現実と虚構
あれからレオナルドと共にメインクエストを受注し、実際の戦闘を行った。
大鎌では『子泣き爺』のような固さのある敵を斬るのは適さない。必要ないアイテムを詰め込んだ僕――薬剤師の武器・バスケットの打撃は効く。
情報によると、『子泣き爺』以外に『塗壁』が出現するようで、これらの対処は薬で強化した僕自身が対処する事に決めた。
隅々まで探索しクエストをクリアしていくと時間の経過は早い。
明日の事も考え、メインクエストの二面ボス挑戦前に、僕たちはログアウトした。レオナルドは僕と一緒に二面ボス挑戦を約束してくれた。
◆
翌日。
クラスではジョブをどうしたか、ギルドに入ったか、個人経営店を持ったか。ゲームの話題で盛り上がっている。
僕はホームルームが始まる前に端末で放置製造を行った。
『魔力水(中)』『破壊薬(小)』『破壊薬(中)』『破壊薬(大)』……
ATKを上昇させる『破壊薬』の効果量の違う種類を作製しているのか?
『破壊薬』以外の薬も含めてだが(小)(中)(大)。これらの効果は重複せず、個別に共存する事が可能なのだ。
強化能力が重複するか、共存できるかを検証するのは、ゲームではよくある話。
僕もレオナルドで検証し、脅威の数値でモンスターを葬ったのを実感している。
僕が端末を鞄にしまったところで、いつも僕に話しかける調子の良い男子が現れた。
「おーい! レンレン、レンレン~! マギシズ始めた? ジョブなにした~??」
レン……僕の本名『都賀 蓮』の渾名で呼ぶ彼は、饒舌に自分語りを始めた。
僕はいつも通り、適当に聞き流しながら答える。
「剣士を選んだけど、なんか合わなくてね。他のジョブを試すつもりだから、まだジョブは決まってないようなものかな」
「うわ~。レンレンは剣士じゃないでしょ。薬剤師とか?」
茶化しているか定かではないが、僕は声のトーンを変えずに平静を装った。
「面白そうだけど……やっぱり気持ちよく攻撃できないと。爽快感が足りないじゃないか」
「だよね~」
◆
その日の夜。
先にログインしたのは僕だった。
レオナルドはログアウト状態で、最終ログイン時間も昨日僕と別れた時刻のまま。
僕は無人販売所を確認したが、購入者はなし。
放置製造で作り置きした汎用性が高い『回復薬』と『魔力水』をNPCの販売店より安く設定し、強化系、妨害系を複数並べておいた。
しかし、店のメッセージボックスに複数入っていた。
内容を確認すると――どれも攻略サイト班のギルドからのもの。
彼らは春エリアのマッピングを行い、個人経営店に対し攻略サイトで宣伝がてら情報を載せたいかを訪ねているようだ。
僕はどれも丁重に断った。
レオナルドが来るまで工房を設置し、余った素材で薬のストックを作り、暇つぶしに家具の配置などの内装をいじった。
僕がログインしてから一時間後、彼からメッセージが届く。僕が店にいる旨を伝えると、彼はフレンド機能で自宅に姿を現した。
レオナルドは変貌を遂げた内装に驚いている。
僕は普通に「待ってたよ」と挨拶する。レオナルドは「お、おう」と返事をしてくれた。
「モデルハウスみてーだな。これどうやってんだ?」
レオナルドが注目したのは工房。
普通に設置すれば、部屋の一角にある作業スペースになってしまうが。
工房自体にも観葉植物のような細かな家具を配置したり、壁に薬草を乾すように飾る事も可能だ。
「机にある本は書斎セットの一部。回復薬みたいな消耗アイテムも配置できるんだよ」
折角作った薬のストックも、購入したガラス棚の中へ魅せるように入れると、それっぽい雰囲気を醸し出せる。
そこにあるだけでも、世界観の演出にはいい。所謂、気持ちだ。
僕はボーッと内装を眺めるレオナルドに一つ聞く。
「そういえば……君の友達は?」
「ん? アイツな。単位がヤバイから当分はログインしないんだと、遊び過ぎなんだよ……ったく」
「……そうか」
それならいいんだ。
レオナルドとパーティ申請を出して、二面ボスのクエスト準備を始める。
だが、レオナルドは申請承諾をせずに僕へ視線を注いでいた。僕がふと顔を上げると、レオナルドが奇妙な事を尋ねる。
「なあ……お前、何が目的なんだ?」
皆さん、ブクマ、評価ありがとうございます。
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