身だしなみ
武器には耐久力がある。耐久力が0になると武器は破損、消滅する。
故に、鍛冶師に依頼し耐久力を回復、スキルを付与、鍛える――武器レベルを上げるなど強くしていかなければならない。
「いらっしゃいませ~」
僕たちに馴染みの鍛冶師はいない。
適当に空いている店を選んで、耐久力の回復と武器レベルを上げて貰う。
「お二人ともまだ初期武器なんですか? しかも上限あげてるんですね……」
店員が驚く。
上限とは武器レベルの上限度。
同じ武器を素材に使うか、レア度に合った上限解放チケットで最大3回まで解放できる。
僕もレオナルドも初期武器に、初ログイン時にプレゼントされたレア武器上限解放チケットを使っていた。
「はい。初期武器にあるスキルを見て、強くするのもアリかと思いまして」
「ええと……『プライム』? ああ、これって最低保証みたいなものでしたっけ」
[プライム]
プレイヤーにとって特別な唯一無二の代物。
耐久力減少による破壊不可、盗賊による盗難を無効化。
耐久力0となった場合、クエスト中は一時的に装備から外れ、クエスト終了後に耐久力1の状態で復活する。
武器が無ければクエストや他エリアに行けない。
お金がない、武器もない、完全に詰んだ! なんて状態にしない為の最低保証。
最悪の場合を想定して、鍛えておくのは損ではない。
珍しがられながらも、僕たちはボス討伐報酬のマニーで武器の最大レベル60まで鍛えて貰う。
「お、ルイス。売れたってよ」
レオナルドの言葉に僕は耳を疑ったが、僕自身のメッセージボックスに[『魔力水(大)』×5が売れました!][『魔力水(中)』×10が売れました!][『魔力水(小)』×50が売れました!]と報告があった。
一体誰が、なんて心当たりは一人だけ。
小雪だろう。
相当量の『魔力水』を購入しているが、理由は分からなくもない。
実は銃使いは通常攻撃でも魔力消費する。
勿論理由があって、このゲーム世界――異世界設定だと銃は、火薬を用いた発火圧力ではなく、小規模な魔力による魔力圧力で銃弾を発射させている。
魔力消費量は少ないようだが、銃弾をリロードするように、MP回復もこまめに行う。
そういうジョブらしい。
……さて、ついでに買うものがある。
鍛冶師の店から移動し、辿り着いたNPCの雑貨屋。ここで『ピッケル』を購入する。
鉱山エリアで採掘するには、鍛冶師のハンマー以外では『ピッケル』を使用しなければならない。
レオナルドは困惑している。
「え、俺達なにしに行くの」
「染料の素材を集めに『鉱山エリア』へ行くんだ。これが終わったら、次は繊維素材集めの『草原エリア』だよ」
「話についていけねぇんだけど、何で? 服でも作んの??」
僕はレオナルドに向かい合って「そうだよ」と伝えた。
「だって、君。服が欲しいんだろう? NPCの衣服店にある奴が気にいらないなら、オーダーメイドで作って貰おう」
レオナルドは大分遅れて理解し「おお」と納得した反応をしてくれる。
僕は、変に街をウロついてトラブルを起こして欲しくないから、些細な懸念材料も排除したいだけ。
それに、レオナルドが変な店で、似合っていない服を作られては堪らないからだ。
墓守のイメージとレオナルドの金髪、彼の雰囲気に合うのは青。
それも濃い青。藍色。明るめの青でも悪くない。
僕は改めて説明する。
「青の染料素材は『瑠璃石』。大体150個集めれば足りるかな? レオナルドはアイテムが拾えなくなるスキルを外しておいて」
「ひゃ……んな必要なのかよ!?」
「念の為だよ。コートとかを作るなら100前後は必要らしいよ。あんな感じのね」
僕が刺繡師の個人経営店にあるショーウィンドウを指す。そこには白のファーがついた黒のフードコートが展示されている。
レオナルドは興味深く観察していた。僕は尋ねる。
「どうする?」
「青……青のコートって派手じゃね」
やっぱりコートが欲しいのか。僕は彼の本音を聞き出せた。
彼の不安を弱める為、僕が付け加えた。
「瑠璃を元にするから藍色の方が近いかな」
「濃い青か……」
「黒がいい?」
「正直、そういう色のセンスはわかんね。でも腹出しと背中出しはヤバイくらい分かる」
「青は無難な色で、男性らしいからね。間違いないよ。あとは担当する刺繡師の人と相談しながらでいいさ」
唸ってからレオナルドは「そうだな」と同意してくれた。
評価、ブクマありがとうございます。
次回は少々長めの内容になります。