共存
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まだタイトル部分に踏み込めていないのですが、もう少しお待ちください。
「目的?」
僕が聞き返すと、レオナルドは悩ましい表情で「違うな」と呟く。
「疑ってる訳じゃねえ。でもさ。ルイスは何でそんな俺に気をかけるんだ」
「うん? 普通の事じゃないか」
「最悪、俺を見捨てるだろ。俺に貢いだ分なんざ無駄になるぞ」
彼は人脈が悪いらしいが、最初から見捨てられる前提の関係を築く相手の方こそ見捨てればいいのに。
以前、僕のような人間は初めてだと告白されたのを思い出す。
レオナルドは僕相手に対し、会話の盛り上げ方や、対応すら手探り状態なんだろう。
見捨てる。
……確かに、場合によってはレオナルドを見捨てることもあるだろう。
僕は素直に答えた。
「僕はね。ステータスとしてゲームをやっているんだ。イベントが辛かった。こういうところが不便で運営に直して欲しい――とか、周りの話題を理解し共感する為に」
「………」
「協力してくれる君には感謝している。見返りを与えるのは当然の事だよ」
レオナルドがうんともすんとも喋らない。
僕は顎に手を当て、別の切り口から話題を広げた。
「レオナルド。ひょっとして君は、僕たちの関係が片利共生と思っている?」
「……ヘンリ?」
「そうだね――マンタは知っているかい。海にいる巨大なエイだよ。よく体にコバンザメなどの小魚をくっつけているだろう。あの関係さ」
「……」
「小魚たちはマンタの体についた寄生虫や食べ残し、糞を食べて栄養を得ているんだ」
「…………」
「マンタは小魚たちが自分の邪魔をしないと理解している。小魚たちもマンタはプランクトンを食べるから自分たちは食べられないと理解している。でも、利益を得ているのは小魚たちだけ。共存ではないけど、寄生とも言い難い関係だよ」
呆然としているレオナルドに、僕が付け加えた。
「レオナルドはマンタ。僕が小魚だ。分かりにくかったかい?」
「想像しやすくて逆に引いてんだよ! 気づけよ!!」
唐突にレオナルドが叫んだ。
「マジ、お前―――ゲームの中だと気持ち悪りぃ表現連呼しまくるタイプかよ!?」
「僕は想像と理解をしやすく適切な喩えをあげたつもりさ」
「他の奴も同じ対応すんのか……」
「いや」
レオナルドに指摘されて、改めて僕は気づく。
ゲームのアバター越しであっても、初対面相手に饒舌なのは僕の経験上少ない……初めてだ。
短期間でレオナルドに対する親しみが大きくなった訳がない。
彼に変わった部分はあれど、特別性は皆無だ。
「僕は君だけに対して全てをさらけ出している……とても不思議でならないよ」
「ああ、そうかよ。公衆の面前で全裸になるんじゃねーぞ」
「分かったよ。僕が素肌を出すのは、君の前だけにしよう」
レオナルドが言葉を失っている内に、僕は話を戻した。
「このゲームを進めるにあたって、負担をかけず、効率性を考慮し、厄介なトラブルを回避するには、最低限の交流でやりくりする。それには最適な相方を探す事さ」
「墓守は、俺以外でもいんだろ」
「確かに……いや、居ないよ。ここまで僕自身が思考開示したのすら、君が初めてなんだ。それはきっと、君は僕の考えを理解してくれると本能で分かっているから」
「……」
「僕たちの関係は共存だよ。僕にとっても、君にとっても利益になる」
僕の話を聞き終え困惑していたレオナルドだったが、しばらくすると彼の様子も落ち着いた。
妙に冷静さを取り戻す。
そして、彼は口を開いた。
「……まあ、俺も人の事とやかく言えねぇか」
意味深な言葉の後に「わかったよ」と答えてくれる。
「楽にゲームを攻略できるってなら、二人の方がマシだな。付き合ってやるよ。ただ~……あの気持ち悪い表現は勘弁してくれ」