ワンダーラビット
ブクマ登録、評価ありがとうございます。
通常より長めの内容になっています。
工房。
ログインしなくとも端末から放置製造可能な機能。
けど、薬剤師が個人経営する必要性はない気がする。ここは少々引っ掛かった。
レオナルドは、工房の内容を眺める僕に尋ねた。
「金足りんの?」
「大した金額じゃないから平気だよ。『工房』目的で個人経営店として建造しようかな」
「だと思った」
流石のレオナルドも僕の考えを分かってきたようだ。しかし、不安もあるようで……
「商品売るつもりじゃねえってことだろ? 大丈夫かよ」
「受付で確認するよ。多分、大丈夫じゃないかな。僕と同じ『工房』目的のプレイヤーは居るだろうからね」
商売報酬内容次第では売上のいざこざに発展しかねないが、ここは運営の賢明な手腕を期待するとしよう。
整理券番号の呼び出しがあり、僕とレオナルドは受付に足運ぶ。
担当するNPCに個人経営店の詳細を教えて貰った。
経営ノルマのようなものはない。
商売報酬に関してはサブイベントでランキング形式ではない。
個人経営店はギルドと連動可能。売上がギルドの貢献度に加算される。
売上だけではなく生産も商売貢献に加算される。
ただし、商売は行うこと。
薬剤師は薬品、鍛冶師は武器、刺繡師は防具のみ。
他の商品の販売は不可能。
商売をしなかった場合、個人経営店の権利は剥奪され、工房もろとも土地は消滅する……
薬剤師の強みは無人販売を行えることだろう。
鍛冶師・刺繡師もアプリなどで商品受注を行えるようだが、オーダーメイドなど客個人の注文が多い衣類・武器関係で無人は厳しい。
「大した事ではなくて助かったよ。適当にそれっぽく商品を並べておけばいいからね」
そういう訳で、僕は個人経営店兼工房を持った。
レオナルドと共に立地へ移動。僕たちは建物内に姿を現したが、中は家具もなにもない。がらんどうな空間だった。インテリア等はプレイヤー個人に委ねられる。
早速、建造物の設定を始め、道に隣接するように無人販売用の棚を設置。
レオナルドは僕に呆れていた。
「マジで誰も来ない場所選びやがったな……」
「よっぽどの物好きじゃないと足を運ばないし、周囲にまだ個人の一軒家もない。これから誰が来た所で無人販売を貫く人見知りだと思われる。挨拶周りする必要はないってことさ」
「徹底しまくってて引くぞ? 俺でも分かるぜ。ホントに誰もこねーだろ」
僕が選んだのは集会所や初期スポーン地点、掲示板、NPCの商店街といった人通りの多い場所から離れた所にある森林地帯。
春のエリアはそれなりに広い。
これから先、夏・秋・冬のエリアも含めるとVRMMOとしては十分な空間だ。
人目つかない森林から小川、花畑。
春のエリア特有の梅や桜の木々が植わる一帯。
景色は様々だ。
僕の選んだ森林地帯は、春っぽさの欠片もない周囲の景色が選んだ理由に加味している。
目立たないし、店内に誰も入れる予定はないが、見栄えだけは良くしておいた。
クエスト報酬で貰ったマニーを使い。無人販売所に花の飾りと看板娘ならぬ看板兎を配置。
店名を入れれば完成。
無難でありきたりだが『ワンダーラビット』と名付けた。
工房の設置はまだいい。まずは、必要なものを揃えなくては。
先に倉庫として利用する箱を部屋の端に設置し、中身はレオナルドと共有する事にした。
使い道のないアイテムを粗方整理し、何もない持ち物欄を眺め、レオナルドは不思議にも安堵の溜息をついているようだ。
僕はレオナルドに説明する。
「MP回復の『魔力水』とステータス強化系の薬を作製しに行こうか。僕たちだけでもメインクエストに挑戦できるようにね。向かうのは『花畑エリア』だ。主に植物系の素材を入手する為だけのマルチエリア」
「マルチ?」
「マルチエリアは他プレイヤーと共有する特殊なフィールドと解釈して欲しい。僕たちが受注したメインクエストとは別だよ。メインクエストは受注したプレイヤーとそのパーティだけが参加する」
レオナルドとパーティを組み、メニュー画面からエリア移動の欄にあるマルチエリアを選択。
『花畑エリア』を押すと、エリアの説明が宙に表示された。
「通常のマルチエリアは最深部にいるボスを討伐して、スポーン地点にあるクリスタルに触れる事でステージクリアだけど。『花畑エリア』はボスはいないから、スポーン地点のクリスタルに触れるだけで問題ないよ」
「生産職の為のエリアってことか」
「うん」
他にも鉱物系を入手する『鉱山エリア』。繊維系を入手する『草原エリア』がある。
僕はついでに助言した。
「レオナルド。マルチエリアではPKが出来るんだけど……君の友達から聞いてはいるかな」
「意味は分かる。……え、素材集めんとこでも出来んのか?」
「勿論。まだする人はいないと思うけどね」