隣人
あれから数日後、僕らは二面ボスに向けた準備をしていた。
レベル上げ、レオナルドの『ソウルターゲット』の練習、使用する薬品の作製……
そして、二面ボス攻略当日。
先にログインした僕はルーティンの一種として、調合をしていた。
薬品を作製し続けると、何度も作った薬品の作製成功率が上昇する。
まず、基本的な薬品類の作製成功率を100%になるよう繰り返し。
すると『回復薬(中)』といった効果量を増加させた派生の作製成功率が高まる。
更に、特定INT数値で獲得できる[調合方法:合成]の成功率が上昇する。
[調合方法:合成]
複数の薬品を合成し、効果量を一括りにまとめた特製品を作製する。
つまり『破壊薬(小)』『破壊薬(中)』『破壊薬(大)』。
この三つを全てまとめた『特製:破壊薬』を作製できる。
更に加えて、特製品の効果は強化枠一つに納められてしまう。
強化枠の使用を抑える為に『合成薬品』は必須と言える。
だが、前述説明した通り[合成]は難しい。
作り慣れている『回復薬』と『魔力水』の合成を工房で行っても成功率が50%……
僕自身のDEXが低いのも原因の一つだ。
今はINTに極振りしてしまった分を取り戻している最中で、DEXとAGIを重点的に伸ばしている。
こうなっては、成功回数を重ねていくだけだ。
「おーい、ルイス~」
ログインしたレオナルドが店内に直接転移せず、外から店の扉を開く。
僕と従業員設定しているレオナルド以外は、店を開けられない仕様にしてある。
だからだろう。彼が連れてきた相手は扉の向こう側に留まっている。
レオナルドが来るように合図するものだから、仕方なく顔を出す。
半袖長ズボン、口元をバンダナで覆っているボーイッシュな短髪の女性。
腰につけている装備で、銃使いのジョブだと分かる。
服装は刺繡師がデザインしたオリジナルだろう。バンダナはNPCの衣服店に置かれていない。
僕が前にいるのに、彼女は一向に喋りかけてこない。
レオナルドは僕の反応を伺って、申し訳なさそうに言った。
「あ~……覚えてないか? 俺達が最初パーティ組んだ時にいた」
「………………………………………ああ」
服装が初期装備と大分異なったので、僕も気づくのが遅くなってしまった。
人見知りの銃使いだ。
彼女は、ようやくか細い声を出す。
「こ、小雪、です……その……隣……じゃないですけど……家、建てて………」
この一帯は誰も来ない。
誰も来ないと踏んで、彼女も家を建てたのか。
『小雪』は、必死に伝えようとしている。
「そ、倉庫に使って……あ、あんまり、いなくて……い、家に」
「大丈夫ですよ。僕も工房が欲しくて建てたようなものですから」
「そっ、そお、なんです……ね」
ここまで彼女は言葉が止まってしまった。
多分、会話の切り上げ方が分からず困っている。よくある事だ。
僕の方から話を切り上げた。
「すみません。僕たちクエストに向かうので、これで」
「あっ、じゃあ……」
小雪は深々と頭下げてから、そそくさと僕の店から離れた位置にある自宅へ駆けて行った。
レオナルドは、彼女を見送ってから店内に入る。
首を傾げながらレオナルドが聞いた。
「もう行くのか?」
「行かないよ。その前に……君、どうして彼女と一緒に?」
「えーとなあ、俺さ。服買おうと思って、店行ったんだよ」
服……服か。
僕もまだ武器は初期装備の竹籠。服装もそのままだ。レオナルドも浮浪者っぽい墓守衣装のまま。
レオナルドは顔をしかめた。
「NPCが売ってる――装備? なんで男用が腹出し!? 普通のインナーかと思ったら、背中開いてんだよ!!」
「へぇ」
「へぇ、じゃねえよ! デザイン考えた奴、頭イカレてんだろ!!」
「近頃、女性の肌露出が問題視されているからね。男性は何も言われないから、女性で露出できない分、男性服で露出させているらしいよ」
「だから何で背中開ける!?」
「それで? 彼女と鉢合わせたのかい」
「あ? ……ああ、うん。役所んところでウロウロしててよ。家建てる場所困ってる言うから、ここ紹介したんだよ。関わって来ないだろーし、いいだろ」
「……まあね。積極的に関わってくる人よりは」
小雪という彼女個人は問題ない。
僕が心配しているのは、レオナルドが余計に関わろうとしないかだ。
人見知りは心を許した相手、家族相手にはベラベラと饒舌に喋るのが常。
初対面の相手には大人しい。
だが、相手を理解し、交流し続けると調子乗り出す傾向が強い。……レオナルドが下手に触れなければいいのだけど。
レオナルドも僕を考慮し、人見知りの小雪を連れてきたんだろう。
そして、彼自身が満たされる為に、彼女を満足させた。
「変に関わっちゃ駄目だよ」
僕がレオナルドに警告すると、彼は面倒くさそうな態度で答えた。
「向こうは関わってこねーだろ」
ブクマ、評価ありがとうございます。
次回のボス戦の内容は長めになる予定です。