だから~~……なんだ。強い奴と戦いたい? そーいう奴、居るのか知らねぇけど」


 そうか……そうなのか。

 僕はレオナルドの弁解を制した。


「ごめんよ。状況を冷静に見極められなかった僕が悪かった」


 僕は自身の保身ばかり気にかけていたが、レオナルドはあの状況でムサシの動向を観察し続けていたのか。

 

「君がいてくれて助かったよ。ありがとう」


 素直に僕は礼を告げた。……この時ばかりは。

皆さま。評価、ブクマありがとうございます。

個人の事情で忙しい時期に入ったので、ひょっとしたら投稿遅くなるかもしれません。

その場合は報告します。

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