表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/315

PKとPKK

 

 鉱山エリア。

 周囲の岩肌から、周辺の地中から、聳え立つ鉱山内へ続く洞窟から、様々な場所で素材は得られる。

 中でも、金や銀といった高価な素材は、鉱山内でしか採掘不可。

 上位を狙っているギルドは、鉱山内で留まって、素材掘り周回を続けている。

 高価な素材をため込んだ薬剤師が、重くなった身を引きずってスポーン位置へ必死に向かう。

 まるで時代遅れの肉体労働の光景だ。


 僕たちが向かうのは、蒼の洞窟と呼ばれる地底湖の採掘場所。

 瑠璃石はレア以下のコモン素材。

 僕の薬でSTRとVITを強化し、疲れ知らずにピッケルを振り続ける事で、二人合わせて目標の150個は集まった。


 ここまでは問題なかった。

 僕たちが蒼の洞窟からスポーン位置へ向かおうとしていた矢先の事。

 外が騒がしく、悲鳴が響き渡る。


 僕らは物陰から様子を伺う。

 表で暴れているのは、覆面や仮面など顔を、ローブやフードを纏って体型を隠す集団。

 不気味な彼らの武器だけは見覚えがある。どれもSSレア武器ばかりだ。

 集団一行は、ギルドやパーティを圧倒的な力で倒していく。


 時期的に早すぎるが、恐れていた事は始まったようだ。PK(プレイヤーキル)だ。

 レオナルドは小声で呟く。


「コスプレみてーな恰好しやがって」


「違うよ。あれは()()()。レオナルド。君も気づいているだろうけど、このゲームはどのプレイヤー情報も非公開設定されているだろう?」


 PKが可能なVRMMOではPKした・PKされたプレイヤーが晒される事で衰退する傾向が強い。

 なので、PKが可能なVRMMOでは、パーティ・フレンド・ギルド以外で安易に情報を公開されないよう、()()()()()()()()()()()


「マギア・シーズン・オンラインは衣服類が破壊されない仕様になっていてね。ああいう仮面も破損や剥がされる心配がない。PK中は変装し、エリアでは変装を解いて一般プレイヤーに戻るのさ」


「PKする野郎が平然とねえ。人によっちゃ、冗談じゃねえって奴だな」


 しかし、これは……

 PK集団はPKで得られる膨大な経験値と、倒したプレイヤーが所持品を落とす仕様を利用して、SSレア素材を横取りするのが目的だろう。

 鉱山付近を中心にプレイヤーを狙っているが、僕たちのいる蒼の洞窟に来ないとは限らない。

 僕は苦渋の決断をレオナルドに伝えた。


「レオナルド。離脱しよう」


「離脱って、あいつら突破してクリスタルん所、どうやって行く――」


「メニュー画面を開いて。クエストの欄を開けば[クエスト離脱]の項目があるから、そこを押して」


「なんだ、一々戻らなくてもいいのかよ……おい、ルイス。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って」


()()()()()()()()()


 流石に苦労して手に入れた素材を捨てるのは、レオナルドも躊躇するのか。

 僕を見つめ、眉間にしわ寄せる。


「……マジで言ってんのか」


「彼らとはレベル差も武器の性能差も、技量の差もある。勝ち目はないよ。諦めよう」


 彼らを上手く撒くのはアウト。失敗してもアウト。顔を見られた時点でアウトだ。

 勝利・出し抜いたりすると、当然彼らの恨みを買う。

 下手に敗北・失敗すると、相手は弱い・カモだと執拗に狙われる。


 あらゆる面を考慮した結果、離脱するしかないと僕は結論を導いた。

 簡潔に僕はレオナルドに離脱を提案したつもりだが。

 彼は珍しく沈黙して、返事が遅い。


「………………………………………わかった」


 レオナルドの言葉は重い。

 物は大して重要じゃないと過言していた彼が、何故か納得いかない態度でいる。

 僕らがメニュー画面から離脱を選択しようとする。


「おいおい、初期装備で俺らに勝とうってか?」


 ハッと僕が顔を上げ、周囲を見回す。だが、声は僕らに向けられたものではなかった。

 スポーン位置から現れた他プレイヤーに対し、PK集団の一人が放ったようだ。


 女のような黒長髪なびかせる仏頂面の男性武士だった。

 指摘されていた初期武器の『カタナ』を無言で引き抜いている。

 彼は何も喋らなかった。喋らないまま、表情を微動だに動かさず近くにいた仮面男を斬る。


 僕も斬ったと理解できたのは、仮面男が瞬く間に消失していく光景が広がった時だ。

 仏頂面の彼の攻撃動作は、それほど俊敏で、周囲の誰かが理解する前に他を斬りにかかっていた。

 PK集団は混乱していた。

 チート使っているのかと叫ぶ声も聞こえる。


 SSレア武器が真っ二つに斬られ、盾兵も背後に回り込まれ斬られ、弓矢や銃弾も斬り落とす。

 空中に避難している魔法使いもカタナの()の投擲で、地面に叩き落された。

 というより、仏頂面の彼はカタナと鞘で実質()()()の戦い方をしている。

 

 レオナルドが僕の隣で、武士の無双に驚いている。

 どの攻略サイトも武士の性能だけは、現在調査中なほどピーキー。

 分かっているのは――()()()()()()()()()()驚異的な威力を発揮する。


「『()()()』だ! そいつ、ムサシだぞ!! 勝ち目なんかねぇ! とっととずらかれ!!」


 PK集団の誰かの叫びに、皆がざわつく。

 有名なVRMMOプレイヤーなのだろうか、暴力的な強さに納得した様子の彼らは、嘘みたいに撤退を始めた。誰も歯向かう者はいなかった。逆に恐怖し、逃走に必死だ。


 蜘蛛の子を散らすように去った彼らは、スポーン位置からエリアに帰還していく。

 ムサシは彼らを追わず、その場に留まって長い溜息を漏らしていた。

評価、ブクマありがとうございます。誤字報告もありがとうございました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ