リジー・ボーデン
二面ボス戦。割と長くなっています。
メインクエスト二面ボスエリア。
僕たちが移動した場所に、大きな館が鎮座している。
前回ボス同様、妖精『しき』が登場し、僕たちに助言してきた。
「ここに住む妖怪はとーっても厄介な能力を持ってるヨン! 協力し合って倒すヨン!!」
ちなみに参加人数が一人でも『しき』は同じセリフを言うらしい。ゲームだから仕方ない。
『しき』が消えた後、僕たちは最終確認をする。
館に入るまでボス戦は開始されないからだ。
特定レベルで獲得できる薬剤師の技能――『薬品一式』。
使用する薬品を最大10個分をまとめたセット。これを選択すると、一々アイテム欄から選択せずに最大10個分を一度に使用できる。
勿論セット自体も複数設定可能。
何故10個か?
強化効果は最大10枠までと決まっているからだ。
他ジョブの――魔法使いの強化魔法なども含めて10枠分しかプレイヤーは強化を得られない。
それと他ジョブの強化は重ね掛けで強化を上書きできるが、薬品系は効果時間が終了するまで上書きも不可能だ。
僕は、レオナルドに使用するセット1に目を通す。
<セット1>
破壊薬(中)
破壊薬(大)
加速剤(小)
加速剤(中)
加速剤(大)
スタミナドリンク(小)
スタミナドリンク(中)
スタミナドリンク(大)
延長剤
膨張薬
『破壊薬』はATK、『加速剤』はAGI、『スタミナドリンク』はVIT強化。
『延長剤』は薬品系の強化持続時間延長。『膨張薬』は薬品系の強化を二倍にする。
僕は再度攻略サイトの館の構造を脳裏に蘇らせ、レオナルドに問いかけた。
「順番覚えているかい?」
「男の方を吹っ飛ばして、突き当り真っ直ぐ、左いって、一番手前の食堂に投げ飛ばして、奥の方にある左側の扉」
「うん、大丈夫だね。女性は攻撃して来ないから無視していいよ」
「はいはい」
事前準備はバッチリ。
さて本番だ。僕らは館の扉を開け、吹き抜け式のエントランスホールを目にする。
内部に入ると、敵が登場するまで僕らは動けなくなる。ゲームの演出上の仕様だ。
ダンダンと喧しい叩き音が響き、近づいてくる。
二階フロアの扉が乱雑に開かれ、顔面包帯巻きで片目だけが覗かせてる男女の二人組が現れた。双方共に物騒な鉈を手に、床を叩き鳴らす。
これが二面ボス『リジー・ボーデン』。
男性の方――ボーデンが二階より、僕らの方へ飛び降り。
女性の方――リジーは微動だにしない。
僕はボーデンが床に着地した瞬間、彼に対し『麻痺粉末』をバラ撒く。
敵を一定時間麻痺状態にする妨害系の薬品だ。
ボーデンが呻く声と共に、僕はセット1をレオナルドに使用。レオナルドは僕の指示通りにボーデンを吹き飛ばし、攻撃をし続ける事だろう。
そう。攻撃し続けなければならないのが、今回のボスの攻略方法だ。
僕は急いで二階に駆けあがる。
二階に留まっていたリジーは凄まじい速度で逃走した。
彼女は逃げ回るタイプの敵で、基本的にこちら側へ攻撃を仕掛けて来ない。
僕はレオナルドが戻ってくるまで次の準備を整える。
彼に指示したルートは、館を半周し、再びエントランスホールに到着するものだ。
ボーデンはエントランスホールに着くと、自動的に中央へ移動し、広範囲攻撃をしかけてくる。
扉が破壊される騒音と共に、レオナルドとボーデンがエントランスホールに飛び込む。
乱雑にレオナルドを振り払ったボーデンが、並外れた跳躍で中央に移動。
着地する衝撃波で一旦、レオナルドを吹き飛ばす。
膠着するボーデンに対し、僕は二階より『麻痺粉末』をまき散らし、彼を再び麻痺状態にした。
体勢を持ち直したレオナルドが『ソウルターゲット』で急接近。ボーデンに攻撃をし続ける。
ボーデンの体力ゲージがようやく削れ始めたので、僕は一安心した。
リジーは40回、ボーデンは41回攻撃しなければダメージを与えられない。
その間、二人は無敵状態だ。
加えて―――癖のように鉈を叩き鳴らしているが、これは鉈で叩いた部分へ自身が受けたダメージを移している能力を誤魔化す為のもの。
能力のヒントとして、館内のそこら中に不自然な切り傷や銃痕がある。
すると、ボーデンが泣き始めた。
積極的に暴力を振るおうとしていた不気味な男が、外見に似つかわず号泣、呻き始めると。
腹立ったような足音を鳴らし、逃げ回っていたリジーが扉を激しく開けてくる。
レオナルドが僕の指示通りに中央付近から離れた。
リジーが怒声で吠えた。
「何やってんだよテメェ!」
「うええええええ……お姉ちゃん、痛いよぉぉおおぉ、もう無理だよおぉぉおぉ~~!」
「殴る事しか脳ミソねぇのに、なぁにも役立たねぇじゃあねえか! ドグズ! ノロマ!!」
「ごめんなさぁあぁぁい!!」
姉弟漫才が繰り広げられている間に僕は自身にセット2を使用した。
<セット2>
挑発香水
耐久薬(小)
耐久薬(中)
耐久薬(大)
延長剤
膨張薬
僕が準備する傍らで、ボーデンが粒子状になってリジーが所持する鉈へ戻っていくと、大鉈に変貌。
リジーも体型が変化し大鉈を振るえるくらい巨大化。
これにより館がエントランスホールを中心に崩壊する。
レオナルドは、挑発状態の僕から『ソウルターゲット』で離れ、リジーの周囲に魂の軌道を描く。
「壊してくれてありがとな! 館ん中だから鎌が振りずらかったんだよ!!」
リジーが巨大化すると『麻痺粉末』のような状態異常は効かない。
だが、俊敏さが低下。鉈を振るう挙動も遅い。
レオナルドは上手く回避、挑発状態の僕に鉈が振るわれる。籠で攻撃を受け止めるが、やはり痛い。
普通に数発受ければ、体力のある僕でも倒れるだろう。回復薬をこまめに使用し続ける。
巨大化した分、レオナルドの攻撃ヒット数はかなりのもの。目が回るらしく、回転切りを連発できないがガリガリと体力は削れていく。
ボス戦開始から2分弱でリジー・ボーデンの討伐は完了した。